退職金が果たす役割

役員退職金には、複数の意味があります。

  • 長年の貢献に対する対価として、経営者に資金が渡る
  • 会社の利益と純資産が圧縮され、自社株の評価が下がる
  • 後継者が株を買い取る際の負担が軽くなる
  • 相続時の納税資金として、手元に現金が残る

特に2つ目と3つ目は、承継の設計で重要です。ヤードの土地と在庫で純資産が膨らむこの業態では、評価額を下げる数少ない手段のひとつになります。

同じ時期に片付けたくなるもの

引退を前にすると、経営者は身辺整理をしたくなります。この業態では、次の項目が浮上します。

  • 老朽設備の除却:動かなくなった重機、使っていないプレス、古い建屋。除却すれば損失が計上されます。
  • 滞留在庫の処分:何年も動いていない部品。処分すれば評価損が出ます。
  • 不良債権の整理:回収の見込みがない売掛金。
  • 役員退職金の支給:これも大きな損金です。

いずれも「いずれやらなければならないこと」です。だからこそ、まとめて処理したくなります。

重ねると何が起きるか

① 資金が一度に出ていく

退職金は現金で支払います。設備の撤去にも費用がかかります。在庫の処分にも運搬費と処理費が発生します。

これらが同じ期に集中すると、会社の手元資金が一気に減ります。相場が下がる局面と重なれば、資金繰りが厳しくなります。

② 損失が使い切れない

大きな損失を一度に計上しても、その期の利益を超える分は当期の税負担の軽減につながりません。分散したほうが効率的な場合があります

③ 決算書の見え方が悪くなる

大幅な赤字決算は、金融機関からの評価に影響します。承継のために保証を外す交渉をしている最中であれば、なおさら不利に働きます。

また、第三者への譲渡を検討している場合、直近の決算が大きく崩れていると説明に手間がかかります

順序の設計

実務では、数年に分けて進めます。目安として次のような組み立てが考えられます。

  1. 3年前まで:滞留在庫の処分を計画的に始める。毎期少しずつ落とし、決算への影響を平準化する。
  2. 2年前:使っていない設備を除却する。撤去費用の見積もりを先に取り、資金を準備しておく。
  3. 1年前:不良債権を整理する。会社と個人の資金の混在を解消する。
  4. 引退の期:役員退職金を支給する。

この順序には理由があります。在庫と設備の整理は時間がかかり、かつ経営上も好ましいため先に着手します。退職金は金額が確定しやすく、時期を選べるため最後に置きます。

退職金の金額をどう考えるか

金額は自由に決められるわけではありません。不相当に高額とされた部分は損金として認められないおそれがあります。

算定にあたっては、在任期間、最終の報酬月額、会社への貢献度といった要素が考慮されるのが一般的です。具体的な水準は必ず税理士に確認してください

また、支給には手続きが要ります。株主総会の決議、議事録の作成、支給規程の整備。形式が整っていないと、後で否認されるリスクがあります

資金をどう用意するか

退職金は現金で支払う必要があります。この業態では、次のような準備が考えられます。

  • 計画的な積立:数年かけて資金を留保します。
  • 生命保険の活用:解約返戻金を原資に充てる設計です。契約の内容によって扱いが異なるため、事前の確認が要ります。
  • 遊休資産の売却:使っていない土地や設備を売却して充てます。
  • 分割支給:一度に払えない場合、複数年に分けて支給する形もあります。ただし税務上の取り扱いに注意が必要です。

準備がないまま支給を決めると、借入で賄うことになります。承継のタイミングで借入が増えるのは、後継者にとって好ましくありません

第三者に譲渡する場合

譲渡の対価と退職金の組み合わせを設計する場面があります。株式の対価として受け取るか、退職金として受け取るかで、税負担が変わるためです。

買い手側にも意向があります。どちらか一方で決めるのではなく、交渉の中で調整される項目だと理解しておいてください。

いずれにせよ、この設計は税理士を交えて行う必要があります。譲渡の話が具体化する前に、おおよその見通しを立てておくことをお勧めします。

退職後の関わり方を決めておく

退職金を受け取るということは、役員を退くということです。しかし実務では、退任後も相談役として関わる形が一般的です。

ここで注意が要ります。実質的に経営を続けていると見なされると、退職金の扱いが問題になり得ます

次の点を、事前に整理してください。

  • 退任後の役割は何か(助言のみか、意思決定に関わるか)
  • 関わる期間はどれくらいか
  • 報酬はいくらか、以前の役員報酬と比べてどうか
  • 代表権や決裁権を持ち続けていないか

形だけ退任して実態が変わらない状態は、税務上も、後継者の育成の面でも好ましくありません。権限を実際に渡すことが前提になります。

後継者の報酬も同時に設計する

見落とされやすい点です。前経営者が退職金を受け取り、報酬が下がる一方で、後継者の報酬をどうするかを決めていない会社があります。

後継者が株を買い取るための借入を返済するなら、その原資が必要です。役員報酬を上げるのか、配当で対応するのか。前もって設計しておかないと、後継者の生活が成り立ちません。

会社の資金繰りとあわせて、前経営者の退職金、後継者の報酬、借入の返済を1つの表に並べて確認してください。数年分を並べると、無理があるかどうかがすぐ分かります。

※ 退職金の適正額や税務上の取り扱いは、会社の状況により判断が異なります。実際の設計は必ず税理士等の専門家にご相談ください。