純資産価額方式が重要になる会社とは
純資産価額方式は、会社を今解散したらいくらの純資産が株主に残るか、という発想に近い評価方法です。帳簿上の数字をそのまま使うのではなく、資産や負債を時価に置き換えて計算する点が大きな特徴です。
とくに土地や工場建屋を自社で保有している整備・鈑金業では、この方式が評価に強く効いてきます。長年保有してきた土地に含み益があると、帳簿価額と時価の差が株価を押し上げる要因になるためです。設備投資が大きく、資産を厚く抱える会社ほど影響を受けます。
逆に、賃借した工場で身軽に事業を回し、人と技術で稼いでいる会社では、この方式の水準が相対的に落ち着くこともあります。まずは自社がどちらのタイプに近いかを意識するところから始めてください。
純資産価額方式の基本的な考え方
この方式では、まず会社の資産と負債をすべて時価で評価し直します。そのうえで、資産の時価総額から負債を差し引いた純資産を求め、そこから一定の調整を行って一株あたりの価額を導きます。
帳簿では取得したときの価額のまま記録されている資産も、時価で見ると大きく値上がりしていることがあります。逆に、老朽化した設備は帳簿より価値が下がっていることもあり、こうした差を反映するのがこの方式の狙いです。簿価ではなく実態で見るという一点を押さえておけば、細かな論点も理解しやすくなります。
計算の具体的な手順や控除の割合などは制度で定められており、改正されることもあります。細かな数値は最新のルールに沿う必要がありますので、ここでは考え方の骨格を押さえ、実際の適用は税理士にご確認ください。
評価を進める全体の流れ
純資産価額方式による試算は、次のような順序で進むのが一般的です。実際の作業は専門家が担いますが、経営者が流れを知っておくと、必要な資料の準備や質問への回答がぐんと速くなります。
- 直近の決算書と、評価の基準となる時点の資産・負債の一覧を用意する
- 貸借対照表の各項目を、実在するもの・しないものに分ける
- 土地や建物など、時価評価が必要な資産を洗い出す
- 設備・在庫・車両など事業用資産の実勢を確認する
- 帳簿に載っていない負債や、将来発生するコストを拾い上げる
- 資産の時価総額から負債を差し引き、純資産を求める
- 含み益に対する法人税相当額の控除など、制度上の調整を行う
- 発行済株式数で割り、一株あたりの価額を求める
この流れのなかで、経営者しか知らない情報が必要になる場面が必ず出てきます。個人名義との区分、動いていない在庫、口約束の取り決めなどがそれにあたります。隠さずに共有することが、精度の高い試算につながります。
含み益のある不動産の評価
純資産価額方式で最も影響が大きいのが、土地などの不動産です。何十年も前に取得した土地が値上がりしている場合、帳簿価額と時価の差、いわゆる含み益が純資産を大きく押し上げます。
整備工場は敷地面積が比較的広く、幹線道路沿いなど条件の良い立地に構えていることも多いため、土地の評価が事業の実態以上に株価を高めてしまうことがあります。事業の稼ぐ力は変わらないのに、土地の含み益だけで承継の負担が重くなる、というのは現場でよく聞かれる悩みです。
土地の評価には複数の基準があり、どの基準で見るかによって金額が変わります。また、他人に貸している土地か、自社の建物が建っている土地か、といった利用の状況によっても扱いが異なります。評価には専門的な判断を要しますので、独自の見積もりで結論を出さないことが大切です。
取得してから間もない不動産の扱い
見落とされやすいのが、取得してから日が浅い不動産の扱いです。評価の実務では、取得から一定の期間内に取得した土地や建物について、通常の取引価額をもとに評価する取扱いが設けられています。取得価額が評価にほぼそのまま反映される、という理解になります。
この点を知らずに、株価を抑える目的で承継の直前に不動産を購入すると、意図した結果にならないことがあります。むしろ資金を固定してしまい、納税資金の準備を難しくすることさえあります。
