何が変わったか
| 従来の企業間物流 | EC物流 | |
|---|---|---|
| 荷姿 | パレット、ケース | 個口、小型 |
| 頻度 | 少頻度・大ロット | 多頻度・小ロット |
| 届け先 | 企業・店舗(固定) | 個人宅(不定) |
| 時間 | 営業時間内 | 時間指定、夜間 |
| 作業 | フォークリフト | 手作業、ピッキング |
| 返品 | 少ない | 多い |
1件あたりの単価は小さく、件数が多いという構造です。効率が採算を決めます。
この表の違いは、そのまま必要な体制の違いになります。手作業が増えれば人が要り、届け先が不定なら経路が読めず、返品が多ければ処理の手間が生じます。
だから、企業間の物流を主にやってきた会社が受けようとすると、体制を作り直す必要が出てきます。同じ倉庫、同じ車、同じ人員では回りません。
逆に言えば、この体制を持っていること自体が強みになります。作るのに時間と投資がかかるため、簡単には真似されません。
運送会社にとっての機会
1. 庫内作業の需要が増える
EC では、保管よりピッキング・梱包・出荷の作業量が大きくなります。倉庫を持つ会社にとっては、作業料という収益機会です。
ただし、人手がかかるため、人員の確保が前提になります。倉庫の保管料と附帯作業料をご覧ください。
2. 一貫受託の機会
保管 → 受注処理 → ピッキング → 梱包 → 配送。まとめて引き受けられれば単価が上がり、荷主も切り替えにくくなります。3PLへの転換をご覧ください。
3. ラストワンマイルの需要
大手だけでは配りきれず、地域の運送会社への委託が広がっています。近距離・日帰りの仕事という点で、採用面の利点もあります。
4. 拠点の需要
EC の拡大により、都市近郊の物流施設への需要が高まっています。立地の良い倉庫を持つこと自体が価値になります。車庫・倉庫の不動産を持つ会社の評価をご覧ください。
四つの機会のうち、二つ目の一貫して引き受ける形が、最も収益につながります。保管だけ、配送だけを受けるより、通して受けるほうが単価も上がり、相手も切り替えにくくなります。
ただし、通して受けるには体制が要ります。受注を処理する仕組み、庫内の作業を回す人員、配送の手段。どれかが欠けると受けられません。
だから、いきなり全部を受けようとせず、できる部分から始めるのが現実的です。まず保管と出荷を受け、配送は既存の関係を使う。慣れてから範囲を広げる。
三つ目の配りきれない分を引き受ける形は、始めやすい入口です。ただし、単価が低く、件数で稼ぐ構造になるため、採算の管理が欠かせません。
運送会社にとっての負担
1. 単価が低い
1件あたりの単価は小さく、件数をこなさないと採算に乗りません。効率が悪いと、働くほど赤字になります。
2. 不在・再配達
最大の非効率です。再配達問題への対応をご覧ください。
3. 時間指定の負担
細かい時間指定は、配送ルートの効率を大きく下げます。
4. 人手が必要
庫内作業も配送も、人がかかる領域です。人手不足の中で、これをどう確保するかが課題になります。
5. 波動が大きい
セール、季節、キャンペーン。物量の変動が激しく、体制の維持が難しくなります。
6. システムが必要
件数が多いため、手作業では回りません。WMS、配送管理、追跡情報の提供が前提になります。WMS導入の効果と落とし穴をご覧ください。
六つの負担のうち、五つ目の波動が最も対応しにくい部分です。物量が読めなければ、人も設備も余らせるか足りなくなるかのどちらかになります。
対応するには、繁忙の時期をあらかじめ聞いておくことが要ります。荷主の側では、催事や販売の計画を持っています。早く共有してもらえれば、人の手配ができます。
共有してもらえない場合は、こちらで過去の実績から読むことになります。数年分の記録があれば、どの時期に増えるかは見えてきます。
人手の確保は、繁忙の時期だけ増やす形が現実的でしょう。ただし、作業に慣れるまで時間がかかるため、毎年同じ人に来てもらえる関係を作っておくと安定します。
