一人に集中している状態のリスク
真贋判断が特定の個人にしかできない場合、次の問題が同時に起きています。
- その人が休むと、高額品の買取が止まる
- 判断の根拠が残らないため、後から検証できない
- 育成が進まない(見て覚えろ、になる)
- 承継のときに事業ごと止まる
- M&Aで社長依存として大きく減点される
この5つのうち、経営者が痛みを感じるのは1番目ですが、会社の値段に響くのは下の2つです。目の前の不便と将来の評価が同じ原因から生じているという点を押さえてください。
一次判定と二次判定に分ける
すべてを一人に任せるのをやめ、二段階にします。
| 担当 | やること | |
|---|---|---|
| 一次判定 | 査定担当 | チェック項目に沿って確認し、記録する |
| 二次判定 | 管理者・熟練者 | 一次で疑問が出たもの、一定額超のものを見る |
| 外部鑑定 | 外部機関 | 二次でも判断がつかないもの |
ポイントは、一次判定を「判断」ではなく「確認作業」にすることです。項目に沿って見て、記録する。これなら未経験者でもできます。
この切り分けが、体制づくりの核心です。「判断」は経験が要りますが、「確認作業」は手順があればできます。どこまでを確認作業に落とせるかを突き詰めることで、熟練者の負担が減ります。
チェック項目を作る
ブランドやカテゴリごとに、確認すべき箇所を一覧にします。熟練者が実際に見ている順番を聞き取って書き出すのが早道です。
あわせて、確認箇所の写真を撮るルールを決めてください。刻印、縫製、金具、シリアル番号など、後から検証できる形で残します。
聞き取りは、本人にまとめてもらうのではなく別の人が横で書き取る形にしてください。「まとめておいて」と頼んでも忙しさに押されて進みません。10件ほど見せてもらえば骨格ができます。
二次判定に回す基準を数字で決める
「なんとなく怪しい」だけを基準にすると、忙しいときに省略されます。明確な線を引いてください。
- 買取額が一定額を超えるもの
- チェック項目に1つでも疑問があるもの
- 初めて扱うブランド・モデル
- 付属品や保証書がないもの
この基準は、迷ったら回すという方向に寄せて設定してください。回しすぎて熟練者の負担が増えるより、見落として偽造品を仕入れるほうが損失は大きくなります。運用しながら締めていけば構いません。
記録が体制を支える
判定の記録には、次を残してください。
- 誰が一次判定を行ったか
- チェック項目の確認結果
- 確認箇所の写真
- 二次判定の有無と、判断した人
- 外部鑑定に出した場合はその結果
この記録は3つの役に立ちます。後から検証できる、育成の材料になる、譲渡のときに体制を示せる。
記録の効き方でとくに大きいのは2番目です。判定を外した案件を振り返ると、どのチェック項目が足りなかったかが見えてきます。失敗が基準の精度を上げる材料になるということです。
承継とM&Aで問われること
買い手が確認するのは、「引き継いだ後も同じ精度で判定できるか」です。
手順が文書化され、判定できる人が複数いて、記録が残っている。この状態なら、表明保証の範囲を合理的な線で交渉できます。逆に体制がなければ、偽造品に関する責任を広く負わされることになります。
逆に言えば、体制が整っていればブランド品を扱っていることが弱みではなく強みになります。「真贋を確認できる会社」は限られているためです。整えておく価値の大きい領域です。
一次判定を任せられる状態とは
「一次判定を未経験者に任せる」と聞くと不安に思われるかもしれません。次の条件が揃っていれば任せられます。
- 確認する箇所が一覧になっている — 刻印、シリアル、縫製、金具、内側の表記。ブランドごとに見る場所を書き出してください
- 各箇所の写真見本がある — 文章だけでは判断できません。正しい状態の写真があると精度が上がります
- 写真の撮り方が決まっている — 二次判定に回すときの写真が揃っていなければ、判断できません
- 疑問があったら回す基準が明確 — 「1つでも疑問があれば回す」なら、判断を求められません
- 回した先の返答が早い — 返事が来なければ、担当者は回すのを避けるようになります
この5つが揃った状態では、一次判定は「判断」ではなく「確認して記録する作業」になります。熟練者は、回ってきたものだけを見ればよくなります。
まとめ
真贋体制は、一次を確認作業に落とし、二次に回す基準を数字で決め、記録を残す。この3つで組み立てられます。
まず、熟練者が見ている箇所を1ブランド分だけ書き出してみてください。そこから始まります。
1ブランド分の書き出しは半日あれば終わります。そこで型ができれば、次からは同じ手順の繰り返しです。進め方についてはご相談いただけます。