なぜ今、見積もるのか
撤去費用は、次のどの道を選んでも判断材料になります。
- 廃業する:この費用が丸ごと発生します。
- 第三者へ譲渡する:引き継がれない設備の撤去費が売り手負担。または価格から差し引かれます。
- 親族・従業員へ承継する:後継者が将来負担することになります。
- 設備を更新する:古い設備の撤去費が投資額に含まれます。
つまり避けられない費用です。そして金額を知らなければ、「畳む」と「譲る」の比較ができません。
多くの経営者が、この数字を持っていません。結果として「畳むしかない」と思い込み、実は譲ったほうが手元に残るという状況を見落とします。
含めるべき項目
漏れやすいものを含めて列挙します。
設備の撤去
- 重機、フォークリフト、トラックの処分(売却できる部分は控除)
- プレス、シャー、破砕機の解体と搬出
- 設備の基礎の撤去
- 油圧ユニット、配管の撤去
- 電気設備の撤去
- トラックスケールの撤去(地下部分を含む)
建物・構造物
- 建屋、倉庫の解体
- 屋根、庇の撤去
- 囲い、フェンス、掲示板
- 舗装の撤去(借地で更地返しの場合)
- 油水分離設備、排水設備
- 廃油タンク(地下タンクがあれば特に高額)
残置物の処理
- 解体前の使用済自動車
- 部品在庫(売れないものは処分費)
- スクラップ(売れる分は収入)
- 廃タイヤ
- 廃油、廃液、バッテリー
- 駆動用電池
- 事務所の書類、什器
土地に関わるもの
- 土壌の調査費用
- 対策が必要な場合の費用(最も金額が振れる部分)
- 整地
最後の群が、この業態で最大の不確定要素です。金額の幅が最も大きく、しかも調べなければ分かりません。
見積もりの取り方
一度にすべてを見積もる必要はありません。段階を分けてください。
段階1:自分で概算する
設備の年齢一覧があれば、おおよその見当がつきます。売却できる部分と、費用がかかる部分を分けてください。
段階2:解体業者に見積もりを依頼する
建屋と設備の解体について、複数社から取ってください。金額に幅が出ます。1社では実態がつかめません。
依頼の際は、図面と設備の一覧、写真を用意してください。現地を見てもらうのが確実です。
段階3:残置物の処理費を見積もる
現在の在庫量から算出します。委託先に単価を確認すれば計算できます。
段階4:土壌について相談する
最も時間と費用がかかる部分です。まず使用履歴を整理し、専門業者に相談してください。
見積もりを取ることの副産物
この作業には、思わぬ効果があります。
- 不要な設備が明確になる:撤去費がかかるだけの設備が見えます。
- 残置物の量が把握できる:処分すべきものが分かります。
- 借地契約の内容を確認することになる:原状回復の範囲を読み直します。
- 土壌への意識が具体化する:漠然とした不安が数字になります。
そして「今のうちにやっておけば安く済むもの」が見つかります。例えば、使っていない設備を今処分すれば、廃業時にまとめて撤去するより安い場合があります。分割して処理できるためです。
判断がどう変わるか
撤去費用が分かると、次の比較ができるようになります。
比較の形
畳む場合:撤去費用 + 原状回復費 + 在庫処分費 −(設備・在庫の売却収入)= 手元から出る金額
譲る場合:譲渡価格 −(引き継がれない部分の処分費)− 諸費用 = 手元に残る金額
この2つを並べると、判断が明確になります。譲渡価格が低くても、撤去費用が発生しないだけで手取りが大きくなることがあります。
実務では、この差が数千万円になる例があります。しかし撤去費用を知らなければ、比較の土台がありません。
いつ着手するか
目安を示します。
- 引退まで10年以上:設備の年齢一覧を作り、概算を把握する。
- 5〜10年:解体業者から見積もりを取る。不要な設備を計画的に処分し始める。
- 5年以内:土壌について相談する。残置物の削減を進める。
- 3年以内:すべての数字を揃え、選択肢を比較する。
早く着手すれば、費用を分散して減らせます。一度にまとめて処理するより、数年かけて減らすほうが総額が小さくなります。
そして何より、選択肢が残ります。数字を持っていれば、譲るという道を検討できます。持っていなければ、畳むしかないと思い込むことになります。
見積もりを取るときの伝え方
解体業者に見積もりを依頼する際、目的を伝えるかどうかで対応が変わります。
「今すぐ工事する」わけではない場合、次のように伝えてください。
- 将来の判断材料として、概算を知りたい
- 時期は未定である
- 正式な見積もりでなくてよい
誠実に伝えれば、応じてくれる業者はあります。逆に、今すぐ工事するかのように装うのは避けてください。関係を損ないます。
そして、同業のつながりから相場を聞くという方法もあります。近隣で廃業した会社があれば、その費用感を教えてもらえることがあります。
※ 撤去費用は設備の内容、土地の状況、地域によって大きく異なります。必ず複数の業者から見積もりを取り、専門家にご相談ください。