対象となる期間や具体的な取扱いは制度で定められており、年度により異なります。不動産の売買を承継の準備と絡めて考えている場合は、契約を進める前に税理士にご確認ください。
設備・在庫など事業用資産の時価評価
不動産以外にも、整備工場には時価評価の対象となる資産があります。代表的なものを整理すると次のとおりです。
- リフト、ピット、塗装ブース、乾燥炉などの設備
- 整備用の工具、測定機器、故障診断機
- 中古車や部品、タイヤ、オイルなどの在庫
- 代車や配送に使う車両、レッカーや積載車
- 看板やサインポール、ピット周りの造作
これらは帳簿では減価償却が進んで低い価額になっていることが多い一方、市場でまだ十分に使える設備であれば、時価が帳簿を上回ることもあります。逆に、型落ちで実勢価格が下がっているもの、規格の変更で使えなくなったものは、評価が下がる方向に働きます。
在庫については、長期間動いていない不良在庫が含まれていないかも確認したいところです。実態に合わない在庫は、評価の精度を損なうだけでなく、承継後の引き継ぎや、第三者に譲る場面での調査でも問題になりやすいため、早めの整理が有効です。
業態ごとに違う資産の中身
自動車アフター業界と一口に言っても、業態によって貸借対照表に並ぶものが違います。どこに含み損益が生まれやすいかも、それに応じて変わります。
- 整備工場・車検専門店は、リフトや検査ラインなど設備の比重が高く、指定工場であれば検査機器の扱いが論点になります
- 鈑金塗装は塗装ブースや排水・排気の設備が大きく、更新時期と評価時点の関係で見え方が変わります
- 中古車販売は在庫車両が資産の中心で、相場変動の影響を直接受けます。長期在庫の有無が精度を左右します
- ガソリンスタンドは地下タンクや計量機といった設備に加え、将来の撤去や環境対応にかかるコストの見込みが論点になります
- 部品商は在庫の点数が多く、デッドストックの把握が最大の課題です。倉庫や配送車両も評価の対象になります
- 輸入車を扱う会社は専用の診断機や特殊工具を持ち、汎用性が低い分だけ実勢の見立てが難しくなります
- 二輪の販売・整備は在庫と設備の規模が小さく、相対的に土地建物や現預金の比重が高くなる傾向があります
自社がどの型に近いかを意識しておくと、資料の準備でどこに時間をかけるべきかが見えてきます。
見落とされやすい負債と将来のコスト
純資産は資産から負債を引いて求めるため、負債側の把握も同じくらい重要です。ところが実務では、資産の時価に関心が集まり、負債の確認が手薄になりがちです。
確認したいのは、未払いの経費や賞与、従業員に対する退職金の備え、リース契約に基づく将来の支払い、他社の借入に対する保証、係争中の案件などです。自動車アフター業界では、フロン類の回収・破壊に関する義務、廃油や廃バッテリーなどの処理、施設を閉じる際の原状回復や撤去にかかる費用といった、将来発生するコストも視野に入ります。
これらが帳簿に反映されていないと、純資産が実態より大きく見えます。評価が高く出るだけでなく、承継後に後継者が想定外の負担を抱えることにもなります。資産と負債を同じ丁寧さで見ることが、実態に沿った評価の前提です。
事業に使っていない資産の存在
会社の資産のなかには、事業に直接使っていないものが混じっていることがあります。使っていない遊休地、賃貸に出している旧店舗、ゴルフ会員権、保険の積立、事業と関係の薄い有価証券などです。
こうした資産も純資産の計算には含まれるため、含み益があれば株価を押し上げます。事業の収益力とは無関係に評価だけが重くなるという意味で、承継の負担感を高める要因になりやすい部分です。
また、事業に使っていない資産が一定以上を占めると、評価方法の適用そのものに影響する仕組みも制度上あります。取扱いは年度により異なりますので、遊休資産が多いと感じる場合は、早い段階で税理士にご確認ください。整理するか保有し続けるかの判断は、評価だけでなく、後継者や買い手にとっての分かりやすさも含めて考えたいところです。
含み益にかかる法人税相当額の控除
純資産価額方式には、含み益に対して一定の法人税相当額を差し引くという考え方があります。もし資産を実際に売却して利益を実現すれば法人税がかかるため、その分を評価から控除するという発想です。
