費用の構成要素
M&A仲介の報酬は、一般に次の要素の組み合わせです。
- 着手金:契約時に支払う。成約しなくても返還されないのが通例
- 月額報酬(リテイナーフィー):業務期間中、毎月支払う
- 中間金:基本合意の時点で支払う
- 成功報酬:成約時に支払う
- 最低報酬:成功報酬に下限を設ける設定
どれを採用するかは会社によって違います。成約に至らなかった場合にいくら残るのかが、比較の実質的なポイントです。
「完全成功報酬」とは
着手金・月額報酬・中間金がなく、成約したときにのみ報酬が発生する体系です。成約に至らなければ費用はかかりません。
当社はこの完全成功報酬制を採用しています。検討の途中で「やはり続ける」という結論になっても、費用は発生しません。
なお、「完全成功報酬」と称していても最低報酬が設定されている場合があります。小規模な案件では、この最低報酬が実質的な負担になるため、金額を必ず確認してください。
成功報酬の計算方法
一般的なのは、一定の基準額に段階的な料率を掛ける方式(レーマン方式)です。金額が大きくなるほど料率が下がる仕組みになっています。
確認すべきは「何に対して」料率を掛けるかです。株式の譲渡価額を基準とするか、負債を含めた総額を基準とするかで、報酬額は大きく変わります。
仲介手数料以外にかかる費用
- 弁護士費用(契約書のレビュー、法務デューデリジェンス)
- 税理士費用(税務の試算、財務デューデリジェンス)
- 社会保険労務士費用(労務の整理、是正の設計)
- 司法書士費用(登記手続き)
- 行政書士費用(許可の認可申請)
運送業では、許認可と労務の専門家が関わる場面が多くなります。誰がどこまで対応するのか、費用は誰の負担かを事前に整理しておきましょう。
契約前に確認する5点
- 成約しなかった場合に発生する費用はいくらか
- 成功報酬の計算基準(何に料率を掛けるか)と最低報酬
- 専属契約か、他社と並行して依頼できるか
- 契約期間と、中途解約の条件
- 買い手側からも報酬を受け取るのか(両手か片手か)
5は利益相反に関わる論点です。仲介は両当事者の間に立つ立場のため、その前提を理解したうえで依頼するかどうかを判断してください(仲介とFAでは立場が異なります)。
費用より大切なこと
手数料の安さだけで選ぶと、相手探索の幅や、運送業特有の論点への対応力が不足することがあります。許可・労務・車両の論点を理解しているかを、面談で確認してください。
いつ、誰に、いくら払うのか
費用の全体像は、支払う相手ごとに分けて考えると整理できます。仲介やアドバイザーへの報酬が中心ですが、それ以外にも専門家への費用が発生します。それぞれ発生する時期が違うため、資金の手当てを考えるときは時系列で並べてください。
着手金や月額報酬がある体系では、契約した時点から支出が始まります。中間金は基本合意の時点、成功報酬はクロージングの時点です。一方、弁護士や税理士への費用は、契約書の確認や税務の試算を依頼する段階で発生します。譲渡代金を受け取る前に出ていく費用がどれだけあるのかを、先に把握しておくと安心です。
完全成功報酬の体系であれば、譲渡代金を受け取るのと同じ時期に報酬を支払うことになるため、事前の資金負担はほぼありません。小規模な会社ほど、この点は実務的に大きな違いになります。
計算基準の違いで何が変わるか
成功報酬の計算は、基準となる金額に料率を掛けて求めます。この基準額の取り方に、主に二つの考え方があります。株式の譲渡価額だけを基準にするものと、それに負債を加えた総額を基準にするものです。
借入の少ない会社では両者の差は小さくなりますが、車両を多く抱え、リースや借入が積み上がっている運送会社では、差が大きくなります。同じ料率であっても、基準額が変われば報酬額はまったく違う金額になります。「料率が他社より低い」という説明を受けたときは、必ず基準額の定義とセットで比べてください。
