なぜ二つの方式を「併用」するのか

自社株評価には、同業上場企業の数値と比べる類似業種比準方式と、資産の時価をもとにする純資産価額方式があります。どちらか一方だけでは会社の実態を捉えきれない場合があるため、両者を一定の割合で組み合わせるのが併用方式です。

収益力を映す比準方式と、資産の厚みを映す純資産方式をブレンドすることで、より実態に近い評価を目指すという発想です。多くの中小企業がこの併用方式の対象になります。

組み合わせの割合は会社の規模によって変わります。つまり、自社がどの規模区分に当たるかが、株価を左右する出発点になるのです。ここを取り違えると、その後の試算がすべてずれてしまいます。

会社規模区分とは何か

会社規模区分とは、会社を大・中・小といった区分に分ける考え方です。規模が大きいほど上場企業に近い性質を持つとみなし、類似業種比準方式の比重を高くします。規模が小さいほど資産価値を重視し、純資産価額方式の比重を高めます。

この区分は、承継の負担を考えるうえで非常に重要です。同じ会社でも、区分が一つ変わるだけで用いる割合が変わり、結果として株価が動くことがあるためです。中の区分はさらに細かく分かれていることもあり、境目付近では判定の精度がそのまま評価額に響きます。

区分の基準は制度で定められており、年度により異なります。自己判断で当てはめるのではなく、最新の基準に沿って税理士にご確認ください。

規模区分の判定に用いる主な要素

会社規模区分は、いくつかの要素を組み合わせて判定します。一般的には次のような指標が使われます。

  • 従業員数
  • 総資産の規模(帳簿価額をもとにした金額)
  • 取引金額(売上高)の規模
  • 会社の属する業種の区分

これらを総合的に見て、大・中・小のいずれに当たるかを判断します。判定のロジックは単純な足し算ではなく、ある指標が一定水準を超えると他の指標にかかわらず大きめの区分になる、といった組み立てになっています。

また、業種の区分によって基準となる金額の水準が異なります。整備業・鈑金業・中古車販売業・部品商が、それぞれどの業種区分に当てはまるのかは、事業内容の実態によって判断が分かれることがあります。基準額も年度により異なりますので、実務では専門家の確認を得るのが安全です。

判定に使う数字をどこから取るか

判定は決算書の数字をそのまま使うわけではありません。どの時点の、どの範囲の数字を用いるかにルールがあり、ここを誤ると区分そのものが変わってしまいます。

総資産は貸借対照表の合計額をもとにしますが、評価の前提として調整が入ることがあります。取引金額は損益計算書の売上高をもとにしますが、直近一期だけでなく、どの期を基準にするかの考え方があります。従業員数についても、常時使用しているかどうか、労働時間をどう換算するかといった数え方の決まりがあります。

つまり、社長が手元の試算表を見て感覚でつかんだ規模感と、制度上の判定結果は一致しないことがあります。正式な判定は、根拠となる数字の取り方まで含めて税理士にご確認ください。

併用方式の計算手順

併用方式のおおまかな流れは、次のように整理できます。ここでは考え方の順序を示すもので、具体的な割合は制度に従います。

  1. 評価の対象となる株主が、支配的な立場かどうかを確認する
  2. 会社規模区分を判定する
  3. 類似業種比準方式で一株あたりの価額を求める
  4. 純資産価額方式で一株あたりの価額を求める
  5. 規模区分に応じた割合で両者を組み合わせ、一株あたりの評価額を確定する

このように、二つの方式でそれぞれ株価を出したうえで、規模区分に応じた比率で合成するのが基本の流れです。どちらの方式の数字が大きいか、そして比率がどう配分されるかで、最終的な評価額が決まります。

なお、同じ会社の株式でも、持つ人の立場によって用いる評価の考え方が変わることがあります。後継者が持つ株と、経営に関与しない親族が持つ株では、評価が異なる場合があるという点を押さえておいてください。計算そのものは機械的に見えても、前提づくりには専門的な判断が入ります。

