価格算定への影響
M&Aの価格算定では、事業価値から有利子負債を差し引いて株式の価値を求める考え方が使われます。リース債務も実質的な負債として扱われるのが一般的です。
したがって、リースが多い会社は、同じ収益力でも株式の価値が小さくなる傾向があります。これは不利というより、資産を持たない分だけ負債も見えているという構造の違いです。
オフバランスに注意
会計処理の方法によっては、リース債務が貸借対照表に計上されていないことがあります。この場合、決算書だけを見ても実際の負担が分かりません。
デューデリジェンスでは必ず契約書ベースで確認されます。売り手側も、契約一覧と残債総額を自分で把握しておくべきです。「知らなかった」では済まされません。
確認すべき契約条件
- 残存期間と残債総額(契約ごとに一覧化する)
- 中途解約時の清算金の計算方法
- 満了時の扱い:再リース、買取、返却
- 支配権変更時の条項:株主が変わる際に貸主の承諾が必要か
- 保証:経営者個人の連帯保証が付いていないか
4と5は特に重要です。承諾が必要な契約が多いと、クロージングまでの手続きが増えます。個人保証が付いている場合は、その解除も交渉事項になります。
買い手が気にすること
- 今後数年でリースが満了し、まとめて更新投資が必要にならないか
- リース料の水準が市場と比べて割高になっていないか
- 稼働していない車両にリース料を払い続けていないか
3つ目は実際によくあります。遊休車両のリースは、収益を圧迫するだけでなく、管理の甘さを示すサインとして見られます。
廃業を選ぶ場合
廃業ではリースを中途解約することになり、清算金が一括で発生します。台数が多いほど負担は大きく、廃業費用の中で最も重い項目になることもあります。
この点は、承継と廃業を比較するうえで見落とせません。M&Aが成立すれば、リースは引き継ぐ側で扱われるのが原則だからです。
事前に整えておくこと
- 全リース契約の一覧化(貸主・対象車両・残存期間・残債・月額)
- 契約書の原本の所在確認
- 支配権変更条項と個人保証の有無をチェック
- 遊休車両のリースを整理する
- 今後3年の満了スケジュールと、更新方針を作る
1と3は、思い立てば数日でできます。やっていない会社が多いぶん、やるだけで差がつきます。
リースか購入かの判断
承継を見据えるなら、今後の車両調達をリースにするか購入にするかも検討課題です。資金繰り、税務、そして将来のスキームへの影響を踏まえて決めてください。
リースが多いこと自体は不利ではない
残債が価格から差し引かれると聞くと、リースを使ってきたことが失敗だったように感じるかもしれません。そうではありません。
車両を購入していれば、その分だけ借入があるか、手元の資金が減っています。資産として計上されるかわりに、負債として計上されるか現預金が薄くなっている。リースの場合は、資産も負債も表に出にくいだけで、実質的な構造は変わりません。
買い手が見ているのは、毎月いくら出ていくのか、あと何年続くのか、その後にいくら必要になるのかです。所有かリースかという形式ではなく、キャッシュがどう動くかを見ています。
だから、不利になるのはリースを使っていることではなく、リースの中身を把握していないことです。契約の一覧が出せない会社は、その時点で管理を疑われます。
計上されていない負担をどう出すか
会計処理の方法によって、リース債務が貸借対照表に載っていないことがあります。この場合、決算書だけでは実際の負担が読めません。
調査では契約書ベースで確認されるので、いずれ表に出ます。問題は、売り手側が把握していないまま指摘されることです。「そんな契約があったのか」という反応をすれば、他の項目についても同じ疑いを持たれます。
自分で出す方法は単純です。毎月の支払いを一覧にし、それぞれが何の契約かを確かめる。口座の引き落としとカードの明細から、支払先を洗い出します。そこから契約書をたどり、残期間と残債を書き出す。
この作業で、忘れていた契約が出てくることがあります。何年も前に導入した設備、既に使っていない機器、更新されたまま気づいていない契約。整理の対象が見つかること自体、作業の成果です。