契約書では、この定義が「移転対象財産価額」「企業価値」といった言葉で書かれています。用語の意味はその契約書の中で定義されているので、条文をたどって、具体的に何が含まれるのかを確認してください。口頭の説明だけで判断しないことが大切です。
最低報酬は小規模ほど効いてくる
最低報酬とは、計算した成功報酬がその額に満たない場合でも、その額を支払うという定めです。譲渡金額が大きい案件では意識されませんが、小規模な案件では、実際に支払う金額がこの最低報酬そのものになることが少なくありません。
つまり、料率の高低が結果に影響しない領域があるということです。譲渡金額の見込みが最低報酬の水準に近いのであれば、比べるべきは料率ではなく最低報酬の額です。ここを確認せずに「完全成功報酬だから安心」と考えると、成約時に想定と違う請求を受けることになります。
見積もりをどう取り、どう比べるか
複数の会社に相談するなら、同じ前提を伝えて見積もりを出してもらってください。譲渡金額の想定、スキーム、借入の額。前提が違えば金額も違うため、そのままでは比較になりません。
比べるときに並べたいのは、次の項目です。成約しなかった場合に支払う総額、成約した場合の総額、計算の基準額、最低報酬の有無と額、契約期間、中途解約の条件。金額の一点だけを見て決めると、破談時の負担を見落とします。
そのうえで、金額の差が小さいのであれば、費用ではなく担当者の理解度で選んだほうが結果はよくなります。運送業の許認可や労務の論点を理解していない相手に依頼すると、条件の交渉で不利になる場面が出てきます。
契約書のどこを見るか
アドバイザリー契約や仲介契約の書面では、次の条項を確かめてください。いずれも、後から問題になりやすい箇所です。
- 報酬の定義と計算方法:基準額、料率、最低報酬
- 報酬の発生時期:何をもって成約とし、いつ支払うのか
- 専任か否か:他社に同時に依頼できるか
- 契約期間と更新:自動更新の定めがないか
- 中途解約:解約できるか、その場合の費用
- 直接交渉の制限:契約終了後、紹介された相手と自力で話を進められない期間
- 両手か片手か:買い手側からも報酬を受け取るのか
最後の直接交渉の制限は見落とされがちです。契約が終わった後も一定期間、紹介を受けた相手とは自分たちだけで交渉できないという定めが入ることがあります。期間と対象範囲を確認しておいてください。
手取りで考える
費用の話は、単独で考えても意味がありません。譲渡代金から費用を引き、さらに税を引いた後にいくら残るのか。この手取りベースの数字が、実際に手元に入る金額です。
受け取り方によっても手取りは変わります。すべてを株式の譲渡代金として受け取るのか、一部を役員退職金として受け取るのか。どちらが有利かは会社の状況によって異なり、一概には言えません。だからこそ、条件を詰める前の段階で、顧問税理士に試算を依頼しておく価値があります。
試算を後回しにすると、最終契約の段階で「思っていた金額と違う」となり、そこから条件を戻すのは困難です。金額の話が具体的になってきたら、遅くともそのタイミングで依頼してください。
買い手が負担する費用
売り手の費用ばかりが気になりますが、買い手にも費用が発生しています。デューデリジェンスの費用、契約書の作成と確認、登記や許認可の手続き。これらは通常、買い手の負担です。
知っておく意味は二つあります。一つは、買い手が調査に費用をかけている以上、途中で理由なく話を止めると相手に実損が出るということ。もう一つは、その費用があるからこそ、買い手は本気の案件にしか調査へ入らないということです。調査に進んだ時点で、相手はかなり真剣に検討していると考えてよいでしょう。
途中でやめたらどうなるか
検討を進めた末に「やはり続ける」という結論になることは、実際にあります。そのときに何が残るのかは、契約の体系によって変わります。完全成功報酬であれば、仲介への報酬は発生しません。着手金や中間金がある体系では、支払った分は戻らないのが通例です。
