正常化とは
オーナー経営者ならではの事情を取り除いて、「第三者が経営した場合の利益」を算出することです。
M&Aの価格算定は、この正常化後の利益をもとに行われます。
役員報酬の調整
オーナー経営者の報酬は、税務や資金繰りの都合で決められていることが多く、職務の対価としての水準とは限りません。
- 報酬が高い場合 → その分を利益に戻す
- 報酬が低い場合 → 適正水準まで引き上げて、利益から差し引く
後者を忘れないでください。「社長がほぼ無報酬で働いている」会社は、実質的な利益がその分少ないということです。
適正水準の考え方
「同じ職務を第三者に任せた場合、いくら払う必要があるか」で考えます。
- 店長として雇う場合の給与水準
- 査定業務も担っているなら、その分
- 複数店舗を統括しているなら、その分
社長が査定もしている場合、その代替コストは高くなります。ここは正直に見積もってください。
家族への報酬
配偶者や親族に報酬を払っている場合、実態を確認されます。
- 実際に業務を行っているか
- その業務に見合う額か
- 業務を行っている場合、承継後も続けるか
配偶者が経理と店番を担っている場合、その人が抜けたら誰かを雇う必要があります。その分は利益から差し引くのが正しい見方です。
示し方
次の表を作ってください。
| 項目 | 決算書 | 調整 | 正常化後 |
|---|---|---|---|
| 営業利益 | |||
| + 役員報酬(実額) | |||
| − 適正な役員報酬 | |||
| + 個人経費 | |||
| ± 一時的な損益 | |||
| 正常化後の利益 |
自分から出すことが重要です。買い手が独自に調整すると、保守的な数字になります。
注意点
- 都合の良い調整だけしない:不利な調整(社長が無報酬など)も入れる
- 根拠を示す:なぜその水準が適正かを説明する
- 複数年で示す:単年では偶然と見られます
- 税理士と作る:計算の妥当性を担保する
調整の根拠をどう用意するか
「本来ならこの水準」という主張には、裏づけが要ります。
- 同規模同業の給与水準 — 公的な統計や業界の調査を参照します
- 社内の他の役職者の水準 — 店長や部長の報酬と比較します
- 担っている業務の内容を書き出す — 査定、決裁、仕入れ、労務など、実際の職務です
- 後任を雇う場合の想定年収 — 最も説得力のある根拠になります
- 過去5年の推移 — 利益に応じて上下している場合、その事実も示します
4番目の考え方が、買い手にとって最も分かりやすい形です。「同じ業務を担う人を採用するといくらかかるか」という問いへの答えが、正常化後の適正な人件費です。求人の相場を調べて、根拠として添えてください。
家族への報酬と経費の扱い
役員報酬と同じ論点が、家族への支払いにも生じます。
- 実際の勤務実態を確認する — 勤務時間、担当業務、出退勤の記録です
- 実態がある場合は、そのまま計上する — 無理に調整する必要はありません
- 実態がない場合は、正常化の対象になる
- 調整の有無を、自分から説明する — 監査で発見されるより、先に開示するほうが有利です
- 今後の勤務継続の見込みも伝える — 譲渡後に退職するのであれば、その前提を共有します
5番目は買い手にとって重要な情報です。家族が実際に業務を担っている場合、譲渡後にその人が抜ける影響を織り込む必要があります。誰がどの業務を担い、譲渡後にどうなるのかを整理して示してください。
調整の示し方と注意点
正常化は自社に有利な調整ですが、示し方を誤ると信頼を損ねます。
- 調整の一覧を作る — 項目、金額、根拠を1枚にまとめます
- 決算書の数字から出発する — 調整前の数字を隠さず、そこからの加減算として示します
- マイナスの調整も入れる — 自社に不利な項目も含めるほうが、全体の信頼性が上がります
- 複数年分を同じ方法で調整する — 年によって方法を変えないでください
- 過大な調整は避ける — 説明できない水準は、かえって疑いを招きます
正常化の考え方と税務上の取り扱いは、税理士・M&Aの専門家にご確認ください。どこまでを調整項目として認めるかは、買い手や案件によって判断が分かれます。自社の主張として整理したうえで、専門家の確認を経て提示することをお勧めします。
まとめ
正常化後の利益は、自分から示してください。買い手が独自に調整すると、保守的になります。
社長が査定も担っている場合、その代替コストを正直に織り込むこと。信頼につながります。
※ 本記事は一般的な考え方を整理したものです。税務上の取扱いや補助金の対象・要件は、制度の改正や個別の事情によって異なります。実際の判断にあたっては、税理士等の専門家および管轄窓口にご確認ください。