中途解約の条件を読んでおく
清算金の計算方法は契約によって違います。残りの支払額をそのまま求められる場合もあれば、一定の割合が控除される場合もあります。
この条件は、廃業を選ぶ場合の費用を左右します。台数が多い会社では、清算金が廃業費用の中で最も重い項目になることがあります。承継と廃業を比べるとき、この金額を出さずに比較すると判断を誤ります。
譲渡の場合でも、車両を減らす計画があるなら関係してきます。稼働していない車両のリースを整理しようとして、清算金の大きさに驚くということが実際にあります。
だから、契約ごとに清算の条件を確認し、今解約したらいくらかかるかを概算しておいてください。そのうえで、満了まで持つのか、途中で整理するのかを判断します。
支配権が変わるときの承諾
株主が変わる際に貸主の承諾が必要かどうかは、譲渡の日程に直接響きます。
台数が多い会社では、リース会社も複数にわたります。それぞれに承諾を求め、社内の決裁を経て回答が来るまでに時間がかかります。譲渡の日程を組んだ後に着手すると、間に合いません。
準備としては、まず契約書を全件確認し、該当する条項があるかを洗い出します。そのうえで、どのリース会社に何台分の契約があるかを一覧にしてください。この作業は、譲渡を検討する段階で済ませておく性質のものです。
また、リース会社に相談すること自体が情報の漏えいにつながる可能性があります。いつ誰がどう伝えるかは、専門家と段取りを組んでから動いてください。
個人保証が付いていないか
リース契約に経営者個人の連帯保証が付いていることは珍しくありません。ところが、借入の保証は把握していても、リースの保証は意識されていないことがあります。
会社を譲っても、この保証が残れば意味がありません。譲渡の条件として、いつ誰がどう外すのかを議題に載せてください。金融機関の保証と同じく、自動的に切り替わるわけではありません。
確認の方法は、契約書の署名欄を見ることです。会社の代表者としての署名と、連帯保証人としての署名は別です。両方に名前があれば、個人としても負っています。
台数が多い場合、この確認だけでも時間がかかります。契約書の原本がどこにあるかを把握するところから始めてください。
遊休車両のリースをどう扱うか
稼働していない車両にリース料を払い続けている状態は、収益を圧迫するだけでなく、管理の甘さを示すものとして見られます。
ただ、整理しようとすると清算金が発生します。だから、判断には計算が要ります。満了まで払い続ける総額と、今解約した場合の清算金を比べ、どちらが小さいかを見る。あわせて、その車両を売却した場合の金額も考慮に入れます。
計算して満了まで持つほうが得だという結論になることもあります。その場合は、そう判断した理由を記録に残してください。買い手に指摘されたときに、把握したうえで判断していることが示せます。
逆に、遊休の理由がドライバー不足であれば、車両の整理より人の手当てが先です。人が入れば動く車両を手放してしまうと、後で調達し直すことになります。
満了の時期が集中していないか
買い手が気にするのは、今後数年でまとめて更新投資が必要になるかどうかです。同じ時期に導入した車両は、同じ時期に満了を迎えます。
確認の方法は、契約の満了年月を並べてみることです。特定の年に集中しているなら、そのタイミングで大きな支出が発生します。買い手はこれを織り込んで条件を考えるため、実質的に価格が下がります。
集中しているとわかったら、平準化を検討してください。一部を前倒しで更新する、逆に再リースで後ろにずらす。すぐには均せなくても、方針を持っていることが示せれば、想定外の減額を防げます。
あわせて、満了後にどうするかも決めておきます。再リースするのか、買い取るのか、返却して新しい車両を入れるのか。契約ごとに方針が書かれていれば、そのまま更新計画になります。
これからの調達をどうするか
承継を見据えるなら、今後の車両調達をリースにするか購入にするかも検討の対象です。判断の材料をいくつか挙げます。
