前提:保証は自動では移らない

代表を交代しても、前社長の保証は自動的には外れません。金融機関と個別に合意して初めて解除されます。

逆に、後継者の保証も自動では付きません。金融機関が求め、後継者が応じて初めて成立します。

つまり、承継のたびに交渉が発生します。 ここを設計しないまま代表だけ変えると、「前社長が保証を負い続けたまま経営から離れる」という不安定な状態になります。

この不安定な状態が実際に起きることがあります。代表を退き、経営から離れたのに、保証だけが残っている。会社の状況を把握できない立場で責任を負い続けることになります。

しかも、この状態は本人が気づかないまま続くことがあります。代表を代えたのだから外れたと思い込み、確認していない。数年後に問題が起きて初めてわかる、ということが起こります。

だから、代表を代えるときには必ず確認してください。書面で外れたことを示してもらう。口頭の了解では、後から証明できません。

「二重に保証を取らない」という考え方

経営者保証に関するガイドラインでは、事業承継の際に前経営者と後継者の双方から保証を取ることは、原則として避けるべきものとされています。

また、後継者に当然に保証を求めるのではなく、必要性を検討したうえで判断することが求められています。

このガイドラインは法律ではありませんが、多くの金融機関が尊重しています。交渉の土台として使えます。 経営者保証に関するガイドラインの使い方をご覧ください。

具体的な取扱いは金融機関や事案によって異なります。詳細は取引金融機関や、経営者保証に関する相談窓口にご確認ください。

この考え方を土台に使うときも、こちらから確認する姿勢が要ります。決まりだからと主張するのではなく、この考え方に照らして自社の場合はどうなるかを尋ねる形です。

相手も、事案ごとに判断することになります。だから、自社の状況を説明できる資料を持って臨んでください。何も持たずに考え方だけを持ち出しても、話は進みません。

取扱いは金融機関によって異なります。公的な相談の窓口もあるため、判断に迷うときは中立の立場からの意見を聞いてみてください。

交渉で見られる3つの点

保証を外す、あるいは軽くするために、金融機関が確認するのは大きく次の3点です。

1. 法人と個人の分離

  • 社長個人の資産と会社の資産が混ざっていないか
  • 役員報酬が適正な水準か
  • 会社と社長個人の間の貸借がないか
  • 社長個人所有の不動産を会社が使う場合、契約と賃料が適正か

ここが最も重要で、最も時間がかかります。 公私混同の解消が最優先である理由をご覧ください。

2. 財務基盤

  • 債務償還年数(借入を利益で何年で返せるか)
  • 自己資本の水準
  • 安定した収益力
  • 手元資金の厚み

ここは一朝一夕には変わりません。 承継の数年前から取り組む必要があります。借入の整理と借換えをご覧ください。

3. 情報開示

  • 月次試算表を出しているか
  • 資金繰り表を作っているか
  • 悪い情報も早く伝えているか
  • 求められた資料を速やかに出せるか

これは今日から始められます。 しかも効果が大きい。銀行への説明資料のつくり方をご覧ください。

三つのうち、三つ目が今日から始められるという点は強調しておく価値があります。分離も財務も時間がかかりますが、情報を出すことはすぐ始められます。

しかも、効果が出やすい部分でもあります。毎月の数字を届けている会社と、年に一度しか顔を出さない会社では、相手の見方がまったく違います。

悪い情報を早く伝えるという点も、実は効きます。都合の悪いことを隠さない相手は、信頼されます。逆に、良い話ばかりだと、何か隠していると思われます。

二つ目の財務については、目標を決めて取り組むことになります。借入を何年で返せる水準にするか、手元にどれだけ持つか。数字の目標があると、進み方も測れます。

交渉の進め方

ステップ1:現状を一覧にする

どの借入に、誰の保証が、いくら付いているか。保証協会の保証が付いているものも含めて整理します。

ステップ2:早めに切り出す

代表交代の直前ではなく、数年前から「承継を考えている。保証をどうするか相談したい」と伝えてください。金融機関も準備ができます。

ステップ3:改善計画を示す

「今はここが足りない。3年でこう改善する」という計画を出します。数字の裏付けがあるほど、話は前に進みます。 引退目標から逆算した数値計画のつくり方をご覧ください。

