EBITDAとは何か

EBITDAは、次のように計算します。

EBITDA = 営業利益 + 減価償却費

なぜ減価償却費を足し戻すのか。減価償却はお金が出ていかない費用だからです。実際の現金の出入りに近い形で稼ぐ力を見るために、いったん戻します。

買い手が知りたいのは「この会社は毎年いくら現金を生むか」なので、会計上の利益より実感に近いこの指標が使われます。

倍率をかけて価値を出す

実務では次のような形で企業価値を見ます。

事業の価値 = EBITDA × 倍率
株式の価値 = 事業の価値 - 純有利子負債(借入金 - 現預金)

この「倍率」は決まった数字ではなく、業種・規模・成長性・買い手の事情で変わります。中小企業のM&Aでは数倍程度のレンジで語られることが多いものの、案件ごとの差が非常に大きいため、特定の数字を前提に考えるのは危険です。

運送業でEBITDAを使うときの三つの注意点

1. 車両投資が続く前提を忘れない
EBITDAは減価償却を足し戻すため、車両更新の負担が見えなくなります。トラックは走り続ける限り買い替えが必要です。買い手は必ず「毎年いくら車両に投資が必要か」を見て、EBITDAから差し引いて考えます。

車齢が高く、近いうちに大量の更新が必要な会社は、EBITDAが同じでも評価が下がります。

2. リースの扱いで数字が変わる
所有車両なら減価償却として足し戻されますが、オペレーティングリースなら賃借料として費用のまま残ります。所有中心の会社とリース中心の会社は、そのままではEBITDAを比較できません。買い手はここを揃えて見ます。

3. 傭車比率で構造が違う
自社車両で運ぶ会社と、傭車中心の会社では、固定費と変動費の比率がまったく違います。EBITDAの金額が同じでも、荷量が減ったときの耐性が異なります。

「正常収益力」に直してから使う

決算書のEBITDAをそのまま使うことは、まずありません。買い手は次のような調整を加えて正常収益力を出します。

  • 足し戻す:役員報酬のうち過大な部分、社長の私的な支出、家族への名目的な給与、事業に無関係な保険料
  • 差し引く:計上していない役員退職金の引当、適正水準に足りない償却、社長が無償で担っている業務を人を雇って代替する費用
  • 除く:車両売却益、補助金収入、一過性の大口案件

役員報酬の足し戻しは、中小企業では影響が大きい調整です。公私混同の解消が最優先である理由で触れたとおり、内訳を自分から整理して出すほうが有利に働きます。

倍率が上がる会社・下がる会社

上がりやすい

  • 荷主が分散している(荷主分散が価値に効く理由
  • 直取引が多い
  • 運賃改定を実現した実績がある
  • ドライバーの定着率が高く、平均年齢が若い
  • 倉庫や流通加工など、輸送以外の収益がある

下がりやすい

  • 売上の大半が1社に依存している
  • 車齢が高く更新投資が迫っている
  • 労務リスクが未整理(未払残業代の整理
  • 社長がいないと回らない
  • 利益の変動が大きく説明できない

EBITDAだけで決まるわけではない

中小の運送会社では、EBITDA倍率だけでなく時価純資産+営業権の考え方も併用されます。車庫や倉庫の不動産を持つ会社では、こちらのほうが実態に合うこともあります。時価純資産+営業権の考え方をあわせてご覧ください。

また、赤字の会社でも売却は可能です。EBITDAがマイナスでも、許可・車両・人・荷主に価値があるためです。赤字の運送会社でも売却できるかで整理しています。

自社で概算するときは

営業利益に減価償却費を足し、役員報酬の過大分を戻す。ここまでは決算書と申告書があれば自分でできます。その先の倍率は、実際の買い手候補が何を評価するかで動くため、幅を持って見るのが現実的です。

この指標が使われる理由

会計上の利益ではなく減価償却前の数字が使われるのは、買い手の関心が現金の動きにあるからです。借入を返し、車両を入れ替え、手元に残るのがいくらか。この見当をつけるための出発点になります。

