業務一覧だけでは足りない

「月末に◯◯をやる」という一覧は、誰でも書けます。しかし本当に困るのは、書かれていないことです。

  • この取引先は、誰に連絡すれば話が早いか
  • この商材は、どこを見れば相場が分かるか
  • この作業は、なぜこの順序でやっているか
  • この客は、こう対応すると喜ばれる

書かせるべき項目

  1. 担当業務と手順:基本
  2. 取引先の一覧:窓口の名前、取引条件、注意点
  3. 進行中の案件:査定中、預かり中、鑑定に出している品
  4. 定例業務のカレンダー:月次、年次で行うこと
  5. 自分しか知らない手順:ここが本命
  6. 過去のトラブルと対応:同じ失敗を防ぐ
  7. アカウントとアクセス権限の一覧

「自分しか知らないこと」を引き出す

本人は自覚していないことが多いので、質問で引き出してください。

  • 「あなたが1週間休んだら、何が困りますか」
  • 「新人に引き継ぐとしたら、何から教えますか」
  • 「ここは自分にしか分からない、と思うことは」
  • 「過去にヒヤリとしたことは」

口頭より録音・録画

書くのが苦手な人もいます。無理に書かせるより、次のほうが実用的です。

  • 作業を実演してもらい、動画で撮る
  • 質問形式で話してもらい、録音する
  • 後で文字にする(要点だけで十分)

とくに査定の実演は動画が有効です。手元と説明が同時に残ります。

引き継ぎの期間

  • 最低2週間、可能なら1か月
  • 最初の1週間で書き出し、残りで実地の引き継ぎ
  • 後任がいない場合でも、必ず作成させる(次の人のために)

平時からの備え

退職が決まってから慌てないよう、日頃から次を進めてください。

  • 査定基準の文書化
  • 取引先情報を会社の資産として管理する
  • 業務手順の動画化
  • アカウント一覧の維持

これは承継準備とまったく同じ作業です。

取引先と古物市場の関係をどう引き継ぐか

リユース業では、人の関係そのものが仕入れと販路になっています。文書に残しにくい領域ですが、方法はあります。

  1. 相手の一覧を作る — 会社名だけでなく、実際にやり取りしている担当者名まで書きます
  2. 取引の経緯を書く — いつから、どういう縁で始まったか。これが会話の入口になります
  3. 取引条件を明文化する — 口頭の慣行になっている支払条件、手数料、優先枠などです
  4. 同行して顔をつなぐ — 文書では代替できません。承継の1〜2年前から始めます
  5. 古物市場は、会員資格の名義を確認する — 法人か個人かで、承継時の手続きが変わります

5番目は見落とされがちです。個人名義で参加している市場がある場合、その資格が承継されるとは限りません。主催者に確認しておいてください。

保管と更新の決めごと

作った引き継ぎ書が、更新されずに古くなるのが最も多い失敗です。

  • 保管場所を1か所にする — 個人のパソコンの中にあると、その人が抜けたときに開けません
  • 紙と電子の両方を持つ — 電子だけだと、システムが変わったときに読めなくなることがあります
  • 更新の時期を決める — 年1回、決算後などに固定します
  • 更新した日付と更新者を記録する — いつの情報かが分からない文書は使えません
  • 誰が見てよいかを決める — 取引条件や仕入れ先には、共有範囲の判断が要ります

1番目が実務上いちばん問題になります。手順書、取引先の連絡先、パスワードの類が個人の端末に散っている状態は、それ自体が事業リスクです。共有の場所を決めて、そこに集める作業から始めてください。

M&Aの局面で価値が出る

引き継ぎ書の整備は、社内の備えであると同時に、外部から評価される資料でもあります。

  • 買収監査で最初に求められる — 業務がどう回っているかを示す資料として提出を求められます
  • 属人性の程度が読み取れる — 誰が抜けたら何が止まるかが分かります
  • 引き継ぎ期間の見積もりに使われる — 経営者の残留期間の交渉材料になります
  • 簿外の取り決めの有無が確認できる — 口頭の慣行が文書化されていれば、リスクの見立てが立ちます

3番目が売り手にとって直接の利益になります。文書が整っていれば、引き継ぎ期間を短くでき、譲渡後に長く拘束されずに済みます。逆に何もない状態では、2〜3年の残留を条件にされることも珍しくありません。時間の自由を得るための投資として、平時から進めておいてください。

まとめ

引き継ぎ書の価値は「その人しか知らないこと」にあります。質問で引き出し、動画も活用してください。

平時から査定基準と取引先情報を整理しておくことが、最善の備えです。