在庫は両刃

スクラップを保有するということは、相場に賭けているのと同じです。

  • 上がれば、仕入時より高く売れる(利益)
  • 下がれば、仕入時より安く売ることになる(損失)

加えて、持っている間もコストが発生します。

  • 敷地を占有する(他のものが置けない)
  • 資金が寝る(仕入代金は既に払っている)
  • 管理の手間がかかる
  • 品位が落ちる場合がある(錆、混入、盗難)

つまり、相場が横ばいなら在庫を持つほど損という構造です。上がる見込みがあるときだけ、持つ意味があります。

まず日数で測る

在庫の量をトン数だけで見ても、多いか少ないかの判断がつきません。日数で見てください

計算は単純です。

  • 品目別の在庫量 ÷ 1日平均の出荷量 = 何日分の在庫を持っているか

これを品目別に出すと、状況が見えます。

  • 鉄は5日分だが、ある非鉄品目は60日分ある
  • 特定の品目だけ滞留している
  • 季節によって日数が大きく動く

日数が長い品目には、必ず理由があります。まとまるまで出せない、出荷先が限られる、判断を先送りしている。原因を特定してください。

局面ごとの考え方

相場が下落局面にあるとき

在庫は損失を拡大させます。原則として量を減らす方向です。

  • 出荷の頻度を上げる(1回の運賃は上がっても、価格の下落分より小さいことが多い)
  • まとまるのを待たず、少量でも出す
  • 滞留品目を処分する
  • 仕入価格を早く下げる(高値で仕入れた在庫を増やさない)

相場が上昇局面にあるとき

持つことに意味がありますが、限度があります。

  • 保管基準の範囲内で持つ(積み上げすぎは基準に抵触します)
  • 資金繰りが許す範囲で持つ
  • 「どこまで上がったら売るか」を先に決める

最後の点が守れないと、天井を越えて下落局面に入ってしまいます。上がっている最中は、まだ上がると思いたくなります。

横ばいのとき

持つ意味がありません。回転を上げてください。

「待つ」判断の根拠をつくる

待つこと自体は戦略になり得ます。問題は、根拠がないまま待つことです。

待つと決めるなら、次を明文化してください。

  1. なぜ上がると考えるのか:根拠となる情報
  2. いつまで待つのか:期限
  3. どこまで下がったら諦めるのか:損切りの水準
  4. その間の資金繰りは持つのか

紙に書くだけで判断が変わります。書けないなら、それは戦略ではなく先送りです

特に3番目を決めておくことが大切です。決めていないと、下がるほど「今売るのは損だ」と感じ、動けなくなります。

資金繰りとの関係

在庫は資金を固定します。この業態では、支払いが先で入金が後になることが多いため、影響が大きく出ます。

確認してください。

  • 在庫として寝ている金額はいくらか
  • それは運転資金のどれだけを占めるか
  • 在庫を半分にしたら、資金繰りはどう変わるか

借入で運転資金を賄っている場合、在庫を減らすことが借入の圧縮につながります。そして借入が減れば、個人保証の交渉も進めやすくなります。

承継の場面での見え方

買い手は在庫を慎重に見ます。理由は3つです。

  • 帳簿価額と実際に売れる金額が違う可能性がある
  • 滞留品は売れないため、処分費が発生する
  • 実在するかの確認が難しい(大量の山を数えられない)

したがって、次の状態にしておくと評価が変わります。

  • 品目別に量が把握されている
  • 日数で見て、滞留がない
  • 帳簿と実態が一致している(棚卸をしている)
  • 売れない在庫は既に処分されている

在庫は多いほど評価されるものではありません。回転している在庫が評価されます。承継を考えるなら、量を減らして回転を上げるほうが有利です。

保管能力という上限

相場が上がると持ちたくなりますが、物理的な上限があります。

  • 保管基準(高さ、区分、囲いからの距離)
  • 敷地の面積
  • 火災リスク(量が増えれば被害も拡大します)
  • 盗難リスク

「もう少し積める」という判断が、基準への抵触につながります。相場を理由に基準を越えることは、あってはなりません。行政の指導を受ければ、得た利益を大きく超える損失になります。

持てる上限を先に決め、それを超える分は相場に関係なく出す。この線を引いておいてください。

在庫を減らすことが承継の準備になる

在庫の圧縮は、複数の効果を同時に生みます。

  • 相場下落時の損失が小さくなる
  • 資金が回り、借入を減らせる
  • 敷地が空き、保管基準を満たしやすくなる
  • 純資産が下がり、自社株の評価が下がる
  • 買い手から見た在庫の質が上がる

4番目は相続や承継の場面で効きます。売れない在庫が帳簿に載っているだけで、株の評価額が膨らんでいる会社があります。処分すれば評価が下がり、納税や買取の負担が軽くなります。

一度に大きく落とすと決算に響くため、数年に分けて進めてください。引退の3年前から着手すれば無理がありません。

※ 相場の見通しは不確実です。在庫水準の判断は自社の資金状況と保管能力を踏まえて行ってください。