在庫が多い会社ほど、相続税は重くなりやすい
リユース業は、利益が出ていなくても資産が積み上がる業種です。仕入れた商品が売れずに残れば、その分だけ棚卸資産が増えていきます。
相続で問題になるのは、この棚卸資産が会社の株の評価額を押し上げることです。手元に現金がなくても、株の評価だけは高く出る。そこに相続税がかかります。
「うちは儲かっていないから相続税は関係ない」と考えている経営者ほど、実際に試算すると数字を見て驚かれます。
この構造は、業績が良い会社だけの問題ではありません。むしろ利益が薄いまま在庫が積み上がっている会社ほど、資産だけが厚く、現金だけが薄い状態になりやすいのです。損益計算書ではなく、貸借対照表の棚卸資産の欄を見てください。
自社株評価の仕組みを、ざっくり押さえる
非上場会社の株は市場価格がないため、決められた方法で評価します。中小企業では、会社の規模に応じて次の考え方が組み合わされます。
- 純資産価額方式:会社の資産を相続税評価額に置き換え、負債を引いて1株あたりを出す
- 類似業種比準方式:同業種の上場会社の数値と、自社の配当・利益・純資産を比べる
リユース業のように資産が厚く利益が薄い会社では、純資産価額方式の影響が大きく出ます。つまり在庫を持っているほど評価が上がる構造です。
細かな計算は税理士の領域ですが、経営者として押さえておきたいのは「何を減らせば評価が下がるのか」という方向感です。在庫を軽くする、利益の出方を平準化する、退職金の支給を織り込む——いずれも数年かけて効いてくる打ち手です。
なぜ在庫が評価を押し上げるのか
棚卸資産は、原則として帳簿に載っている金額をもとに評価されます。実際にはもう売れない商品でも、簿価が落ちていなければ資産として数えられてしまいます。
ここが実務上の急所です。5年前に仕入れて棚の奥に沈んでいる商品は、経済的にはほぼ価値がありません。しかし評価減を計上していなければ、簿価のまま資産に残ります。
対策の方向ははっきりしています。売れない在庫を、生前に処理しておくことです。滞留在庫を整理すれば、株の評価も、納税額も下がります。しかも本業にとってもプラスです。
処理を先延ばしにする理由はたいてい2つです。損失を出したくないという気持ちと、「いつか売れるかもしれない」という期待です。どちらも自然な感覚ですが、先延ばしにしている間も評価額は高いままだという点は押さえておいてください。会計上・税務上の処理には要件があるため、税理士にご相談ください。
納税資金は在庫では払えない
相続税は原則として現金で、期限内に納めます。棚に商品があっても、それで納税はできません。
相続が起きてから在庫を換金しようとすると、時間がありません。急いで売れば買い叩かれます。結果として、納税のために事業に必要な在庫まで手放す、という事態が起こります。
手当ての方向は主に4つです。
- 生前に滞留在庫を処理して、評価額そのものを下げる
- 生命保険を使って納税資金を用意する
- 役員退職金の支給を織り込み、株価と資金の両面で調整する
- 生前贈与で、株を計画的に移しておく
4つのうち、いちばん効果が大きく、かつ本業にも良い影響が出るのは1番目です。税のためだけの対策ではなく、在庫を軽くすることが経営そのものの改善になるからです。他の3つは専門家の関与が前提になるため、順序としては1から着手するのが現実的です。
個人事業の場合:古物商許可は相続できるのか
個人で古物商許可を取っている場合、注意が必要です。許可は個人に紐づいているため、そのまま自動的に引き継がれるわけではありません。
相続人が事業を続ける場合には、定められた期間内に承継の届出などの手続きが必要になります。手続きを取らないまま営業を続けると、無許可営業になりかねません。
また、事業用の在庫や店舗も、相続人が複数いれば遺産分割の対象になります。店を継ぐ人に事業用資産をまとめられないと、営業そのものが止まります。
将来を見据えるなら、生前に法人化しておく選択も検討に値します。法人であれば、株の承継という形で整理でき、許可も法人のものとして残ります(ただし法人化の際は法人として許可を取り直す必要があります)。
法人化を検討する場合、時期の選び方には注意が必要です。許可の取り直し、取引先との契約の切り替え、許認可以外の届出など、ある程度まとまった手間がかかります。繁忙期を避け、余力のある時期に計画して進めるほうが確実です。具体的な取扱いは管轄の警察署と税理士にご確認ください。