類似業種比準方式の中身をざっくり押さえる

類似業種比準方式は、自社と似た業種の上場企業の平均的な数値と、自社の数値を比べて株価を導く方法です。比べる要素は、おおむね次の三つです。

  • 配当の水準
  • 利益の水準
  • 純資産(簿価をもとにした帳簿上の価額)の水準

自社の数値が上場企業の平均より小さければ、その比率に応じて株価も抑えられます。加えて、中小企業であることを踏まえた調整が会社規模に応じて加えられる仕組みになっています。

この方式の特徴は、利益の変動が結果に反映されやすいことです。一時的に大きな利益が出た期の数字をそのまま使うと評価が跳ね上がることがあり、逆に赤字の期には抑えられます。比べる相手となる業種の平均値も年度により異なりますので、どの数字を使うかは必ず確認してください。

純資産価額方式の中身をざっくり押さえる

純資産価額方式は、会社の資産と負債をそれぞれ評価し直し、その差額をもとに株価を求める方法です。帳簿上の金額ではなく、評価上のルールに沿った金額を用いるのがポイントです。

整備工場や鈑金工場のように土地を長く保有している会社では、帳簿価額と評価額に大きな差が生じていることがあります。この含み益がそのまま純資産に上乗せされるため、決算書上は控えめな会社でも評価額が高く出る、という現象が起こります。

なお、含み益に対しては、将来の税負担に相当する部分を差し引く調整が設けられています。ただしその割合や計算の考え方は年度により異なりますので、具体的な数字は税理士にご確認ください。

整備業で判定が動きやすいポイント

整備・鈑金業では、規模区分の判定に影響しやすい要素がいくつかあります。とくに総資産は、土地や建物、リフトや塗装ブースといった設備を自社保有しているかどうかで大きく変わります。リースか自社所有かの違いが、そのまま判定に効いてくることもあります。

また、車検の繁忙期や大口の板金案件の有無によって、取引金額が期ごとに振れることもあります。どの期の数字で判定するかによって区分が変わり得るため、複数年の推移を見ておくと安心です。

従業員数についても、パート・アルバイトや、繁忙期だけ来てもらう応援の扱いなど、数え方に注意が必要な場合があります。名義だけ残っている人を含めていないか、逆に常時使用している人を落としていないか、細部の取り扱いは専門家に確認しながら進めましょう。

業態ごとに変わる判定の勘所

同じ自動車アフター業界でも、業態によって数字の出方が違います。判定にあたって注意したい点を業態別に挙げます。

  • 整備工場:土地・建物・設備の保有が総資産を押し上げ、純資産方式の比重が高い区分に入りやすい傾向があります
  • 鈑金塗装:高額設備の減価償却が進むと総資産が下がる一方、含み益のある土地は残ります。帳簿と評価額のズレが大きくなりがちです
  • 中古車販売:在庫車両の額が大きく、決算日の在庫水準で総資産が動きます。取引金額も車両販売の計上方法によって見え方が変わります
  • 車検専門店:設備が軽く総資産は小さめでも、台数商売で取引金額は伸びやすく、指標ごとに区分がばらつくことがあります
  • ガソリンスタンド:燃料の仕入販売により取引金額が大きく出やすい一方、利幅は薄いため、売上の規模と収益力が一致しません
  • 部品商:売掛金と在庫が総資産の中心で、滞留在庫や回収不能の債権を整理しないまま評価すると実態とずれます
  • 輸入車ディーラー・専門店:在庫単価が高く総資産が膨らみやすく、為替や相場の影響も受けます
  • 二輪販売・整備:規模が小さく小会社に区分されやすいため、純資産方式の影響を強く受けます

業種の区分そのものも、どの事業が主たるものかによって判断が分かれることがあります。整備と車販を兼業している会社では、どちらを主体と見るかで基準額が変わる可能性があるため、事前の確認が欠かせません。