もうひとつの理由は、会社ごとの違いを取り除けることです。償却の方法や耐用年数の取り方が違えば、営業利益は変わります。金利の水準も、資本構成によって違います。これらを除いた数字なら、事業そのものの稼ぐ力を比べられます。

ただし、比べられるのは同じ条件に揃えたときだけです。運送業ではリースと所有が混在するため、そのままでは比較になりません。この点は後で詳しく触れます。

そして、この数字は万能ではありません。現金が出ていく投資を無視しているので、投資が重い業種では実態から離れます。運送業はまさにその典型です。

車両投資を差し引いて見る

買い手は毎年いくら車両に投資が必要かを見て、そこから差し引いて考えます。だから、こちらもその数字を用意しておくべきです。

出し方は難しくありません。過去数年で車両にいくら支出したかを並べ、年平均を出す。あわせて、今後数年で何台の入れ替えが必要かを車齢から見積もり、その金額を出します。

この二つを並べると、過去の水準と今後の見込みが比べられます。今後のほうが大きければ、投資の山が来るということです。逆に、直近で更新を終えているなら、しばらくは軽く済みます。

後者の状態なら、それは強みとして説明できます。「直近三年で主力の車両を入れ替えたので、今後数年は大きな支出がありません」。この説明があれば、同じ数字でも評価が変わります。

逆に、投資の山が来るなら、隠さず示してください。予測できるリスクとして扱われれば、条件で調整できます。予測できないと思われると、大きめに見積もられます。

リースと所有を揃えて見る

所有している車両の費用は償却として足し戻されますが、リースの賃借料は費用のまま残ります。だから、リース中心の会社は数字が小さく出ます。

この差は、実力の差ではありません。調達の方法が違うだけです。買い手はこの点を揃えて見るので、こちらも揃えた形で説明できると誤解を防げます。

具体的には、リース料のうち実質的に元本の返済にあたる部分がいくらかを示します。そのうえで、残債を負債として認識する。この形にすると、所有している会社と同じ土俵で比べられます。

準備としては、リース契約の一覧を作るところからです。台数、月額、残債、満了時期。この表があれば、揃える計算ができます。

傭車の比率で耐性が変わる

自社の車両で運ぶ会社と傭車が中心の会社では、同じ数字でも意味が違います。費用の構造が違うからです。

自社の車両で運ぶ会社は、固定費が重くなります。荷量が減っても、車両の費用も人件費も出ていきます。そのかわり、荷量が増えたときの利益の伸びは大きくなります。

傭車が中心の会社は、荷量に応じて費用が動きます。減っても傷が浅く済みますが、増えても利益は大きく伸びません。

買い手が見るのは、荷量が減ったときにどうなるかです。だから、固定費と変動費の比率を示せると、耐性が説明できます。あわせて、過去に荷量が落ちた期に何が起きたかを示せると、実績としての説得力があります。

正常収益力への調整を先に出す

決算書の数字がそのまま使われることはありません。調整の中身を、こちらから先に整理して出すほうが有利です。

足し戻される代表が、役員報酬の過大な部分です。中小の会社では影響が大きく、ここを整理して示すだけで数字の見え方が変わります。あわせて、経営者個人の車両、生命保険、私的な性格の支出、家族への実態のない給与も対象になります。

逆に差し引かれるものもあります。役員の退職金の引当が計上されていない場合、その分。適正な水準に足りない償却。そして、社長が無償で担っている業務を人を雇って代替する費用。この最後の項目は見落とされやすいところです。社長が配車も営業も経理も担っているなら、代わりの人を雇う費用が差し引かれます。