この控除があることで、含み益がそのまま丸ごと株価に反映されるわけではなく、一定程度は緩和されます。とはいえ控除の割合は制度で定められており、改正の対象となることもあります。年度により異なりますので、最新のルールに沿って計算されているかを確認してください。
含み益が大きい会社ほど、この控除の有無と割合が評価額に与える影響も大きくなります。試算結果を受け取ったときは、含み益の額と控除がどう反映されているかを説明してもらうと、数字の意味が理解しやすくなります。
帳簿の整理が評価の精度を左右する
純資産価額方式は帳簿をもとに時価へ引き直す作業のため、そもそもの帳簿がどれだけ実態を映しているかが精度を左右します。実在しない資産が残っていたり、回収不能な売掛金が計上されたままだと、評価が実態からずれてしまいます。
承継の準備段階で、次のような点を確認しておくとスムーズです。
- すでに処分した設備が固定資産台帳に残っていないか
- 回収見込みのない売掛金や貸付金が資産に含まれていないか
- 計上漏れの負債や、備えるべき引当がないか
- 個人名義の資産と会社の資産が混在していないか
- 役員に対する貸付金や借入金が整理されているか
- 棚卸が実地の数量と合っているか
こうした整理は評価の適正化だけでなく、後継者への引き継ぎや、第三者に譲る場面での調査で信頼につながります。地道な作業ですが、決算を一つ二つまたぐ時間が必要なものもあるため、早めに手をつける価値があります。
会社規模区分と他方式との使い分け
自社株の評価では、純資産価額方式だけを単独で使うとは限りません。会社の規模区分に応じて、類似業種比準方式と組み合わせて評価するのが一般的です。規模の判定は、従業員数や取引金額、資産の額といった指標をもとに行われ、区分によってどちらの方式をどの割合で使うかが変わります。
一般論として、含み益の大きい不動産を抱える会社では純資産価額方式の水準が高くなりやすく、収益力が高く資産が軽い会社では類似業種比準方式のほうが低く出る場合もあります。ただし、どちらが有利かは会社ごとに異なり、一概には言えません。
また、資産の構成によっては、規模にかかわらず純資産価額方式が適用される仕組みも制度上あります。判定の基準や併用の割合は年度により異なりますので、複数の方式で試算し、自社がどの区分にあたるかを専門家に確認することが欠かせません。
評価が高くなりすぎたときの考え方
土地の含み益によって株価が想定以上に高くなり、承継の負担が重く感じられるケースは少なくありません。その場合、事業用不動産を会社から切り離す、役員退職金の支給時期を含めて承継の順序を工夫する、株式の移し方を段階的にするといった選択肢を検討することがあります。
ただし、こうした対策はスキームによって税務上の扱いが変わり、実行の順序や手続きを誤るとかえって負担が増える可能性もあります。あくまで事業の実態に沿った範囲で、専門家と設計を詰めることが前提になります。評価を下げること自体が目的化すると、事業の運営に支障が出ることもあります。
評価が高いこと自体は、それだけ会社に価値が蓄えられている証でもあります。数字に一喜一憂せず、承継全体の設計のなかで落ち着いて向き合ってください。
納税資金と承継設計に結びつける
評価額を知る目的は、数字を把握すること自体ではなく、承継の段取りを組むことにあります。株式を贈与や相続で渡す場合、評価額に応じた税負担が生じ、その資金をどう用意するかが現実的な課題になります。
自社株は換金しにくい資産です。評価が高いのに手元資金が乏しいという状態は、後継者にとって最も重い形になります。会社からの配当、退職金、生命保険、納税を猶予する制度の活用など、複数の道筋を並べて検討する必要があります。制度の要件や手続きは年度により異なりますので、必ず税理士にご確認ください。
なお、親族内での承継が難しく第三者に譲る道を選ぶ場合、株式の価格は評価額とは別の物差しで決まります。時価純資産に営業利益の2〜3年分を加える考え方(時価純資産法)が一つの目安とされますが、実際の金額は交渉によって決まります。評価額と譲渡価格は別のものだと理解しておくと、判断がぶれません。