ただし、どの体系であっても、自社で依頼した税理士や弁護士への費用は残ります。また、資料の準備に費やした時間も戻りません。それでも、その過程で自社の数字と課題が整理されたことは残ります。譲渡を選ばなかった場合でも、次の経営判断に使える材料にはなります。
費用にまつわるよくある誤解
「相談は有料だろう」——初回の相談や、簡易な評価まで無料としている会社は多くあります。費用が発生するのはアドバイザリー契約を結んでからです。相談の段階で費用がかかるかどうかは、最初に確認すれば済みます。
「手数料の安いところが得」——手数料の差より、譲渡条件の差のほうが金額としては大きくなります。相手探しの幅、交渉の質、業界の理解度。これらが結果に与える影響は、手数料の数字の違いを上回ることがあります。
「無料と言われたから費用はゼロ」——買い手側から報酬を受け取る前提で、売り手からは受け取らないという体系もあります。それ自体は成り立つ仕組みですが、その場合に誰の利益のために動くのかは理解しておく必要があります。仲介とFAの違いで整理しています。
費用の話をいつ切り出すか
最初の相談の場で費用を尋ねることに、遠慮を感じる方がいます。しかし、これは早い段階で確認しておくべき事項です。契約を結んでから体系を知り、想定と違ったために進められなくなる、というのが最も避けたい展開だからです。
聞き方は単純で構いません。「成約しなかった場合、いくら払うことになりますか」「成約した場合の総額は、どういう計算になりますか」。この二つを最初の面談で聞いて、明快に答えられない相手であれば、その時点で判断がつきます。答えを渋る、あるいは「案件によります」で終わらせる相手には、書面での提示を求めてください。
相談の段階で費用が発生するかどうかも、あわせて確認しておきましょう。多くの場合、初回の相談や簡易な評価までは無料ですが、そこから先の線引きは会社によって異なります。どこから費用が発生するのかを最初に把握しておけば、安心して相談を重ねられます。
専門家に払う費用は何を買っているのか
仲介への報酬以外に、税理士や弁護士への費用が発生します。この支出をどう考えるかで、譲渡の結果は変わります。
弁護士に契約書を見てもらう費用は、条項一つ分の交渉で回収できることがあります。表明保証の範囲、補償の上限と期間、競業を避ける義務の年数。これらはいずれも、譲渡した後に自分を縛る条件です。範囲が広すぎる条項に気づかず署名すれば、その後の負担は費用の何倍にもなり得ます。
税理士に手取りを試算してもらう費用も同じです。受け取り方の設計によって手元に残る金額は変わりますし、その設計は条件を詰める前でなければ選べません。後から気づいても、契約の枠組みを変えることは難しくなります。
これらは、仲介やアドバイザーが代わりに担ってくれる部分ではありません。仲介は双方の間に立つ立場ですし、アドバイザーも税務や法務の専門家ではないためです。自分の側だけを見てくれる専門家を別に置くという発想を持ってください。
費用をかける順番としては、税務の試算が先、契約書の確認が後です。試算がないまま条件を決めると、その後で契約書だけを見てもらっても手遅れになります。金額の話が具体的になった段階が、税理士に声をかける目安です。
なお、これらの費用は譲渡に関連して発生するものとして扱われますが、計上の時期や取り扱いは個別の事情によって変わります。実際の処理は、顧問税理士に確認してください。
費用の全体像がつかめると、譲渡そのものの判断もしやすくなります。いくら入ってきて、いくら出ていくのか。この見通しが立たないうちは、条件の良し悪しも判断できません。早い段階で数字を並べておくことをおすすめします。
まとめ
費用体系は会社ごとに異なります。「成約しなければゼロか」「計算基準は何か」「最低報酬はいくらか」。この3点を押さえれば、比較できます。
当社は完全成功報酬・相談無料です。費用のご質問も遠慮なくお寄せください。