相続が起きてしまった後の順序
すでに相続が発生している場合、営業を止めないことを最優先に、次の順で動いてください。
- 許可と届出の確認:個人許可の場合、期限のある手続きがあります。まずここを押さえます
- 預かり品・修理品の確認:お客様の物を預かっている場合、返却の責任が残ります
- 取引口座と支払いの継続:仕入先・オークション会場との取引が止まらないようにします
- 在庫の実地棚卸し:評価と分割の前提になります
- 遺産分割の協議:事業用資産を継ぐ人に集約できるかを話し合います
- 相続税の申告:期限があります。早めに税理士へ
この6つのうち、期限があるのは1と6です。ここを外すと、営業の継続そのものや税負担に直接の影響が出ます。悲しみのなかで手続きを進めるのは負担が大きいため、早い段階で専門家に入ってもらい、期限のあるものだけでも整理してもらってください。
家族と共有しておきたい5つの情報
相続の準備で見落とされやすいのが、情報の引き継ぎです。本人しか知らないことが多いと、残された家族は事業の実態をつかむのに時間を使うことになります。
- 取引金融機関と、借入・個人保証の状況
- 仕入先・オークション会場の口座と、担当者の連絡先
- 古物商許可の内容と、管理者の選任状況
- 預かり品・修理品の一覧と保管場所
- 在庫の実態(日齢の分布と、実際に売れる価格帯)
紙1枚にまとめて、保管場所を家族に伝えておくだけで十分です。最後の項目は、継がない家族との話し合いでも効いてきます。棚に並ぶ商品が見た目どおりの財産ではないことを、数字で共有しておけるからです。
生前にできる4つの手当て
いま元気なうちにできることは、次の4つに整理できます。効果が出るまでに時間がかかる順です。
- 滞留在庫の処理:3年かければ、評価額を大きく下げられます。本業にも効きます
- 株の生前贈与:評価が下がっている時期に移すのが定石です
- 遺言の作成:事業用資産を継ぐ人に集める意思を残します
- 納税資金の準備:保険や退職金原資の手当て
なお、事業承継税制という制度もありますが、将来M&Aを選ぶ可能性がある場合は慎重な検討が必要です。適用後の要件を満たせなくなると、猶予されていた税額の納付が必要になることがあります。
制度の利用を検討する場合は、将来どの道を選ぶ可能性があるかを先に整理しておくことが大切です。親族内で継ぐ前提の制度を使った後にM&Aへ方針を変えると、想定していなかった負担が生じることがあります。選択肢を狭めない形で準備を進めるという視点を持ってください。
継がない子への配慮を、セットで考える
店を継ぐ子に株と事業用資産を集めると、他の子の取り分が少なくなります。ここを放置すると、相続後に争いになります。
リユース業で難しいのは、在庫が「見た目には財産に見える」ことです。継がない側からは、棚に並ぶ商品が資産に見えます。しかし継いだ側にとっては、売り切らなければ現金にならない負担でもあります。
この認識のずれを埋めるには、在庫の実態(日齢と実売価格)を家族に説明しておくのが有効です。数字を共有しておくだけで、後の話し合いがまったく違うものになります。
説明の場は、一度で終わらせないほうがうまくいきます。数字を見せて考えてもらい、時間を置いてまた話す。この繰り返しのなかで、家族それぞれの希望が言葉になっていきます。相続の準備は、書類をつくる前に会話を重ねる段階があると考えてください。
まとめ
リユース会社の相続は、在庫の扱いに集約されます。売れない在庫を抱えたままにすると、評価額だけが高くなり、納税資金が足りなくなります。
最初の一歩は、自社株の評価額を一度試算してもらうことです。金額が分かれば、何年かけて何をすべきかが見えてきます。
試算の依頼は、決算書があれば進められます。「まだ元気だから」という時期の試算がいちばん役に立ちます。手を打てる期間が長く残っているからです。数字を見てから、何年かけて何をするかを一緒に組み立てましょう。
※ 本記事は一般的な考え方を整理したものです。税務上の取扱いや補助金の対象・要件は、制度の改正や個別の事情によって異なります。実際の判断にあたっては、税理士等の専門家および管轄窓口にご確認ください。