売上と利益だけでは足りない理由
相場に左右される事業では、金額の指標だけでは判断できません。
売上が減ったとき、原因は次のどれかです。
- 台数が減った
- 単価が下がった(相場)
- 歩留まりが落ちた
- 在庫が増えて出荷が減った
打つべき手はそれぞれ違います。だから分けて見る必要があります。
この業態で意味を持つ指標
候補を挙げます。すべてを見る必要はありません。
量の指標
- 入庫台数:事業の入口。引取元の区分別に見ると営業の状況が分かる。
- 解体台数:処理能力の実績。入庫との差が滞留を示す。
- 出荷トン数:品目別に。事業の量そのもの。
- 部品出庫点数:部品事業の量。
単価・効率の指標
- 1台あたり粗利:最も重要な指標のひとつ。
- 品目別の平均単価:相場の影響がここに出る。
- 1台あたりの回収量:解体の精度を示す。
- 在庫回転率、在庫日数:資金効率。
- 1台あたりの作業時間:生産性。
管理の指標
- 労災・ヒヤリハットの件数
- 移動報告の遅延件数
- 返品・クレーム件数
- 設備の停止時間
指標の計算のしかた
名前は同じでも、分母と分子の取り方で数字は変わります。社内で定義を決めて、変えずに続けることが前提です。定義が揺れると、前年と比べられなくなります。
| 指標 | 計算のしかた | 見るときの注意 |
|---|---|---|
| 入庫台数 | その月に受け入れた台数(引取元の区分別に) | 区分別に分けないと、営業の増減が相場の増減に紛れる |
| 解体台数 | その月に解体を終えた台数 | 入庫との差が滞留。差が続くなら処理能力か人手が足りていない |
| 1台あたり粗利 | (月の収入 − 直接費)÷ 解体台数 | 部品は数か月後に売れるため、単月では振れる。12か月で見る |
| 1台あたり回収量 | 品目別の出荷量 ÷ 解体台数 | 車種構成が変わると動く。車種群を揃えて比べる |
| 在庫日数 | 在庫金額 ÷ 1日あたりの出庫金額 | 滞留在庫を含めたままだと実態より長く出る |
| 1台あたり作業時間 | 工程の作業時間の合計 ÷ 解体台数 | 毎月測る必要はない。年1回、1週間で足りる |
| 移動報告の遅延件数 | 期限を過ぎた報告の件数 | 0が当たり前。増えたら現場の負荷か手順の問題を疑う |
迷ったら、いちばん簡単な取り方を選んでください。精度より継続です。1年並べば、多少粗くても傾向は読めます。
目標値をどう決めるか
「同業の平均はいくらか」を探しても、この業態では条件が違いすぎて当てになりません。目標は次の順で決めます。
- まず自社の実績を12か月分並べる:ここが出発点です。
- いちばん良かった月を見る:条件が揃えばそこまでは行けたという実績です。
- その月に何が起きていたかを確かめる:車種構成か、人員か、相場か。相場が理由なら目標にはできません。
- 自社で動かせる部分だけを目標にする:歩留まり、作業時間、在庫日数、報告の遅延。
他社比較ではなく自社の過去と比べる形にすると、現場も納得しやすくなります。届かない数字を掲げるより、届いたことのある数字を安定させるほうが効きます。
選び方
次の基準で絞ってください。
- 現場が動かせるものか:相場は動かせません。歩留まりは動かせます。
- 集計に手間がかからないか:続けられることが最優先。
- 行動が変わるか:見ても何もしない数字は要りません。
- 安全の指標が入っているか:生産だけを追う設計にしない。
4番目を必ず入れてください。並べる数字が行動を決めます。売上と台数だけを見る会議は、安全を犠牲にする方向に働きます。
見る順番
月次で確認する順序を示します。
- 安全:労災、ヒヤリハット。まずここから見る。
- 量:入庫台数、解体台数、出荷トン数。前年同月と比べる。
- 単価:品目別の平均単価。相場の影響を確認。
- 粗利:1台あたり。量と単価から説明できるか。
- 在庫:日数、滞留の状況。
- 管理:報告の遅延、クレーム。
1番目を最初にすることに意味があります。会議の冒頭で安全を扱えば、それが優先事項だと伝わります。
前年同月と比べる
