どういう場面で使うか

  • 在庫の評価で、売り手と買い手の見解が大きく違う
  • 買い手が、自社の販売網に乗らない商材を引き受けたくない
  • 在庫が多すぎて、譲渡価格が膨らみ買い手の資金調達が難しい
  • 売り手が、一部の在庫は自分で売り切りたい

3つの設計パターン

  1. 在庫を除いて譲渡し、売り手が自分で処分する
  2. 在庫を除いて譲渡し、売れた分だけ後から精算する(委託販売に近い形)
  3. 在庫を選別し、買い手が引き取る分と売り手が持つ分に分ける

3番目が最も実用的です。買い手が売れる商材だけ引き取り、残りは売り手が業者間市場などで処理するという分担です。

価格の分け方

在庫を別建てにすると、価格が2つに分かれます。

  • 事業(営業権・設備・顧客・従業員)の対価
  • 在庫の対価:数量×単価で算定

分けることで、在庫の評価をめぐる交渉が、事業全体の交渉から切り離せます。これが最大の利点です。

売り手が残す在庫の処理

残した在庫を、どう現金化するかを先に決めてください。

  • 業者間市場に出す
  • 同業者への一括引き取り
  • ECで売り切る(ただし、事業を譲った後は販路が限られます)
  • 買い手に委託販売してもらう(契約が必要)

「後で考える」は危険です。事業を渡した後は、売る手段が急に狭まります。

委託販売にする場合

買い手の店舗で売ってもらい、売れた分だけ精算する形です。

  • 委託の期間を決める
  • 販売価格の決定権をどちらが持つか
  • 手数料率
  • 期間内に売れなかった分の扱い(引き取るか、処分するか)
  • 保管中の破損・紛失の責任

委託品は買い手の在庫ではありません。会計上も区別が必要になります。

税務上の論点

  • 在庫の譲渡は、事業譲渡の場合、消費税の課税対象になり得ます
  • 売り手側で、在庫を売却した損益が発生します
  • 価格の配分によって、税負担が変わることがあります

必ず税理士に相談してから設計してください。

注意点

  • 在庫を除くと、事業の対価だけになり、譲渡価格の総額は下がって見える
  • 残した在庫の処理に時間と手間がかかる
  • 処理価格が想定を下回ると、結果的に手取りが減る

どの設計が適するかを判断する

在庫を分けて扱う方法にはいくつかの形があります。状況で選んでください。

  • 在庫を全部売り手が引き取る — 評価の争点が完全に消えます。ただし処分先が必要です
  • 一部の在庫だけ除外する — 滞留在庫や特殊な品目に限る形です
  • 在庫だけ別契約で売買する — 評価方法を別途取り決めます
  • 委託販売に切り替える — 売れた分だけ精算する形です
  • アーンアウトを併用する — 販売実績に応じて後払いする形です

2番目が最も現実的な着地点になることが多くあります。在庫全体を除外すると、買い手は開店直後に品揃えのない状態から始めることになります。争点になっている滞留在庫だけを除外すれば、双方の懸念が解消されます。

売り手が残す在庫をどう処理するか

引き取った在庫の出口を、事前に決めておいてください。

  1. 業者間市場でまとめて処分する — 最も早く現金化できます
  2. 他の同業に一括で売る — 複数社に見積もりを取ります
  3. 時間をかけて個別に売る — 保管場所と、古物商許可の維持が必要です
  4. 処分する — 費用を見込んでおきます
  5. 買い手に委託販売してもらう

3番目を選ぶ場合、許可の維持に注意してください。事業を譲った後も在庫を販売するなら、古物営業に該当する可能性があります。許可の維持が必要かどうか、また競業避止義務との関係を、所轄の警察署と弁護士に確認してください。

税務と契約上の論点

在庫を分けて扱う場合、確認すべき事項があります。

  • 譲渡の方式による違い — 株式譲渡では、在庫は会社に残ります
  • 在庫を会社から引き出す場合の処理 — 手法によって税務上の扱いが異なります
  • 消費税の取り扱い — 事業譲渡では論点になります
  • 委託販売とする場合の会計処理
  • アーンアウトの場合の課税時期
  • 契約書での明確化 — 何が譲渡対象で、何が対象外かです

いずれも専門的な判断を要します。税理士・弁護士に必ずご確認ください。とくに株式譲渡の場合、会社に在庫が残るため「在庫を除く」という設計自体に工夫が必要です。手法を決める前に相談してください。

まとめ

在庫の別建ては、評価の交渉を切り離せる有効な設計です。買い手が引き取る分と売り手が持つ分に分けるのが現実的。

残す在庫の処理方法を、必ず先に決めてください。税務は税理士に確認を。

※ 本記事は一般的な考え方を整理したものです。税務上の取扱いや補助金の対象・要件は、制度の改正や個別の事情によって異なります。実際の判断にあたっては、税理士等の専門家および管轄窓口にご確認ください。