参入を検討するときの確認事項
- 1件あたりの単価と、必要な件数:損益分岐を計算する
- 作業に必要な人員:確保できるか
- 波動への対応:繁忙期の人員と設備
- システムの投資:金額と回収期間
- 荷主との契約期間:投資を回収できる長さか
- 返品・不在の扱い:料金に反映されるか
5番目が特に重要です。EC 事業者の入れ替わりは早く、投資が回収できないまま契約が終わることがあります。自動倉庫・マテハン投資をご覧ください。
一つ目の損益が分かれる件数は、必ず計算してください。一件あたりの原価と単価がわかれば、固定費を賄うのに何件必要かが出ます。この件数に届く見込みがないなら、受けるべきではありません。
計算するときは、繁忙期の件数で見ないでください。年間を通じた平均で見て、それでも成り立つかを確かめます。繁忙期だけで判断すると、閑散期に赤字が出ます。
六つ目の返品と不在の扱いは、契約の段階で決めておく必要があります。後から交渉するのは難しく、しかも件数が積み上がると金額も大きくなります。
採算の見方
EC 物流では、1件あたりの原価を正確に把握することが不可欠です。
- 庫内作業:ピッキング1件、梱包1件あたりの時間と人件費
- 配送:1件あたりの時間、走行距離
- 再配達:発生率と、その分の原価
- 返品処理:発生率と原価
「件数が増えれば儲かる」とは限りません。 1件あたりが赤字なら、増えるほど損をします。キロ単価・時間単価の考え方、目標利益から逆算した値決めをご覧ください。
一件あたりの原価を出すには、作業の時間を測る必要があります。ピッキングに何分、梱包に何分、配送に何分。実測すれば、おおよその数字が出ます。
測るときは、慣れた人と慣れていない人の両方で測ってください。平均で見ないと、実態から離れます。繁忙の時期と平常時でも差が出ます。
再配達と返品の発生する割合も、必ず入れてください。この二つは、その分の作業が丸ごと追加されるものです。割合が高ければ、原価は大きく変わります。
出した原価と、受け取る単価を比べます。この比較をせずに件数だけを追うと、忙しいのに残らない状態になります。件数が増えるほど損をする構造にもなり得ます。
既存事業との組み合わせ
EC 物流だけに転換するのではなく、既存の企業間物流と組み合わせる形が現実的です。
- 閑散期を埋める
- 車両の稼働を平準化する
- 荷主を分散する(荷主分散が価値に効く理由)
荷主を分散させるという意味でも、この組み合わせには価値があります。業種が違えば、景気の影響の受け方も違います。片方が落ちても、もう片方が支えることがあります。
ただし、両方に力を分けることで、どちらも中途半端になる危険もあります。人も設備も限られているなら、どちらを主にするかは決めておいたほうがよいでしょう。
M&Aでの評価
EC 物流に対応できる体制(倉庫、システム、作業人員)は、買い手にとって価値のある機能です。企業間物流中心の会社が、EC 対応力を求めて買収するケースもあります。
ただし、特定の EC 事業者への依存度は必ず見られます。譲受側から見た運送会社M&Aの狙いをご覧ください。
特定の事業者への依存が見られるのは、この分野で取引の入れ替わりが早いからです。一社に大きく依存していれば、その一社が離れたときの影響も大きくなります。
だから、依存の度合いを数字で把握しておいてください。上位の取引先が売上の何割かを占めているか。この数字は、承継の場面で必ず聞かれます。
体制そのものは価値として評価されます。倉庫、仕組み、作業できる人員。これらを一から作るには時間がかかるため、持っていること自体が意味を持ちます。
荷主が変わることを前提に考える
この分野では、取引の入れ替わりが早いという特徴があります。事業者の状況が変わりやすく、物流の委託先も見直されやすいためです。
だから、投資をするときは回収の期間を短めに見ておく必要があります。契約の期間より長くかかる投資は、途中で取引が終われば戻りません。
