なぜ組み合わせるのか

株式譲渡の対価と、役員退職金では、課税の仕組みが異なります。

そのため、総額が同じでも配分によって手取りが変わります。この差を利用するのが、組み合わせの考え方です。

それぞれの性質

株式譲渡の対価役員退職金
受け取る人株主(経営者個人)役員(経営者個人)
払う主体買い手会社
課税譲渡所得として退職所得として
会社側の扱い要件を満たせば損金

会社が退職金を払うと、会社の純資産が減ります。その分、株式の対価は下がります。総額の中での配分ということです。

買い手にとっての意味

買い手にとっても、退職金として支払われる部分は、会社の損金となり得るという利点があります。

つまり、双方にとって検討の余地がある設計です。ただし要件を満たす必要があります。

注意点

  1. 不相当に高額な部分は損金にならない可能性:勤続年数、職務内容、同規模企業の水準などから判断されます
  2. 実際に退任する必要がある:形式的な退任では認められないことがあります
  3. 会社に支払う資金が必要:現金がなければ払えません
  4. 手続きが必要:株主総会の決議など

引き継ぎで関与を続ける場合

退職金を受け取りながら、引き継ぎのために関与を続けることがあります。この場合、次に注意してください。

  • 役員としてではなく、顧問や従業員としての関与にする
  • 実質的に経営に関与していると見られないようにする
  • 報酬の水準を、退職前より大幅に下げる

この点は税務上の判断が分かれる領域です。必ず税理士に確認してください。

進め方

  1. 総額の目安が固まったら、税理士に配分の試算を依頼する
  2. 複数の配分パターンで、手取りを比較する
  3. 買い手と、配分について協議する
  4. 会社の資金繰りを確認する(退職金の支払原資)
  5. 必要な手続き(株主総会決議など)を確認する
  6. 契約書に配分を明記する

検討の前提として確認すること

組み合わせを検討する前に、前提の確認が必要です。

  • 譲渡の方式 — 株式譲渡か事業譲渡かで、扱いがまったく異なります
  • 会社の資金余力 — 退職金の支払原資が会社にあるかどうかです
  • 役員退職金規程の有無 — 規程がない場合、手続きから必要になります
  • 株主総会の決議 — 支給には所定の手続きが要ります
  • 買い手の意向 — 会社の資金が減ることへの理解が必要です
  • 金額の妥当性 — 過大とされると、税務上の取り扱いが変わる可能性があります

6番目が最大の論点です。必ず税理士にご確認ください。役員退職金の適正額の判断は、勤続年数、最終報酬、功績など複数の要素で行われます。自己判断で金額を決めると、後から問題になる可能性があります。

買い手との調整

この組み合わせは、買い手にとっても影響があります。事前の合意が要ります。

  • 会社から現金が流出する — 譲渡実行時の会社の財産が減ります
  • 価格の調整が必要になる — 退職金を支払う分、株式の対価は下がるのが通例です
  • 支払いの時期を決める — 実行の前か後かで、扱いが変わります
  • 資金の手当てを確認する — 会社に資金がなければ、実現できません
  • 合意内容を契約書に明記する

2番目を理解しておいてください。「対価に加えて退職金も受け取る」形ではなく、総額の内訳をどう配分するかという議論です。総額が変わらなければ、買い手が損をするわけではありません。この点を共有したうえで交渉すると、話が進みやすくなります。

譲渡後も関与する場合の扱い

引き継ぎのため役員として残る場合、退職金の扱いに注意が必要です。

  • 退職の事実があるかどうかが問われる — 実質的に地位が継続していると見られる場合があります
  • 役職と職務内容の変化を明確にする
  • 報酬の水準も判断材料になる
  • 支給の時期と、関与の開始時期の関係を整理する
  • 顧問契約など、別の形での関与も検討する

この論点は税務上の判断を伴います。実行前に必ず税理士にご相談ください。退職の事実が認められないと判断された場合、税務上の取り扱いが想定と大きく異なる可能性があります。引き継ぎ期間の関与を予定しているなら、その形を決める前に相談してください。

まとめ

譲渡対価と退職金の配分で、手取りが変わります。総額が決まったら、必ず配分を検討してください。

ただし要件と手続きがあります。税理士に試算してもらってから、買い手と協議しましょう。

※ 本記事は一般的な考え方を整理したものです。税務上の取扱いや補助金の対象・要件は、制度の改正や個別の事情によって異なります。実際の判断にあたっては、税理士等の専門家および管轄窓口にご確認ください。