なぜ労務が最重視されるのか

運送業は労働時間が長くなりやすく、賃金体系も複雑になりがちです。この2つが重なると割増賃金の計算に誤差が生じやすく、その誤差は過去にさかのぼって積み上がります。

買い手にとっては、引き継いだ後に請求を受ける可能性のある見えない負債です。だから慎重に調べます。

求められる主な書類

  • 直近数年分の勤怠記録(日報、デジタコ記録、勤怠システムの出力)
  • 賃金台帳と給与明細のサンプル
  • 就業規則・賃金規程・退職金規程とその届出状況
  • 36協定の写しと届出状況
  • 雇用契約書と、実際の支給内容
  • 労働保険・社会保険の加入状況がわかる資料
  • 健康診断の実施記録
  • 労働基準監督署からの是正勧告・指導の有無と対応記録
  • 過去の労使トラブル・請求の有無
  • 点呼記録、運転者台帳、安全教育の記録

指摘されやすい論点

  1. 記録の不一致:日報とデジタコ、勤怠システムの内容が食い違っている
  2. 荷待ち時間の扱い:待機が労働時間として計上されていない
  3. 割増賃金の計算:歩合給がある場合の計算方法が実態に合っていない
  4. 固定残業代:金額と対応時間数が明示されていない、超過分が未払い
  5. 手当の性質:割増賃金の基礎に含めるべき手当が除外されている
  6. 規程と実態の乖離:規程はあるが運用が違う
  7. 社会保険:加入要件を満たす従業員が未加入

事前に整えておくこと

すべてを完璧にしてから臨む必要はありません。優先順位は次のとおりです。

  1. 記録の方法を統一し、いま現在の運用を正しくする
  2. 賃金計算の方法を検証し、誤りがあれば計算式を直す
  3. 規程と実態を一致させる
  4. 過去分の影響額を概算で把握する

4は不安に感じるかもしれませんが、把握していること自体が評価されるポイントです。把握していない状態で調査に入られるほうが、はるかに不利になります。

指摘を受けたらどうなるか

実務では、次のような形で折り合いをつけることが一般的です。

  • 想定される金額を価格から控除する
  • 一定額を留保し、一定期間後に精算する
  • 表明保証の対象とし、後日判明した場合の負担を定める

つまり、課題があるから取引が壊れるとは限りません。壊れるのは、調査の途中で想定外のことが次々出てくる場合です。

準備の副産物

労務を整えることは、監査対策であり、採用と定着の改善であり、そして今の経営の適正化でもあります。M&Aをしない場合でも無駄になりません。

まとめ

労務デューデリジェンスは、隠すものではなく、説明するものです。何を見られるかがわかっていれば、準備はできます。

どこから手を付けるべきかは会社によって異なります。社会保険労務士等と連携し、優先順位からご提案します。

※ 本記事は一般的な考え方を整理したものです。労働時間・賃金に関する具体的な取扱いは、法令の改正や個別の労働条件、実際の運用によって異なります。是正を検討される際は、社会保険労務士等の専門家にご確認ください。