求められやすい文言
買い手側の草案では、次のような保証が入ってきます。
- 「在庫は帳簿記載のとおり実在し、数量に相違がない」
- 「在庫はすべて適法に取得され、第三者の権利の対象となっていない」
- 「在庫に盗品は含まれていない」
- 「在庫はすべて真正品である」
- 「在庫は通常の営業により販売可能な状態にある」
いずれも絶対的な保証です。数千点の在庫について、これを保証するのは重い。
なぜ危ないのか
リユース品の特性を考えてください。
- 1点ずつ状態が違う
- 出所は個人からの買取が中心
- 精巧な偽造品は、専門家でも見抜けないことがある
- 盗品かどうかは、後から判明することがある
売り手が完全にコントロールできない事柄について、絶対的な保証をするのは合理的ではありません。
交渉の方向1:知識の限定
「売主の知る限り」という限定を付けます。
× 在庫に盗品は含まれていない
○ 売主の知る限り、在庫に盗品は含まれていない
ただし、「知る限り」の範囲(誰の認識か、調査義務を負うか)も定義されます。ここも確認してください。
交渉の方向2:手続きの保証に置き換える
結果ではなく、手続きを守ったことを保証内容にします。
× 在庫はすべて真正品である
○ 売主は、社内の真贋判定手順に従って確認を行っている
これができるのは、手順が文書化され、記録が残っている場合だけです。日頃の記録が、ここで直接効いてきます。
交渉の方向3:金額と期間の制限
- 補償の上限額:譲渡価格の一定割合まで
- 下限額:1件あたり一定額未満は請求しない
- 累計の下限:合計が一定額を超えるまで請求しない
- 期間:在庫に関する保証は、引き渡しから一定期間まで
交渉の方向4:対象の限定
- 一定額以上の商品に限る
- 特定のカテゴリ(ブランド品、貴金属)に限る
- 買収監査で確認された範囲に限る
記録が交渉材料になる
次が揃っていると、保証の範囲を狭める交渉がしやすくなります。
- 真贋判定の手順書と記録
- 本人確認と取引記録
- 個品ごとの在庫データ
- 棚卸の記録と差異の対処
「これだけ管理しています」と示せることが、そのまま責任の軽減につながります。
交渉の材料を用意する
保証の範囲を狭めるには、根拠が要ります。
- 棚卸の実施記録 — 頻度と、差異率の推移です
- 在庫管理の手順書 — 記録の作成と点検の方法です
- 個品管理の状況 — 1点ごとに仕入日と仕入額が把握されていることです
- 買収監査での立会い結果 — 双方で確認した事実です
- 実売データ — 評価額の妥当性を裏づけます
4番目が最も強い材料になります。買い手自身が立ち会って確認した在庫について、後から広範な保証を求めることは筋が通りません。立会いの範囲と結果を記録に残し、その範囲については保証の対象から外すよう交渉してください。
期間と金額の制限を求める
範囲を狭められない場合でも、責任の大きさは制限できます。
- 補償の期間を区切る — 引き渡しから1年、2年といった形です
- 補償の上限額を設定する — 譲渡対価の一定割合とするのが一般的な形です
- 免責額を設ける — 一定金額以下の請求は行わない定めです
- 1件あたりの下限を設ける — 少額の請求が積み重なることを防ぎます
- 買い手が知っていた事項は対象外とする — 監査で判明していた事項です
3番目と4番目は、実務上の効果が大きい条項です。在庫は点数が多いため、少額の問題が多数生じる可能性があります。金額の下限を定めておけば、細かな請求への対応に追われずに済みます。設計は弁護士にご相談ください。
保証しやすい形に置き換える
結果を保証するのではなく、手続きを保証する形が現実的です。
- 「在庫はすべて販売可能である」 — 保証できません
- 「在庫は帳簿に正確に記録されている」 — 記録の正確性であれば、保証しやすい形です
- 「棚卸を定められた手順で実施してきた」 — 手続きの保証です
- 「知る限り、重大な瑕疵のある在庫はない」 — 知識の限定を入れた形です
- 「評価は別紙の方法により算定した」 — 方法の説明にとどめる形です
2番目と3番目への置き換えを目指してください。売れるかどうかは市場が決めることであり、売り手が保証できる性質のものではありません。記録が正確であること、手順を守ってきたことであれば、日常の管理で裏づけられます。文言の設計は、必ず弁護士に依頼してください。
まとめ
絶対的な保証は避け、「知る限り」の限定と、手続きの保証への置き換えを交渉してください。
上限額・下限額・期間の設定も必須です。必ず弁護士に確認してもらってください。