資金繰りの面では、リースのほうが初期の負担が軽くなります。手元の資金を厚く保てるという利点があります。一方、長期で見れば支払総額は大きくなる傾向があります。
譲渡の場面では、所有している車両は資産として評価され、リースは負担として扱われます。ただ、前述のとおり実質的な構造は変わらないので、どちらが有利とは一概に言えません。
税務の扱いも異なるため、顧問税理士と相談したうえで方針を決めてください。そして、決めた方針を書き残しておくこと。調達の考え方が説明できる会社は、それだけで管理された会社として見られます。
リース料の水準が妥当か
買い手が確認する項目のひとつに、リース料が市場の水準と比べて割高になっていないかがあります。長く同じ会社と付き合っていると、条件を見直す機会がないまま更新が続きます。
確認の方法は、同等の車両を今調達するとしたらいくらかを調べてみることです。複数のリース会社に見積もりを取れば、おおよその水準が分かります。承継の話とは関係なく、日常の見直しとして進められます。
差があった場合、既存の契約をすぐ変えることはできませんが、次の調達から条件を改善できます。そして、見直しに取り組んだ記録が残ります。買い手から見れば、費用に注意を払っている会社ということです。
逆に、割高な条件が続いている理由がある場合もあります。整備や代車の対応が含まれている、支払いの猶予に応じてもらった経緯がある。そうした事情があるなら、それを説明できるようにしておいてください。金額だけを見て非効率と判断されるのを防げます。
契約書の所在を確かめる
一覧を作ろうとして最初につまずくのが、契約書が見つからないという問題です。何年も前の契約ほど、どこにあるか分からなくなります。
探す場所としては、事務所の書庫、経理の担当者の手元、顧問税理士に預けたままになっているもの、そして貸主側の控えです。自社に原本がなくても、リース会社に依頼すれば写しが取れることがあります。
見つかったものは、一か所にまとめて保管してください。譲渡の場面では、調査の段階でまとめて求められます。そのときに探し始めると、日程が延びます。
あわせて、電子で交わした契約がないかも確認します。近年の契約は、担当者個人のメールにデータだけが残っていることがあります。その担当者が退職すれば、たどれなくなります。
一覧に何を書くか
整理の出発点になる一覧について、載せる項目を具体的にしておきます。
まず、貸主の名称と担当の連絡先。次に、対象となる車両の車番と車種。そして、契約の開始と満了の年月、残りの期間、月額の支払い、残債の総額。ここまでが基本です。
これに、確認した結果を書き足します。中途解約したときの清算金の考え方、支配権が変わるときに承諾が必要か、個人保証が付いているか、満了後にどうする方針か。
表計算の一枚で足ります。作るのに数日、更新は年に一度で済みます。やっていない会社が多いぶん、やるだけで差がつく作業です。
そして、この一覧は承継の場面以外でも使えます。金融機関に設備投資の相談をするとき、保険を見直すとき、資金繰りの計画を立てるとき。同じ情報を参照します。作る手間は一度きりです。
買い手に説明するときの順序
資料が揃ったら、どう見せるかも考えておいてください。数字を並べるだけでは、負担の大きさばかりが目に入ります。
順序としては、まず全体の台数と、そのうちリースが何台かを示します。次に、満了の時期をならべた表。そのうえで、今後の更新方針を説明する。最後に、残債の総額と月額の支払いを出します。
この順で示すと、リースが計画の中に位置づけられていることが伝わります。逆に、残債の総額から入ると、その数字だけが印象に残ります。
説明できるかどうかは、資料の有無ではなく、方針を持っているかどうかです。同じ残債でも、いつ何をどうするかが決まっている会社と、そうでない会社では、受け止められ方が違います。
まとめ
リースは便利な調達手段ですが、M&Aでも廃業でも残債という形で必ず表に出ます。契約を一覧にし、条件を把握しておくこと。それが最初の一歩です。
整理の進め方や、価格への影響の見積もりについてご相談ください。