ステップ4:段階的な着地を探る

いきなり全額の解除が難しい場合、次のような中間解を検討できることがあります。

  • 新規の借入から保証を付けない
  • 一部の借入について保証を解除する
  • 保証の範囲や期間を限定する
  • 財務指標の達成を条件に解除する

「全部か、ゼロか」ではありません。

四つの段階のうち、ステップ2の切り出す時期が最も結果を左右します。直前では、相手も検討する時間が取れません。

切り出すときの言い方は、率直で構いません。承継を考えている、保証をどうするか相談したい。この一言から始まります。

ステップ3の計画は、数字を入れてください。今この水準で、三年後にこの水準を目指す、そのために何をする。裏付けのある計画なら、相手も検討できます。

ステップ4の中間解は、最初から提示しておくのも一つの方法です。全部を外してほしいと言うより、まずここからと切り出すほうが、話が動くことがあります。

いずれの段階でも、記録を残してください。いつ誰と何を話し、どういう返答だったか。担当者が代わっても、経緯が伝わります。

後継者への説明

保証の話は、後継者に正確に、早く伝えてください。

  • 現在の保証の総額
  • 解除に向けて何をしているか
  • いつまでにどうなる見込みか
  • 解除できなかった場合どうするか

後継者本人だけでなく、その家族の理解も必要です。 曖昧にしたまま承継を進めると、後で覆ります。家族への切り出し方をご覧ください。

この四点を伝えるときに難しいのは、良い見通しを示せない場合です。外せる見込みが立たないなら、それも正直に伝える必要があります。

隠して承継を進めると、後で判明したときに信頼を失います。しかも、その時点では引き返せません。

家族の理解が必要なのは、保証が家庭の資産に及ぶ可能性があるからです。本人が納得しても、配偶者が反対すれば話は止まります。むしろ、止まってくれたほうが良い場合もあります。

説明の場には、税理士など第三者に同席してもらうことも考えられます。数字の話を客観的に説明してもらえると、感情的になりにくくなります。

M&Aの場合

第三者への株式譲渡では、買い手が保証を引き受け、売り手の保証は解除されるのが一般的です。ただし自動ではありません。

  • 最終契約に、保証解除を条件として明記する
  • 金融機関の同意が必要であることを前提に段取りを組む
  • 解除の時期(クロージング時か、その後か)を確認する

「売却したのに保証が残っていた」は避けなければなりません。 最終契約で決めること銀行への説明と借入・保証の引き継ぎをご覧ください。

この三点のうち、二つ目が特に重要です。金融機関の同意が要るということは、こちらと買い手の合意だけでは決まらないという意味です。

だから、交渉の途中で金融機関にも話を通しておく必要があります。話がまとまってから相談すると、そこで時間がかかります。

ただし、伝える時期は慎重に判断してください。早すぎると情報が広がる可能性があります。仲介や弁護士と相談しながら、時期を決めてください。

保証の一覧をどう作るか

交渉の前提として、現状の把握が要ります。この作業を飛ばすと、話が具体的になりません。

一覧に入れる項目は、借入の相手、当初の金額、現在の残高、返済の期日、誰の保証が付いているか、保証協会の保証があるか、担保の有無です。

リースも忘れずに入れてください。車両をリースで揃えている会社では、こちらの額のほうが大きいこともあります。

作ってみると、把握していなかったものが出てくることがあります。古い借入に付いたままの保証、いつのものかわからない担保。こうしたものが見つかれば、整理の対象になります。