投資が必要なら、条件を先に詰めてください。期間、途中で終わった場合の扱い、量についての取り決め。これらを決めずに設備を入れるのは危険です。
逆に、汎用性のある投資なら、荷主が変わっても使えます。特定の商品にしか使えない設備と、どの荷物にも使える設備では、リスクがまったく違います。
既存の事業と組み合わせる
この分野だけに寄せるのではなく、今の事業と組み合わせるほうが安定します。波動の時期が違えば、互いに補い合えるためです。
組み合わせるときに見たいのは、繁忙の時期が重ならないかです。両方が同じ時期に忙しいと、体制が持ちません。ずれていれば、人と車の稼働がならされます。
人員についても、両方をできる人がいると融通が利きます。庫内の作業と配送の両方をこなせる人がいれば、日によって配置を変えられます。
ただし、教える手間は増えます。どこまでを兼務にするかは、規模と人数を見て決めることになります。
返品と不在をどう扱うか
この二つは、この分野に固有の負担です。しかも、こちらの努力では減らしきれない部分があります。
だから、料金の取り決めに含まれているかを確認してください。返品の処理を無償でやっているなら、その作業量は費用として出ています。件数と時間を測れば、金額として示せます。
不在についても同じです。再度届ける作業には、初回と同じだけの手間がかかります。この扱いが決まっていないと、件数が増えるほど採算が悪化します。
減らす工夫も並行して進める価値があります。事前の連絡、置く場所の取り決め、受け取る方法の選択肢。相手の協力が得られれば、率は下がります。
参入するかどうかの判断
この分野に入るかどうかは、六つの確認事項に答えてから決めてください。答えられない項目があるなら、まだ判断の材料が足りません。
特に、人員が確保できるかは決定的です。仕事があっても人がいなければ受けられません。しかも、この分野は人手がかかります。
システムへの投資も、避けて通れません。件数が多いと手作業では回らず、誤りも増えます。投資の額と、回収できる期間を見てください。
入らないという判断も、十分に合理的です。今の事業で採算が取れているなら、無理に広げる必要はありません。人手が限られているなら、今の仕事に集中するほうが残ることもあります。
庫内の作業をどう組むか
この分野の作業は、人の手による工程が中心になります。だから、作業の組み方が採算を直接左右します。
まず見たいのは、動く距離です。取りに行く距離が長ければ、それだけ時間がかかります。よく出る商品を手前に置く、動線に沿って並べる。配置を変えるだけで、時間が変わります。
まとめて処理できる部分がないかも確認してください。同じ商品を含む注文をまとめて取れば、往復が減ります。この工夫は、件数が多いほど効きます。
誤りを減らす仕組みも欠かせません。違うものを送れば、回収と再送で二重の費用がかかります。読み取りによる確認を入れれば、誤りは大きく減ります。
作業の時間を人ごとに測っておくと、教育の材料にもなります。速い人のやり方を聞き取って共有すれば、全体が上がります。
荷主に提案できること
この分野では、こちらから提案できる余地が多くあります。荷主が物流に詳しいとは限らないためです。
提案しやすいのは、梱包の資材と方法です。過剰な梱包は資材費も作業時間も増やします。商品に合った形にできれば、双方の費用が下がります。
商品の情報を整えてもらうことも、提案の一つです。寸法や重さが正確にわかっていれば、箱の選定も配送の手配も速くなります。
締めの時刻についても相談の余地があります。受注を締める時刻を少し早めてもらえれば、作業に余裕が生まれ、誤りも減ります。
こうした提案が通ると、単に運ぶ相手から、一緒に考える相手に変わります。この関係が、取引の継続につながります。
まとめ
EC 物流は小口・多頻度への構造変化をもたらし、庫内作業とラストワンマイルという機会を生みました。一方で単価が低く、人手とシステムが必要で、波動も大きい領域です。1件あたりの原価を正確に把握し、契約期間と投資回収を比較してから参入を判断してください。