この業態には季節性があります。前月比では判断を誤ります。
- 車検の時期に入庫が増える
- 年度末、年末に取引が集中する
- 夏場は作業効率が落ちる
- 連休で稼働日数が変わる
必ず前年同月と並べてください。そして稼働日数も併記すると、日当たりでの比較ができます。
現場と共有する
指標を社長だけが見ている状態では、行動が変わりません。
共有する際の工夫を挙げます。
- 現場が動かせる指標を選んで見せる:歩留まり、作業時間、在庫日数。
- 相場の影響を切り分けて示す:「単価は下がったが、量と歩留まりは維持している」
- 改善の効果を数字で返す:「選別を丁寧にした結果、単価が上がった」
- 安全の指標を必ず入れる
3番目が定着の鍵です。自分の作業が数字に表れると分かれば、行動が変わります。
指標が動かないときに疑うこと
改善したはずなのに数字が変わらない。このとき、原因は3つのどれかです。
- 取り方が変わっている:分母や集計の範囲が途中で変わっていないか。担当者が代わったときに起きやすい失敗です。
- 効果が別の指標に出ている:作業時間を短くしたら、粗利ではなく処理台数のほうが増えていた、という形です。狙った指標だけを見ていると見落とします。
- 相場に打ち消されている:歩留まりが上がっても単価が下がれば金額は動きません。量の指標と金額の指標を並べて見ると切り分けられます。
3番目が最も多く、そして最も誤解を生みます。金額だけを見て「改善しても意味がない」と判断してしまうと、現場の努力が続きません。相場の影響を切り分けて示すことが、続ける条件になります。
数字が出ない場合
始めようとすると、多くの会社で在庫評価の壁に当たります。月次が締まらないためです。
対応としては、次の考え方があります。
- 金額が出るのを待たず、量の指標から始める
- 台数とトン数は伝票から集計できる
- 在庫評価は決算時のみ正確に行い、月次は概算で回す
量の指標だけでも十分な価値があります。相場に左右されないため、むしろ現場の努力が見える指標です。
承継の場面での価値
買い手が知りたいのは、相場に左右されない部分での事業の実力です。
3年分の指標の推移を示せれば、次のことが伝わります。
- 量は伸びているか、維持されているか
- 歩留まりの水準
- 資金効率
- 安全管理の状況
- 改善が続いているか
そして金融機関との折衝でも同じ資料が使えます。月に1時間の作業で、経営の見える化と承継の準備が同時に進みます。
よくある質問
Q. 指標はいくつから始めればよいですか。 A. 3つで十分です。安全(労災・ヒヤリハット)、量(入庫台数と解体台数)、効率(1台あたり粗利、または在庫日数)。増やすのは、続けられると確認してからにしてください。
Q. 月次の在庫評価ができず、粗利が出せません。 A. 量の指標から始めてください。台数と出荷量は伝票から集計でき、相場に左右されないぶん現場の努力が見えます。在庫評価は決算時に正確に行い、月次は概算で回す形で構いません。
Q. 現場が数字を嫌がります。 A. 評価のための数字だと受け取られている可能性があります。現場が動かせる指標(歩留まり、作業時間、在庫日数)に絞り、改善の効果を数字で返してください。自分の作業が数字に表れると分かれば、見方が変わります。
Q. 承継のとき、何年分あればよいですか。 A. 3年分あると傾向が示せます。ただし、無い場合でも今から始める意味はあります。指標を取っている会社は、それ自体が管理体制の証拠として見られます。
1枚に収める
資料が複数枚になると読まれません。A4で1枚に収めてください。
実務的な構成を示します。
- 上段:安全(労災、ヒヤリハット)を1行で
- 中段:量の指標を、前年同月と並べた表で
- 下段左:単価と粗利の推移をグラフで
- 下段右:在庫日数、報告遅延などの管理指標
詳細が必要なら別紙にしてください。1枚目で全体が掴めることが大切です。
そして毎月同じ形にしてください。形が変わると比較できず、読む側も慣れません。
※ 指標の選び方は事業構成によって異なります。自社で継続できる範囲から始めてください。