そして、一度きりの要因は除かれます。車両の売却による損益、補助を受けた収入、保険金、大口の一時案件、事故による特別な損失。

これらを自分で整理して出せば、実際の収益力が伝わります。指摘されてから説明すると、他の数字も疑われます。

倍率は事業の安定性への評価

倍率が上がる会社と下がる会社の条件を挙げましたが、その背後にある考え方は単純です。この数字が来年も再来年も続くと信じられるかどうかです。

荷主が分散していれば、一つ切れても続きます。直取引が多ければ、運賃を自分で決められます。値上げの実績があれば、原価が上がっても対応できます。人が定着していれば、車両が動きます。輸送以外の収益があれば、荷動きの変動に耐えられます。

逆に、一社に依存していれば、その一社次第です。車齢が高ければ、近いうちに現金が出ていきます。労務が読めなければ、後から負担が湧きます。社長がいないと回らなければ、経営者が代わった瞬間に数字が変わります。

つまり、倍率を上げるための特別な施策はありません。事業が続く根拠を積み上げることが、そのまま倍率に反映されます。

二つの方法を併用する意味

中小の運送会社では、収益から出す方法と資産から出す方法が併用されます。両方を出して比べるのが実務です。

不動産を持っている会社では、資産から出した数字のほうが大きくなることがあります。古くから土地を持っている会社では、含み益が価値の大部分を占めることも珍しくありません。

逆に、資産は薄いが安定して利益が出ている会社では、収益から出した数字のほうが実態に近くなります。

差が大きい場合、その理由そのものが交渉の論点になります。資産は厚いが稼げていないのか、資産は薄いが稼いでいるのか。どちらの説明を用意できるかで、交渉の展開が変わります。

自分で概算する範囲

営業利益に償却費を足し、役員報酬の過大な部分を戻す。ここまでは決算書と申告書があれば自社でできます。

そのうえで、車両への年間の投資額を差し引いてみてください。この数字が、実質的に手元に残る現金に近くなります。ここが小さければ、収益力があるように見えても実態は厳しいということです。

倍率については、幅を持って見るのが現実的です。相手が違えば評価も変わりますし、事業の安定性への見方も一様ではありません。特定の数字を前提に期待を固めると、提示を受けたときに落差を感じます。

そして、この概算は年に一度更新してください。準備が進めば数字も動きます。自分で確かめられるようになることが、続ける支えになります。

数字より、続くと信じてもらえるか

算定の方法を説明してきましたが、実務でいちばん効くのは計算そのものではありません。その数字が来年も出ると相手に思ってもらえるかどうかです。

同じ数字を出している二社があっても、片方は荷主が分散していて人が定着していて、社長が抜けても回る。もう片方は一社依存で、社長が全部を握っている。この二社の評価は同じになりません。

だから、資料で示すべきなのは金額だけではありません。その金額がどこから来ているのか、何によって支えられているのか、経営者が代わっても続くのか。ここを説明できる会社が、高く評価されます。

逆に言えば、数字の作り方を工夫しても限界があります。調整の仕方で見え方は多少変わりますが、事業の実態は変わらないからです。準備に時間をかける価値があるのは、実態そのものを変えられるからです。

提示された倍率を鵜呑みにしない

「◯倍で成約した」という話を聞くことがあります。ただ、その数字をそのまま自社に当てはめるのは危険です。

まず、その案件の会社がどんな状態だったかが分かりません。荷主の構成、車齢、労務の状態、社長への依存度。条件が違えば、倍率も違います。

次に、何に対する倍率かが違うことがあります。調整前の数字なのか、調整後なのか。車両への投資を差し引いているのか、いないのか。定義が違えば、同じ倍率でも意味が変わります。

そして、買い手の事情も反映されています。どうしてもその地域に拠点が欲しい相手なら、高めの提示になることがあります。それはその会社の実力というより、相手の事情です。

だから、他社の事例を聞くときは、条件と定義を確かめてください。確かめられないなら、参考程度にとどめるのが安全です。

まとめ

EBITDAは「営業利益+減価償却費」で、稼ぐ力を大まかに測る指標です。運送業では車両更新の負担とリースの扱いに注意が必要で、実務では正常収益力に調整してから倍率をかけます。数字の作り方より、その数字が続くと信じてもらえるかが価格を決めます。