事業用不動産が承継の負担になる理由

整備工場は広い敷地や工場建屋を必要とするため、事業用不動産を自社で保有していることが多くあります。長年保有してきた土地に含み益があると、それが自社株の評価を押し上げ、承継の負担を重くする要因になります。

事業の稼ぐ力は変わらないのに、土地の含み益だけで株価が高くなり、後継者が引き継ぎにくくなる、という状況は珍しくありません。ここで検討されるのが、不動産を会社から切り離すという発想です。

不動産を事業会社から分離することで、株価に含み益が反映されにくくなり、承継の負担を和らげられる可能性があります。その手段の一つが現物配当です。

現物配当とは何か

現物配当とは、配当を現金ではなく、会社が保有する資産そのもので行うことをいいます。通常の配当は現金で支払いますが、現物配当では、たとえば不動産などの資産を株主に配当として渡します。

これを活用すると、会社が持つ事業用不動産を、配当というかたちで株主や別の会社へ移すことができます。不動産を会社の外に切り離す手段として検討されるのは、このためです。

現物配当は会社法上の手続きに沿って行う必要があり、税務上の扱いにも注意が必要です。安易に進めず、仕組みを理解したうえで検討することが大切です。

不動産切り離しの狙い

事業用不動産を切り離す主な狙いは、事業会社の株価から不動産の含み益の影響を除き、承継しやすくすることにあります。事業と資産を分けることで、後継者は事業の実態に見合った形で会社を引き継ぎやすくなります。

また、事業会社を身軽にすることで、将来的にM&Aを検討する際に、不動産を含めずに事業だけを譲るといった柔軟な選択がしやすくなる面もあります。事業と資産の分離は、承継の選択肢を広げることにつながります。

ただし、切り離しには手続きや税務の検討が伴い、必ずしもすべての会社に適しているわけではありません。狙いと負担を見比べて判断することが重要です。

現物配当を用いる際の主な検討事項

現物配当で不動産を切り離す際には、いくつかの点を検討する必要があります。主なものを整理すると次のとおりです。

  • 配当できる財源の範囲に収まるか
  • 不動産を移す先をどこにするか
  • 移転に伴う課税や費用はどうか
  • 移転後の賃貸関係をどう整えるか

とくに、不動産を切り離した後は、事業会社がその不動産を使い続けるために賃貸借の関係を新たに整える必要が出てくることがあります。切り離して終わりではなく、その後の運営まで見据えることが大切です。

これらの検討には専門的な判断が必要です。全体を見渡して設計することが、無理のない切り離しにつながります。

税務上の注意点

現物配当で資産を移す際には、税務上の扱いに注意が必要です。資産を移すことに伴って課税が生じる場合や、受け取る側での扱いが問題になる場合があります。組織再編税制との関わりが出てくることもあります。

配当と見なされる部分の課税や、不動産の移転に伴う費用など、複数の税目が関わることがあります。事前に負担の全体像を把握しておかないと、想定外の税負担に直面するおそれがあります。

税務の扱いは制度で定められ、改正されることもあります。個別性が高く一概には言えないため、実行の前に必ず専門家へ確認することが欠かせません。

手続きの流れ

現物配当を用いた不動産の切り離しは、大まかに次のような流れで進みます。実際には各段階で専門的な検討が入ります。

  1. 切り離しの目的と全体設計を固める
  2. 配当できる財源や移転先を確認する
  3. 現物配当の決議など所定の手続きを行う
  4. 不動産の移転登記など必要な手続きを行う
  5. 移転後の賃貸関係を整える

手続きには会社法上の段取りや不動産の登記などが含まれ、税務の検討とも並行して進める必要があります。関係する分野が多岐にわたるため、専門家の連携のもとで進めることが安全です。

順序や書類に不備があると、後で扱いが問題になることもあります。丁寧な進行が求められます。

他の手法との比較

事業用不動産の切り離しは、現物配当だけで実現するものではありません。会社分割などの組織再編を用いる方法もあり、状況によってはそちらが適していることもあります。

どの手法が適しているかは、不動産の規模、税負担、手続きの手間、承継の目的などによって変わります。ある会社で有効だった方法が、別の会社では合わないこともあります。複数の選択肢を比較することが大切です。

手法の選択は承継全体の設計と深く関わります。単独の判断で決めず、全体像の中で最適なものを選ぶことをおすすめします。

よくある質問

Q. 不動産を切り離せば必ず株価は下がりますか。含み益の影響が事業会社の株価から外れることで下がる可能性はありますが、効果は会社の状況によって異なり、必ずとは限りません。

Q. 切り離した後も工場は使えますか。賃貸借の関係を整えれば使い続けられるのが一般的です。切り離し後の利用の仕組みを事前に設計しておくことが大切です。

Q. 自分たちで進められますか。会社法・税務・不動産登記が絡む複雑な手続きです。独自の判断は避け、専門家と連携して進めるのが安全です。

まとめ

現物配当は、会社が持つ資産そのものを配当として渡す手法で、事業用不動産の切り離しに活用できます。含み益の影響を事業会社の株価から外し、承継をしやすくする狙いがあります。

一方で、財源のルールや税務、移転後の賃貸関係など検討事項が多く、他の手法との比較も欠かせません。個別性が高く制度も変わり得るため、実行にあたっては専門家にご相談のうえ慎重に進めてください。