区分が変わると評価はどう動くか

一般論として、収益力が高く純資産に比べて利益が大きい会社では、類似業種比準方式の比重が高い区分のほうが評価は抑えられやすい傾向があります。逆に含み益の大きい不動産を抱える会社では、純資産方式の比重が高いと評価が上がりやすくなります。

つまり、自社が収益型資産型かによって、どの区分が有利に働くかが変わります。ただしこれはあくまで傾向であり、実際には両方式の数字を試算してみないと判断できません。比準方式の数字のほうが高く出る会社もあります。

評価の有利不利は会社ごとの個別性が高く、一概には言えません。区分の境目に近い会社では、翌期の数字次第で区分が動くこともあります。試算を通じて自社の傾向を把握することが、承継設計の第一歩になります。

小会社と評価の関係

規模が小さいと判定された会社では、純資産価額方式の比重が高くなる傾向があります。土地を保有する小規模な整備工場では、この点が承継負担に直結しやすいため、あらかじめ理解しておきたいところです。

一方で、収益がしっかり出ている会社であれば、比準方式を一定程度取り入れられる区分に当たることで評価が緩和される場合もあります。区分は固定ではなく、事業の状況によって変わり得るものです。

自社がどの区分に近いのかを早めに把握しておくと、承継の時期や方法を検討する際の見通しが立てやすくなります。とくに、事業拡大や設備投資が区分に与える影響は、投資判断の前に確認しておく価値があります。

特定の評価会社に該当しないか確認する

見落とされがちなのが、通常の併用方式が使えない会社の類型です。資産の構成が特定のものに偏っている会社などは、規模区分にかかわらず純資産価額方式を中心に評価するという扱いになることがあります。

たとえば、資産の大半が株式で占められている会社や、土地の割合が極端に高い会社、開業して間もない会社、実質的に事業を行っていない会社などが該当し得ます。整備工場でも、持株会社化の途中や、不動産管理会社を兼ねている場合には注意が必要です。

該当すると、比準方式による評価の緩和が受けられず、評価額が想定より高く出ることがあります。判定の基準は年度により異なりますので、資産構成を組み替える前に必ず税理士にご確認ください。

試算のときに用意する資料

専門家に試算を依頼する際、手元にそろえておくとやり取りが早く進む資料があります。代表的なものは次のとおりです。

  • 直近数期分の決算書と勘定科目内訳明細書
  • 法人税の申告書一式
  • 株主名簿(誰が何株持っているかがわかるもの)
  • 土地・建物の登記事項証明書と固定資産税の課税明細
  • 保有している設備・車両の一覧と取得時期
  • 生命保険や共済の契約内容がわかる書類
  • 借入金の返済予定表と、経営者保証の有無

これらは自社株評価だけでなく、承継やM&Aを検討する際にも共通して必要になる資料です。日ごろから一つのファイルにまとめておくと、いざというときに話が早く進みます。

よくある失敗と回避策

規模区分と併用方式をめぐって、実務でよく見られるつまずきを挙げます。

  • 一期分の決算書だけで判断する:たまたま好調・不調だった期の数字で区分を決めつけると、実態とずれます。複数年で見てください
  • 従業員数を感覚で数える:数え方の決まりを知らないまま申告すると、区分が変わることがあります
  • 業種区分を確認しない:兼業している会社では、どの業種として扱うかで基準額が変わります
  • 含み益を把握していない:土地の評価額を調べないまま純資産を語ると、試算が大きく外れます
  • 評価を一度きりで終わらせる:区分も株価も動きます。承継の節目ごとに見直してください
  • 評価額とM&Aの売却価格を混同する:算定の目的も方法も異なります

