求められる主な資料

  • 就業規則、賃金規程、その他の社内規程
  • 雇用契約書(全員分)
  • 直近1〜2年の勤怠記録
  • シフト表
  • 賃金台帳、給与明細
  • 社会保険・雇用保険の加入状況
  • 従業員名簿(雇用形態、勤続年数)
  • 労働基準監督署からの指摘の有無
  • 退職者との間のトラブルの有無

これらが揃っていない、または内容が整合していない時点で減点が始まります。

この一覧のうち、最初の2つが揃っていない会社が少なくありません。就業規則が古いまま、雇用契約書が一部の人しかない。まずここを確認してください。

論点1:シフトと実労働時間

勤怠記録とシフト表を突き合わせ、不自然な点がないかを見られます。

  • 毎日きっちり定時で打刻されている(実態と合っているか)
  • 開店前・閉店後の作業が記録に含まれているか
  • 休憩が実際に取れているか(1人体制の時間帯はないか)
  • 時間外労働に関する協定の届出があるか

「記録がきれいすぎる」のも疑われます。実態を反映していないと見られるためです。

「記録がきれいすぎる」ことも疑われる材料になります。毎日きっちり定時で打刻されていれば、実態を反映していないのではないかと見られます。正確な記録のほうが信用されます。

論点2:歩合給と割増賃金

査定担当に歩合を出している場合、時間外労働に対する割増賃金の計算方法が確認されます。

歩合部分を含めずに計算していると、不足が生じている可能性があります。ここは計算方法の問題なので、実際に検証されれば明確に出ます。

ここは計算方法の問題なので、検証されれば明確に出ます。主観の入る余地がない領域です。譲渡を考えるなら先に社会保険労務士に検証してもらってください。

その他の指摘されやすい点

  • 固定残業代:金額と時間数が明示されているか、超過分を払っているか
  • 店長の扱い:管理監督者として残業代を払っていないが、実態が伴うか
  • 社会保険:加入要件を満たすパート・アルバイトが未加入でないか
  • 年次有給休暇:取得の義務が果たされているか
  • 雇用契約書:全員分あるか、実態と合っているか

2番目の店長の扱いは、複数店舗を持つ会社では金額が積み上がります。店長の人数分だけリスクが増えるためです。早めに整理しておいてください。

価格と条件への影響

潜在的な未払いがあると判断された場合、次のいずれかになります。

  • 試算された金額が、譲渡価格から差し引かれる
  • 売主が責任を負う条項(特別補償)が入る
  • 代金の一部が留保され、一定期間問題が起きなければ支払われる

金額の大きさより、「把握していなかった」ことのほうが心証に響きます。

金額の大きさより、「把握していなかった」ことのほうが心証に響きます。先に自分で見つけて対応方針を示せば、把握している課題として扱われます。

準備の順序

  1. 雇用契約書と就業規則が全員分・最新版で揃っているかを確認する
  2. 勤怠の記録方法を見直し、実態を反映させる
  3. 歩合給がある場合、割増賃金の計算方法を社会保険労務士に検証してもらう
  4. 社会保険の加入要件を、パート全員について確認する
  5. 問題があれば是正し、その記録を残す

是正には時間がかかります。譲渡を考え始めたら、真っ先に着手すべき領域です。

是正には時間がかかります。規程の改定、運用の変更、従業員への説明。いずれも数か月を見ておく必要があります。譲渡の直前では間に合いません。

是正にかかる期間の目安

労務の整備は時間がかかります。譲渡の予定から逆算して着手時期を決めてください。

  • 雇用契約書の整備:1〜2か月。全員分の様式を作り、順に締結します
  • 就業規則の改定:2〜3か月。意見聴取、届出、周知の手続きが必要です
  • 勤怠の運用変更:3〜6か月。打刻の方法を変え、実態が記録に反映されるまで時間がかかります
  • 歩合給の計算方法の是正:1〜3か月。検証と、必要なら遡った精算
  • 社会保険の加入是正:2〜3か月。該当者への説明と手続き
  • 店長の扱いの見直し:3〜6か月。権限を与えるか、勤怠管理に戻すか。組織の変更を伴います

並行して進められる部分もありますが、全体で半年から1年を見ておくのが現実的です。「売ると決めてから」では間に合いません。

まとめ

労務の買収監査では、シフトと歩合が重点です。資料の整合と、計算方法の正しさが問われます。

まず雇用契約書が全員分あるかを確認してください。ないなら、そこが出発点です。

雇用契約書が全員分あるかをまず確認してください。ないなら、そこが出発点です。整え方についてはご相談いただけます。

※ 本記事は一般的な考え方を整理したものです。労働法令の具体的な適用や必要な手続きは、法改正や個別の事情によって異なります。実際の対応にあたっては、社会保険労務士等の専門家および所轄の労働基準監督署にご確認ください。