家族経営の強み

まず前提として、家族経営には明確な強みがあります。

  • 意思決定が速い
  • 短期の業績に左右されず、長期で判断できる
  • 苦しい時期に踏ん張れる
  • 従業員との距離が近い

この強みを壊さずに承継するのが目標です。

課題1:家族と会社の境界が曖昧

最もよくある課題です。

  • 社長個人の車を会社が保有している
  • 社長所有の土地・建物を会社が使っているが契約書がない
  • 家族に実態のない給与を払っている
  • 会社の口座と個人の資金が行き来している
  • 家族の生活費が会社の経費に混ざっている

なぜ問題か

  • 会社の本当の利益が分からない:経営判断ができない
  • 金融機関の評価が下がる
  • M&Aで必ず指摘され、価格が下がる
  • 税務上の問題になりうる

解決策

会社のものと個人のものを分けてください。 分けたうえで、必要なものは契約書を作って正規の取引にする。土地なら賃貸借契約、貸付なら金銭消費貸借契約です。公私混同の解消が最優先である理由をご覧ください。

課題2:役員報酬が実態と合っていない

「奥様が経理担当で役員」「息子が専務」という形で、実際の勤務や貢献と報酬が対応していないケースがあります。

解決策

職務と報酬を対応させてください。 実際に働いているなら適正額を、働いていないなら整理を。承継後、後継者が説明できる形にしておくことが重要です。

また、役員報酬は利益の調整に使われがちですが、M&Aでは正常な水準に引き直して評価されます。決算書の見え方を整えるをご覧ください。

課題3:兄弟・親族間の調整

複数の子どもがいる場合、必ず出てくる論点です。

よくある形

  • 長男が会社を継ぎ、次男は別の道
  • 兄弟2人とも会社にいる
  • 子どもは継がず、甥や娘婿が継ぐ

原則

経営権(株式)は集中、財産は公平。 この2つを分けて考えてください。

株式を平等に分けると、経営が動かなくなります。かといって、継がない子に何も渡さなければ争いの種になります。会社以外の資産、生命保険、代償金などで調整するのが実務です。

相続人が複数いる場合の株の分け方相続・自社株対策 完全ガイド保険の活用と解約返戻金をご覧ください。

兄弟が2人とも社内にいる場合

役割と権限を明確に分けてください。 「兄が代表、弟が営業担当役員」といった形です。曖昧なまま並列にすると、社員がどちらに従うか分からなくなります。

また、どちらが株式を持つかは先送りしないこと。次の世代で問題が拡大します。

課題4:家族以外の社員との関係

家族経営の会社では、長年勤めた番頭格の社員がいることが多くあります。

起きやすいこと

  • 後継者(若い息子)より現場を知っている
  • 「自分が支えてきた」という自負がある
  • 承継のタイミングで離職する

解決策

後継者を支える役割として、明確に位置づけてください。 役職、権限、処遇。「あなたが必要だ」と伝えることが最も効きます。

逆に、後継者と折り合いが悪いことが明らかな場合は、承継前に処遇を決めておくほうが混乱が小さくなります。従業員へ承継を伝えるタイミングと伝え方をご覧ください。

課題5:家庭の話と経営の話が混ざる

食卓で経営の話をし、会社で家庭の話をする。距離が近いことの副作用です。

解決策

  • 経営会議を設ける:日時を決め、議題を決め、議事録を残す
  • 家族以外を入れる:顧問税理士など第三者が同席すると議論が整理される
  • 決めたことは文書にする

課題6:配偶者の立場

社長の配偶者が経理や総務を担っているケースは多くあります。承継では次が論点になります。

  • 実務の引き継ぎ:経理の実務が属人化していることが多い
  • 株式を持っているか:相続時の扱い
  • 退任のタイミング:社長と同時か、ずらすか

経理業務のマニュアル化は、思っているより時間がかかります。 早めに着手してください。バックオフィスの引き継ぎをご覧ください。

M&Aを選ぶ場合

家族に継ぐ人がいない場合、第三者への譲渡も選択肢です。家族経営の会社で特に確認されるのは次の点です。

  • 公私混同の整理状況
  • 家族役員の処遇(譲渡後も残るか)
  • 社長個人所有の不動産の扱い
  • 家族間の合意(株式を持つ全員の同意)