いずれも、早い段階で正しい前提に立って試算しておけば防げるものです。まずは現状を正確に知ることから始めてください。

承継準備で意識したいこと

併用方式のもとで承継を考えるなら、区分判定と両方式の数字を早い段階で押さえておくことが有効です。準備の視点をまとめると次のようになります。

  • 自社の規模区分の当たりをつけておく
  • 類似業種比準方式・純資産価額方式の双方で試算する
  • 総資産や取引金額の推移を複数年で確認する
  • 含み益資産の影響を把握しておく
  • 設備投資や事業拡大が区分に与える影響を、投資判断の前に確認する
  • 評価を下げる対策と、事業の成長という目的が矛盾しないかを点検する

これらを踏まえておくと、承継の負担がどの程度になりそうかの見通しが立ち、対策の選択肢も検討しやすくなります。準備は早いほど選べる手が広がります。

M&Aの株価との違いを理解する

ここまで説明してきた評価は、相続や贈与のときに用いる考え方です。第三者に会社を売る場合の価格は、これとはまったく別の枠組みで決まります。同じ会社の株式でも、目的が違えば金額が違って当然です。

M&Aの場面では、時価純資産に営業利益の2〜3年分を加える時価純資産法が一つの目安として用いられます。ただし実際は交渉で決まるものであり、買い手が何を評価するか、他に候補がいるか、引き継ぐ人材や設備の状態はどうかによって上下します。

承継の方針を決める際は、この二つの数字を並べて見ておくと判断しやすくなります。親族に承継する場合の負担と、第三者に譲る場合に手元に残る金額。両方を把握したうえで、どの道を選ぶかを考えるのが現実的です。

相談する相手をどう選ぶか

自社株評価の試算は、顧問税理士に依頼するのが最も近道です。日ごろから決算を見ている相手であれば、資料の準備も早く済みます。ただし、株式評価や事業承継を専門的に扱っているかどうかには差があります。

承継の方法そのものを比べたい段階であれば、税務の試算に加えて、株式の集約や会社の組み替え、第三者への譲渡といった選択肢を横断して見られる相手を加えると、判断の材料が広がります。自動車アフター業界特有の事情、たとえば認証・指定工場の要件や設備更新の負担を理解しているかも、実務では大きな差になります。

よくある質問

Q. 規模区分は自分で判定できますか。おおよその見当はつけられますが、業種ごとの基準や指標の組み合わせ、数字の取り方が関わるため、正式な判定は専門家に依頼するのが確実です。

Q. 併用方式は必ず適用されますか。会社の規模や状況によって用いる方法は異なります。小規模な会社では純資産方式が中心になることもあり、必ず併用になるとは限りません。

Q. 区分はずっと同じですか。事業規模や資産の状況が変われば区分も変わり得ます。承継のタイミングごとに確認することが望まれます。

Q. 設備投資をすると評価は下がりますか。借入で設備を取得すれば一時的に純資産が動くことはありますが、投資は本来事業のために行うものです。評価だけを目的にした投資は、資金繰りや収益を損なうおそれがあります。

Q. 赤字の期に株を渡せば評価はゼロになりますか。なりません。利益がゼロでも純資産や配当の要素は残りますし、資産に含み益があれば評価額は生じます。

Q. 兄弟で株を分けている場合、評価は同じですか。持つ人の立場によって用いる評価の考え方が変わることがあります。経営に関与する側と関与しない側で異なる扱いになる場合がありますので、個別にご確認ください。

まとめ

併用方式は、類似業種比準方式と純資産価額方式を会社規模区分に応じた割合で組み合わせて自社株を評価する方法です。区分の判定が株価を左右するため、従業員数・総資産・取引金額・業種区分という要素の理解が欠かせません。

整備・鈑金業では土地や設備の保有が、中古車販売では在庫が、ガソリンスタンドでは売上規模と利幅の乖離が、それぞれ判定と評価に影響します。自社が収益型か資産型かによって有利な区分は変わり、実態に即した試算が重要です。

また、通常の併用方式が使えない類型に該当していないかの確認や、相続税評価とM&Aの株価は別物だという理解も必要です。制度の基準は年度により異なりますので、正式な判定と評価は税理士にご確認ください。