年買法とは
譲渡価格 = 時価純資産 + 正常化後の利益 × 年数
中小企業のM&Aで最もよく使われる考え方です。上乗せ部分が、いわゆるのれんにあたります。
年数は何を意味するか
買い手から見れば、「上乗せ分を、何年で回収できるか」という数字です。
3年なら、3年間その利益が続けば回収できる。裏を返せば、「その利益が何年続くと信じられるか」が年数になります。
年数が上がる条件
- 社長がいなくても利益が出る:査定基準があり、複数人が値付けできる
- 仕入れに再現性がある:広告依存でなく、リピート・法人・提携で回っている
- 在庫が健全:日齢が短く、簿価と実勢の差が小さい
- 利益が安定している:複数年で見て、大きな変動がない
- 販路が複数ある:店頭、EC、市場
- 数字が出る:月次決算、カテゴリ別粗利
- 法令対応が整っている:記録、許可、労務
年数が下がる条件
- 社長が唯一の査定者
- 買取が広告に全面依存
- 滞留在庫が多い
- 利益が相場に左右される
- キーパーソンが辞めそう
- 数字が出ない
- 法令や労務に不備がある
これらが重なると、そもそも上乗せが付かず、時価純資産だけになります。
リユース業の特徴
この業種は、時価純資産が厚く、上乗せが薄くなりやすい傾向があります。
- 在庫という資産が大きい → 純資産が厚い
- 社長依存が強いことが多い → 上乗せが薄い
つまり、価格を上げる余地は「上乗せ部分」にあります。ここは仕組み化で動かせます。
自社の水準を見立てる
上の「上がる条件」7項目を、自社で何個満たしているか数えてみてください。
- 0〜2個 → 上乗せは期待しにくい
- 3〜5個 → 一定の上乗せが見込める
- 6〜7個 → 上乗せが厚くなる
これはそのまま改善の課題リストになります。
ネットの相場を鵜呑みにしない
「リユース業の年数は◯年」という数字を見かけますが、会社ごとのばらつきが極端に大きい業種です。
上の7項目を満たしているかどうかで、同じ利益額でも上乗せは何倍も変わります。
年数を上げるために何から着手するか
年数は、買い手が「この利益が何年続くと見込めるか」を表した数字です。継続性を示せる要素から着手してください。
- 社長依存を減らす — 最も効きます。査定と決裁を他者に移す作業です
- 仕入れの再現性を示す — 広告依存でない買取チャネルを持つことです
- 数字の管理体制を整える — 月次が早く出る、カテゴリ別に分かる状態です
- 在庫の質を上げる — 日齢の分布が健全であることを示します
- 人材の層を厚くする — 査定できる人が複数いる状態です
1番目と2番目で、年数の大半が決まります。利益が出ていても、その利益が社長個人の目利きと個人的な人脈から生じているなら、継続性は認められません。仕組みに移す作業が、そのまま年数の上乗せになります。
利益の見方をそろえる
年買法の「利益」が何を指すかは、当事者間で必ず確認してください。ここがずれたまま議論すると、話が噛み合いません。
- 営業利益か、経常利益か — どちらを使うかで金額が変わります
- 役員報酬の調整後か、調整前か — 正常化の有無で大きく変わります
- 単年か、複数年の平均か — 3年平均を使う考え方もあります
- 一時的な損益を除いているか — 高額品の単発売却などの扱いです
- 減価償却の水準は妥当か — 計上が不足していれば、利益は過大に見えます
3番目の扱いが、リユース業では論点になりやすい項目です。相場の影響を受けるため、単年の利益は上下します。自社に有利な年だけを示すのではなく、複数年を並べたうえで変動の理由を説明するほうが、結果として信頼されます。
数字の相場情報との向き合い方
公開されている成約事例の水準は、参考にはなりますが、そのまま自社に当てはまりません。
- 業種の括りが粗い — 「小売業」の平均は、リユース業の実態を映しません
- 規模が違う — 数億円規模と数千万円規模では、評価の構造が違います
- 成約しなかった案件は集計されない — 公開されるのは成立した事例だけです
- 条件が見えない — 表明保証の範囲、支払い方法、残留期間で、実質的な価値は変わります
自社の水準を知りたいなら、複数の専門家に見立てを聞くほうが確実です。ただし、その見立ても前提の置き方で変わります。数字そのものより、「どこを直せば年数が上がるか」という問いに答えてもらうほうが、実務上の価値があります。企業価値の算定と税務の取り扱いは、税理士・専門家にご確認ください。
まとめ
年数は「その利益が何年続くと信じられるか」で決まります。社長依存と仕入れの再現性が最大の要素です。
上がる条件7項目のうち、自社がいくつ満たしているか数えてみてください。