家族の誰か一人でも反対すると、話が止まります。 先に家族内の合意を作ってください。家族への切り出し方をご覧ください。

境界を引き直す作業の進め方

会社と家庭を分けるべきだとわかっていても、長年混ざってきたものを解くのは骨が折れます。順序を決めておくと進みます。

最初にやるのは、現状の洗い出しです。会社名義で家族が使っている資産、家族名義で会社が使っている資産、会社と個人の間の貸し借り、実態のない支出。責める作業ではなく、事実を並べる作業として進めてください。顧問税理士に手伝ってもらうと、見落としが減ります。

次に、それぞれをどう扱うか決めます。会社に必要なものは会社に残し、個人のものは個人に戻す。どちらとも言えないものは、契約を作って正規の取引にする。土地や建物なら賃貸借契約、資金の貸し借りなら書面を交わします。

最後に、これから混ざらない仕組みを作ります。個人の支出を会社の口座から出さない、家族の給与は勤務の実態に合わせる、経費の承認を一人で完結させない。仕組みにしておかないと、時間が経てば元に戻ります。

一度に全部は片づきません。金額の大きいものから、あるいは説明が難しいものから手をつけると、効果が実感できます。

不動産の扱いが後で効いてくる

家族経営の運送会社では、車庫や営業所の土地建物が社長個人の名義になっていることがよくあります。会社が使っているのに契約書がない、あるいは賃料が相場からかけ離れている。この状態は、承継の場面で必ず論点になります。

親族に継がせる場合、その不動産をどうするかを決めておかないと、相続の場面で会社と家族の利害がぶつかります。会社が使い続けるのに、名義は会社を継がない子に渡るということも起こります。

第三者に譲る場合は、さらに直接的です。買い手は、その土地建物を使い続けられるのかを気にします。一緒に買うのか、借り続けるのか、借りるならいくらでいつまでか。決まっていないと、条件の交渉が進みません。

どちらの道でも、まず賃貸借の契約を整えるところからです。相場に沿った条件で書面を作れば、会社の損益も実態に近づきますし、引き継ぐ側にも説明ができます。

兄弟が二人とも社内にいる場合の具体策

役割と権限を分けるべきだと言われても、実際にどう分ければよいのかは悩ましいところです。運送会社であれば、分け方の軸はいくつかあります。

ひとつは機能で分ける方法です。一方が運行と現場、もう一方が営業と管理。日常の判断が重ならないので、衝突が起きにくくなります。

もうひとつは拠点で分ける方法です。営業所が複数あるなら、それぞれを任せる。数字も分けて見られるので、成果がはっきりします。

いずれの場合も、最終的な決裁を誰が持つのかは決めておいてください。並列にすると、判断が分かれたときに止まります。社員から見て、どちらが上なのかがわからない状態がいちばん困ります。

そして、株式の持ち方を先送りしないことです。仲が良いうちは問題になりませんが、配偶者や子の世代に渡ったときに立場が変わります。誰が経営を持つのかを、株式の形で明確にしておいてください。

番頭格の社員をどう位置づけるか

家族経営の会社を実際に回してきたのが、家族ではない古参の社員だということはよくあります。配車を握っている、荷主との関係を持っている、行政の対応を一人でやっている。

この人が承継のタイミングで辞めると、会社は大きく傾きます。にもかかわらず、家族の話として承継が進むと、本人は蚊帳の外に置かれます。それが離職の引き金になります。

早い段階で、本人に直接伝えてください。承継を考えていること、その中でどんな役割を担ってほしいこと、処遇をどうするつもりであること。相談する形で伝えると、支える側に回ってもらいやすくなります。