この一覧は、承継の場面でそのまま使えます。買い手も同じ情報を求めます。作っておいて損はありません。

代表交代の手続きと合わせて進める

代表を代えるときには、登記の変更や許認可の届出など、いくつかの手続きが生じます。保証の見直しも、この流れのなかに組み込んでおいてください。

順序としては、保証の話を先に始め、目処が立ってから代表の交代を進めるのが安全です。逆にすると、外れないまま経営から離れることになります。

目処が立たない場合は、交代の時期を遅らせるという判断もあり得ます。ただし、後継者を待たせすぎると意欲が落ちるため、見通しは伝えてください。

あるいは、交代しつつ保証の話を続けるという形もあります。その場合は、いつまでにどうするかを関係者で共有しておく必要があります。

時間をかけて改善する

三つの要素のうち、財務の改善には最も時間がかかります。だから、何年かけてどこまで持っていくかを決めることになります。

目標としては、借入を利益で返せる年数、手元の資金の厚み、自己資本の水準が挙げられます。どの数字を目標にするかは、金融機関に聞くのが早道です。

改善の手段は、利益を増やすか、借入を減らすかのどちらかです。運賃を上げる、採算の悪い仕事を整理する、無駄な費用を削る。地道な取り組みの積み重ねになります。

車両の更新も、この計画に織り込む必要があります。更新すれば借入が増えるため、返済の見通しも変わります。何年後に何台を更新するかを、あらかじめ計画に入れてください。

進捗は、年に一度でも報告してください。取り組んでいることが伝われば、相手の見方も変わります。

譲渡の場合に確かめること

第三者に譲る場合、保証がどう扱われるかは条件の一部になります。だから、交渉の早い段階で確認しておく必要があります。

確かめたいのは三点です。買い手が引き受けるのか、借入を返済するのか。いつ外れるのか。外れなかった場合にどうするのか。

金融機関の同意が要るため、こちらと相手だけでは決められません。だから、段取りとして金融機関との話をいつ始めるかも決めておく必要があります。

最終の契約では、これらを明記してください。外れることを前提に進めて、後から外れないとわかると、話全体が揺らぎます。

外れた後は、必ず書面で確認してください。実際に手続きが済んだかを、自分の目で確かめる。ここまでやって、初めて終わりです。

先代が保証を負い続ける場合

後継者に移せず、前の代表が保証を負ったまま経営から離れることがあります。この状態は不安定ですが、実際には起こります。

この場合、最低限決めておきたいことがあります。会社の状況をどう把握するか、いつ見直しの協議をするか、何かあったときにどう連絡するか。

状況の把握については、決算の内容を毎年知らせてもらう取り決めが考えられます。責任を負っている以上、知る必要があります。

見直しの時期も、決めておくほうがよいでしょう。三年後に再び協議する、といった約束があれば、放置されずに済みます。

この状態を長く続けるのは望ましくありません。後継者と会社の双方に、外すための取り組みを続けてもらう必要があります。

後継者が承諾する前に確かめること

負う側の立場からも、確認すべきことがあります。承諾する前に、次の点を確かめてください。

まず、総額です。借入だけでなくリースも含めて、いくらになるのか。一覧を見せてもらってください。

次に、会社の返済能力です。今の利益で、この借入を何年で返せるのか。数字を見れば、現実的かどうかがわかります。

三つ目に、外すための取り組みがどこまで進んでいるかです。何もしていないなら、これから始めることになります。

四つ目に、車両の更新がいつ来るかです。更新すれば借入が増えます。今後数年の見通しを聞いてください。

これらを確かめずに承諾すると、後から想定と違うことがわかります。聞きにくいと感じるかもしれませんが、当然の確認です。

まとめ

個人保証は代表交代では移りません。ガイドラインでは前経営者と後継者の双方から保証を取らないことが原則とされており、交渉の土台になります。法人と個人の分離、財務基盤、情報開示の3点が判断材料です。承継の数年前から金融機関に切り出し、段階的な解除も含めて協議してください。具体的な取扱いは金融機関にご確認ください。