方式による違い

株式譲渡事業譲渡
借入会社に残り、買い手が引き継ぐ原則として会社に残る(売り手側)
価格への影響借入の分だけ株価が下がる対価から返済する
個人保証解除の交渉が必要借入が残るなら保証も残る

株式譲渡では、借入は株価の計算に織り込まれています。「価格−借入」ではありません。

手取りの計算(株式譲渡)

株価 = 時価純資産(在庫等の資産 − 借入等の負債)+ 上乗せ
手取り = 株価 − 仲介手数料 − 専門家費用 − 税

つまり、借入はすでに株価から差し引かれています。受け取った額から、さらに返済する必要はありません。

手取りの計算(事業譲渡)

会社が受け取る対価 − 借入の返済 − 法人税 = 会社に残る額
そこから経営者が受け取る(退職金、配当、清算分配)ときに、さらに課税

事業譲渡では、2段階で課税されるため、手取りが薄くなりやすい点に注意してください。

在庫担保(ABL)がある場合

在庫に担保が設定されていると、次の確認が必要です。

  • 担保の内容と、設定されている在庫の範囲
  • 譲渡にあたって、金融機関の承諾が必要か
  • 担保を解除するのか、引き継ぐのか
  • 解除する場合、返済が必要か

買い手は担保が付いた在庫を嫌います。早い段階で金融機関と協議してください。

個人保証の解除

最も重要な論点です。次を確認してください。

  • 借入を買い手が引き継ぐ場合、保証は誰が負うか
  • いつ解除されるか
  • 金融機関の承諾が得られるか
  • 契約書に明記されるか

保証が残ったままの譲渡は、避けるべきです。会社を離れた後も、借入の責任を負い続けることになります。

借入を減らしてから譲る

時間があるなら、譲渡前に借入を減らしておく価値があります。

  • 滞留在庫を処理し、その現金で返済する
  • 純資産が厚くなり、株価が上がる
  • 買い手の資金負担が減り、候補が広がる
  • 個人保証の解除交渉がしやすくなる

在庫の圧縮が、ここでも効いてきます。

借入の状況を整理する

交渉に入る前に、全体像を把握してください。

  1. 借入の一覧を作る — 金融機関、残高、金利、返済期日
  2. 担保の設定状況を確認する — 不動産、在庫、売掛金
  3. 個人保証の有無と範囲を確認する
  4. 財務制限条項の有無を確認する — 一定の財務指標を維持する義務がある場合があります
  5. 期限の利益喪失事由を確認する — 経営権の変動が該当する場合があります
  6. 役員からの借入も含める

5番目の確認を怠ると、想定外の事態が生じます。契約によっては、株主や代表者の変更が期限の利益喪失事由とされていることがあります。譲渡の計画段階で、金融機関に相談しておく必要があります。契約内容の確認は弁護士にご依頼ください。

個人保証の解除を交渉する

最も重要な条件のひとつです。曖昧なまま進めないでください。

  • 解除の時期を明確にする — 実行と同時か、後日かで意味が変わります
  • 金融機関の同意が必要である — 買い手との合意だけでは解除されません
  • 代わりの保証をどうするか — 買い手が保証するのか、保証なしにできるのかです
  • 解除されない場合の扱いを決めておく — 契約上の手当てが必要です
  • 関連するガイドラインの内容を確認する — 事業承継に関する取り扱いの枠組みがあります

2番目を理解しておいてください。買い手が「保証は引き継ぎます」と述べても、金融機関が応じなければ解除されません。譲渡の前に、金融機関と直接協議する必要があります。手続きの詳細は、弁護士・金融機関にご確認ください。

在庫を担保にしている場合

在庫を担保とする融資を受けている場合、譲渡の手続きに影響します。

  • 担保の対象範囲を確認する — 特定の在庫か、集合物としての在庫全体か
  • 処分の制限を確認する — 通常の営業の範囲を超える処分に、同意が要る場合があります
  • 在庫の報告義務を確認する — 定期的な報告が求められることがあります
  • 譲渡時の手続きを金融機関に確認する
  • 在庫整理との関係を確認する — 譲渡前の在庫処分が、制限に触れないかです

5番目に注意してください。企業価値を高めるための在庫整理が、担保に関する契約上の制限に抵触する可能性があります。大規模な処分を計画する場合は、事前に金融機関へ相談してください。契約内容の解釈については、弁護士にご確認ください。

まとめ

株式譲渡では、借入はすでに株価から差し引かれています。事業譲渡は2段階課税に注意してください。

個人保証の解除時期を必ず契約書に明記を。譲渡前に在庫を処理して借入を減らすと、条件が良くなります。

※ 本記事は一般的な考え方を整理したものです。税務上の取扱いや補助金の対象・要件は、制度の改正や個別の事情によって異なります。実際の判断にあたっては、税理士等の専門家および管轄窓口にご確認ください。