価格算定の出発点
中小企業のM&Aでは、修正した純資産に収益力を反映した「のれん」を加える考え方がよく用いられます。この業態では、この「修正」の部分で在庫が焦点になります。
帳簿上の在庫がそのまま資産として認められるわけではありません。実在性と実売可能性を確認した結果、下方修正されるのが通例です。この修正幅が、そのまま価格に響きます。
在庫はどう評価されるのか
買い手の見方を、段階を追って説明します。
段階1:実在するか
帳簿に100点と記載された部品が、実際に倉庫にあるか。棚卸ができていない会社では、この段階で差異が出ます。差異が大きいと、確認できない在庫はゼロ評価に近づきます。
段階2:売れるか
存在していても売れなければ資産ではありません。判断材料になるのは滞留期間です。
- 直近で動いている在庫 → 帳簿価額に近い評価
- 1年以上動いていない在庫 → 相当程度の減価
- 数年動いていない在庫 → ほぼ評価されない、または処分費用として差し引かれる
3つ目が重要です。売れない在庫は、資産どころか負債として扱われることがあります。処分に費用がかかるためです。
段階3:状態は保たれているか
屋外に野積みされ劣化している、識別できない、部品番号が分からない。こうした在庫は、実際に売れる状態ではないと判断されます。
「在庫が多い」は強みではない
ここは誤解されやすい点です。倉庫が満杯であることを強みと考えて交渉に臨むと、期待と評価が食い違います。
買い手が見るのは総量ではなく、回転している在庫がどれだけあるかです。年間の売上に対して在庫が過大であれば、それは資金が寝ている状態と評価されます。
したがって、承継を意識するなら在庫を減らす方向が正しい準備になります。直感に反するかもしれませんが、滞留在庫を処分して在庫を圧縮したほうが、評価は安定します。
価格を押し上げる要素
逆に、この業態で評価が伸びやすい要素です。
① 相場に依存しない収益
解体業やスクラップ業と比べ、部品販売は金属相場の影響が小さくなります。将来の収益が読みやすいことは、買い手にとって大きな利点です。のれんの評価が伸びやすい構造だと言えます。
② 在庫管理システム
在庫の所在、滞留期間、回転率が追える状態は、そのまま価値になります。買い手は「引き継いでも回せる」と判断できます。
③ 会社として持つ販路
部品検索ネットワークへの参加、EC・自社サイト、記録化された取引条件。属人性のない販売チャネルは高く評価されます。
④ 安定した仕入元
複数の解体業者から安定的に仕入れられる関係。1社依存だと、その関係が切れるリスクを織り込まれます。
⑤ リビルト・加工の技術
単に取り外して売るのではなく、リビルトや検査・洗浄などの付加価値工程を持つ場合、模倣しにくい強みとして評価されます。
価格を下げる要素
- 棚卸ができておらず、在庫の実態が不明
- 滞留在庫が大量にある
- 販売が社長個人の関係に依存している
- 仕入元が1社に集中している
- 古物商許可の届出内容が現状と合っていない
- 公私の区別が曖昧で、本当の収益力が読めない
- 倉庫が賃借で、契約の承継可否が不明
共通するのは、買い手が「読めない」状態だという点です。読めないものはリスクとして割り引かれます。
相場の目安を当てにしない
「売上の○%」「営業利益の○年分」といった目安が語られることがありますが、この業態では在庫の質によって結果が大きく変わるため、目安をそのまま当てはめることはできません。
同じ売上・同じ利益でも、在庫が整理されている会社と滞留在庫を抱えた会社では、修正後の純資産が大きく違います。目安の数字より、自社の在庫を説明できる状態にすることに時間を使ってください。
価格以外の条件も見る
提示額だけで判断しないことも大切です。
- 従業員の雇用がどう扱われるか
- 経営者保証はいつ外れるか
- 倉庫が個人所有の場合、その扱いはどうなるか
- 譲渡後に一定期間の引継ぎを求められるか
- 支払いは一括か分割か
提示額が高くても条件が厳しければ、実質的な価値は変わります。総合的に比較してください。
まとめ
リサイクル部品販売業の売却価格は、在庫評価で大きく動きます。買い手は実在性・実売可能性・状態の3段階で在庫を見て、滞留在庫は減価、あるいは処分費用として差し引きます。
「在庫が多い」は強みではありません。回転しているかが問われます。承継を意識するなら、在庫を圧縮する方向が正しい準備です。
一方、相場に依存しない収益構造、在庫管理システム、会社として持つ販路、安定した仕入元は評価を押し上げます。相場の目安に頼らず、自社の在庫と販路を説明できる状態を作ることが結果につながります。