よくある誤解とつまずき
純資産価額方式をめぐっては、次のような思い込みが判断を狂わせがちです。
- 帳簿の純資産がそのまま株価になると考えてしまう。実際には時価への引き直しと制度上の調整が入る
- 土地の評価は一つの基準で決まると思っている。利用状況や基準の違いで金額は変わる
- 承継直前に不動産を買えば評価が下がると考える。取得から一定期間内は通常の取引価額で評価する取扱いがある
- 減価償却が終わった設備は価値ゼロだと考える。稼働していれば市場価値が残っていることがある
- 負債の確認を後回しにする。将来コストの見落としは、承継後の後継者の負担になる
- 一度試算すればずっと使えると考える。決算や相場の変化で評価は動く
共通するのは、思い込みで動く前に試算をしていない点です。まず現状の数字を出し、そこから対策を考えるという順序を崩さないことが、遠回りを防ぎます。
専門家に相談する前にそろえたい資料
純資産価額方式での試算を依頼する際は、資産の実態が分かる資料があると精度が上がります。自動車アフター業界では次のようなものが役立ちます。
- 直近数期分の決算書と勘定科目内訳明細、固定資産台帳
- 土地・建物の登記事項証明書や公図など、権利関係が分かる資料
- 設備の一覧と、導入時期・稼働状況が分かるメモ
- 在庫の一覧(中古車・部品・タイヤなど)と、長期在庫の把握状況
- 個人所有と会社所有の区分、賃貸借契約の有無が分かる資料
- 借入金の返済予定表と、保証の状況が分かる資料
資料が完全にそろっていなくても相談は可能です。まずは現状を共有し、足りない部分を一緒に整えていく進め方でも問題ありません。むしろ、そろうまで待つほうが機会を逃します。
よくある質問
Q. 帳簿の純資産と評価額は同じですか。同じにはなりません。資産と負債を時価に置き換え、制度上の調整を行ったうえで算出するため、帳簿の数字とは差が生じます。土地を長く保有している会社ほど差は大きくなりがちです。
Q. 建物や設備も必ず時価にするのですか。評価の対象となる資産について、それぞれ定められた考え方に沿って評価します。実務では帳簿価額が用いられる場面もありますが、取扱いは資産の種類や状況によって異なりますので、税理士にご確認ください。
Q. 含み益にかかる控除はどのくらいですか。割合は制度で定められており、年度により異なります。数字を思い込みで当てはめず、最新のルールに沿った試算を依頼してください。
Q. 評価を下げるために遊休地を売却するのは有効ですか。売却すれば資産の中身は変わりますが、売却益に対する課税や現預金の増加によって、思ったほど評価が動かないこともあります。単独の対策で判断せず、承継全体の設計のなかで検討してください。
Q. 個人名義の工場を会社が借りている場合、評価にどう影響しますか。会社の資産には計上されませんが、賃貸借の条件や契約の有無は、承継や第三者への譲渡の場面で重要な論点になります。契約書の整備を先に進めておくことをおすすめします。
Q. 試算はどのくらいの頻度で行うべきですか。決算のたびに数字は動きますので、承継を具体的に検討している時期は、決算後に見直すのが望ましい形です。相場や制度の変化があった場合も、確認の機会になります。
まとめ
純資産価額方式は、会社の資産と負債を時価で評価し直して株価を求める方法です。土地の含み益や設備・在庫の時価が評価を左右し、含み益にかかる法人税相当額の控除も結果に影響します。土地を保有する整備工場や鈑金工場では、とりわけ重要な考え方になります。
精度を高めるのは、資産側の時価だけではありません。見落とされやすい負債や将来のコスト、事業に使っていない資産、そして帳簿そのものの整理が、実態に沿った評価を支えます。資料をそろえ、経営者しか知らない事情を共有することが出発点です。
具体的な計算方法や制度の細部は年度により異なることがあります。正式な評価と承継対策は、税理士など専門家にご確認のうえで進めてください。