なぜ評価が膨らむのか

中小企業の自社株は市場価格がないため、決められた方法で評価します。その方法の一つに、会社の純資産をもとに算定する考え方があります。

解体・リサイクル業の貸借対照表を思い浮かべてください。

  • ヤードの土地:何十年も前に取得したものは、帳簿価額と実勢が大きく乖離していることがあります。評価では時価に近い金額が使われます。
  • 棚卸資産:部品在庫、スクラップの山。売れるかどうかにかかわらず、帳簿に載っている限り資産です。
  • 機械装置:償却が進んでいれば影響は小さくなりますが、更新したばかりなら大きく残ります。

これらが積み上がった結果、毎年の利益は数百万円でも、純資産は数億円という状態が生まれます。株の評価は後者に引きずられます。

何が問題なのか

評価が高いこと自体が問題なのではありません。納税は現金で行うという点が問題です。

相続人が引き継ぐのは株式です。株式は売れません。売ったら会社を手放すことになります。しかし税金は現金で納めなければなりません。

手元に現金がなければ、次のどれかを選ぶことになります。

  • 借入をして納税する
  • 会社に株を買い取らせる(会社の資金が出ていきます)
  • ヤードの一部を売却する(事業が縮小します)
  • 会社そのものを手放す

いずれも本意ではないはずです。この事態は、生前に対処すれば避けられます

まず現状を知る

最初にやるべきは試算です。今の状態で相続が起きたら、株の評価額はいくらで、税額はいくらになるのか。

これを把握していない経営者が大半です。把握すれば、残された時間で何をすべきかが見えます。逆に、把握しないまま時間が過ぎると、選択肢が減っていきます。

試算は税理士に依頼できます。決算書と、ヤードの土地の情報があれば算定できます。

評価を下げる方向の手当て

① 売れない在庫を落とす

この業態で最も効きやすいのがここです。何年も動いていない部品、値が付かないスクラップ。帳簿に載っている限り資産として評価されます。

処分して損失を計上すれば、純資産が下がります。同時にヤードのスペースが空き、管理の手間も減ります。経営上も好ましい方向です。

ただし一度に大きく落とすと、決算と資金繰りに影響します。計画的に進めてください。

② 稼働していない設備を整理する

使っていない重機や、動かなくなった設備。除却すれば資産から外れます。撤去費用はかかりますが、いずれ必ず発生する費用です。早いほうが管理も楽になります。

③ 役員退職金を検討する

適正な範囲での支給は、利益を圧縮し純資産を下げます。ただし会社に支払う資金が必要です。

また、老朽設備の除却損や在庫の評価損と同じ期に重ねると、資金が一度に出ていきます。時期を分けて設計してください。

④ ヤードの土地の持ち方を見直す

会社が保有しているのか、社長個人が保有して会社に貸しているのか。どちらの形でも相続の対象になりますが、扱いは異なります。長期的な整理として、専門家を交えて検討する価値があります。

納税資金を用意する方向の手当て

評価を下げきれない場合は、払う準備をします。

  • 生命保険の活用:相続時に現金が入る形をつくります。契約者と受取人の設計が重要です。
  • 退職金の原資として積み立てる:相続人が受け取る死亡退職金は、納税資金に充てられます。
  • 会社に現金を残す:会社が株を買い取る形に備えます。

相続人が複数いる場合

この業態で特に注意したいのが、ヤードの土地が相続財産の大半を占めるケースです。

事業を継ぐ子に土地と株を渡せば、他の相続人に渡せるものがほとんど残りません。不公平だと感じられれば、話がこじれます。最悪の場合、土地の共有や分割を求められ、事業が続けられなくなります。

これは税金ではなく分割の問題です。生前に遺言を整える、他の相続人に渡せる資産を用意する、といった手当てが必要になります。税額の試算と同時に、誰に何を渡すのかも考えてください

いつから始めるか

ここまで挙げた手当ては、いずれも時間がかかります。目安を示します。

  • 試算:数週間。まずこれをやってください。
  • 在庫と設備の整理:1年から3年。一度に落とすと決算に響くため、計画的に進めます。
  • 退職金の原資の準備:数年。積立が必要です。
  • 土地の持ち方の見直し:数年。税務上の検討と資金の手当てが要ります。
  • 遺言と分割の設計:数か月。ただし親族との対話には時間がかかります。

60代で着手すれば、すべてに手が届きます。70代後半で気づいた場合、できることは限られます。試算だけでも、今のうちに済ませてください

第三者に譲るという選択

評価額の問題は、株を持ち続けるから発生します。第三者に譲渡すれば、株は現金に変わります。

その現金には譲渡益への課税がありますが、税率は明確で、納税資金も手元にあります。「評価額は高いが現金がない」という状態は解消されます。

もちろん、会社を手放すという判断は簡単ではありません。しかし、次の条件が重なっている会社では、現実的な選択肢として検討する価値があります。

  • 継ぐ意思のある親族がいない
  • ヤードの土地が相続財産の大半を占める
  • 相続人が複数いて、分割の目処が立たない
  • 納税資金の準備が間に合わない

相続が起きてから慌てて売却すると、足元を見られます。元気なうちに、余裕を持って相手を探すほうが、条件も、従業員の行き先も、良いものになります。

※ 株式の評価方法や税額は会社の規模・資産構成によって異なります。本記事は考え方の整理であり、実際の試算と対策は税理士等の専門家にご相談ください。