役職を用意することも有効です。名目だけでなく、決裁の範囲を持たせる。後継者が若い場合、経験のある人が正式に権限を持っているほうが、社内は安定します。

逆に、後継者と折り合いがつかないことが見えているなら、無理に残すより処遇を決めて区切るほうが、双方にとって傷が浅く済みます。

家族会議を会社の会議と分ける

経営会議を設けるべきだと書きましたが、家族経営ではもうひとつ必要な場があります。家族としての話し合いの場です。

会社の会議で相続や個人資産の話をすると、家族以外の出席者が居づらくなります。逆に、食卓で会社の数字の話をすると、家族の関係に業務が持ち込まれます。場を分けるだけで、どちらの議論もしやすくなります。

家族の話し合いには、会社に関わっていない家族も入れてください。株式や不動産の話は、その人たちにも関わります。後から知らされるのがいちばん揉めます。

この場にも、第三者を入れると議論が整理されます。税理士でも、外部の相談先でもかまいません。感情が入りやすい話題なので、記録を残す人がいるだけで進み方が変わります。

強みを壊さずに整えるということ

公私を分け、報酬を実態に合わせ、会議を設ける。ここまでの話は、家族経営の会社を普通の会社に近づける作業に見えるかもしれません。速さや長期で判断できる強みが失われるのではないか、という懸念はもっともです。

実際には、失われるものは多くありません。分けるのは会計と契約の話であって、意思決定の速さではないからです。むしろ、数字が正確に見えるようになれば、判断はより速くなります。

長期で判断できるという強みも、株式が集中していれば保たれます。分散させないことが、この強みを守る条件です。

変えないほうがよいのは、従業員との距離の近さです。承継を機に形式を整えようとして、朝礼や点呼の場から経営者が消えると、それは失うだけです。整えるところと、そのまま残すところを分けて考えてください。

継がない子にどう説明するか

経営権は集中させ、財産は別の資産で公平を図る。原則としてはそのとおりですが、実際には会社の外に十分な資産がないという家庭のほうが多いはずです。

その場合に大事なのは、事情を隠さず説明することです。会社の株式は換金しにくいこと、借入の保証がついていること、継ぐ側は資産を受け取るというより責任を引き受けること。これを伝えないまま「会社は兄が継ぐ」とだけ言うと、優遇されたように見えます。

説明する時期は、相続が起きてからでは遅すぎます。親が元気なうちに、自分の口から伝えるしかありません。第三者から聞かされる形になると、意図が伝わりません。

納得が得られない場合もあります。それでも、説明した内容と経緯を記録に残しておいてください。遺言と併せて意図が読み取れる材料があるかどうかで、その後の展開が変わります。

数字を家族で共有する

家族経営の会社で意外に多いのが、家族なのに会社の数字を知らないという状態です。社長と配偶者、あるいは社長と顧問税理士だけが実情を知っていて、後継者候補も他の家族も知らない。

この状態では、継ぐかどうかの判断ができません。継がないという判断も、根拠のないまま下されることになります。

共有する範囲は、家族の関わり方によって決めてかまいません。会社に入っている家族には損益と資金繰りまで、入っていない家族には借入と保証の状況まで。少なくとも、会社が背負っているものは全員が知っている状態にしてください。

共有の場としては、決算が固まった後に年一度集まる形が続けやすいはずです。税理士に同席してもらえば、説明の負担も減ります。

どこから手をつけるか

課題を並べると重く見えますが、着手の順序は決まっています。最初は公私の分離です。ここが片づかないと、会社の実際の利益がわからず、他のどの判断も根拠を持ちません。

次が、株式が誰の名義で何株あるかの確認です。古い会社ほど、名義だけ借りた株主が残っていたり、記録が更新されていなかったりします。ここは時間がかかるので早めに始めます。

その後が、役員報酬の実態合わせ、配偶者の業務の文書化、幹部社員の位置づけ、家族への説明と続きます。どれも数か月では終わりませんが、始めていれば毎年少しずつ前に進みます。

まとめ

家族経営の承継では、会社と家庭の境界を引き直すことが出発点です。経営権は集中させ、財産は別の資産で公平を図る。家族以外の幹部社員の位置づけを明確にし、配偶者が担う実務の引き継ぎにも時間を確保してください。いずれも早く始めるほど選択肢が広がります。