下落局面で何が起きるか
相場が下がると、損益に3つの経路で影響が出ます。
① 出荷単価が下がる
最も分かりやすい経路です。同じトン数を出しても、入ってくる金額が減ります。
② 在庫の価値が下がる
高いときに仕入れたものを、安くなってから売ることになります。持っている量が多いほど、この損失が大きくなります。
ここが見落とされがちです。相場が上がっている局面では在庫が利益を生みますが、下落局面では逆に働きます。
③ 固定費は変わらない
人件費、土地の費用、設備の減価償却、保険。売上が減っても、これらは減りません。この業態は固定費の比率が高いため、影響が大きく出ます。
まず自社の耐性を測る
打ち手を考える前に、現状を数字にしてください。
やることは1つです。「主要品目の単価が今より2割下がったら、損益はどうなるか」を計算する。
手順は次のとおりです。
- 直近1年の品目別の出荷トン数と単価を出す
- 単価を8割にして売上を再計算する
- 仕入価格も同じ割合で下げられるかを検討する(下げられない部分がどれだけあるか)
- 固定費はそのままにして、損益を出す
この結果が、自社の耐性です。2割下がって赤字になるなら、手を打つ必要があります。
多くの会社がこの計算をしていません。しかし相場が2割動くことは珍しくありません。
打ち手1:仕入価格を連動させる
最も効果が大きく、最も実行しやすい打ち手です。
下落局面で赤字になる最大の原因は、出荷単価が下がったのに仕入価格を下げていないことです。
下げられない理由として挙がるのは次のようなものです。
- 取引先との関係で言い出しにくい
- 他社に流れるのが怖い
- そもそも仕入価格を誰がどう決めているか曖昧
3番目が根本にあることが多くあります。算式で決まる仕組みにすれば、交渉ではなく説明になります。「相場が下がったので、この算式でこの価格になります」と示せる状態を作ってください。
算式を取引先に開示している会社もあります。透明性が信頼につながり、かえって関係が安定します。
打ち手2:在庫水準を下げる
在庫は下落局面で損失を拡大させます。
やるべきことは次のとおりです。
- 品目別に、何トン持っているかを把握する
- 入荷から出荷までの日数を測る
- 相場が下がり始めたら、出荷の頻度を上げる
- 「上がるまで待つ」という判断の根拠を明確にする
最後の点が重要です。待つこと自体は戦略になり得ますが、根拠なく待つのは損失の先送りです。「いつまで待つか」「どこまで下がったら諦めるか」を先に決めてください。
打ち手3:歩留まりを上げる
同じ入荷から、より多く、より高い品位のものを取り出す。これは相場に関係なく効きます。
- 選別の精度を上げる(混ざりを減らす)
- 取り残しを減らす(銅、アルミの回収漏れ)
- 部品として売れるものをスクラップにしていないか見直す
1トンあたりの単価が数パーセント上がるだけでも、年間では大きな差になります。相場が下がる局面では、この差が黒字と赤字を分けます。
打ち手4:固定費を見直す
効果は大きいが、実行に時間がかかる領域です。
- 使っていない設備:維持費と減価償却が発生し続けています。除却か売却を検討します。
- 遊休地:固定資産税や地代がかかっています。活用するか手放すか。
- 運搬:自社車両を維持する場合と外注する場合を比較します。
- 人員配置:繁閑の差が大きいなら、配置の見直しが可能な場合があります。
人件費を削ることを最初に考えるべきではありません。この業界で最も採用が難しいのは人です。一度手放すと戻りません。
打ち手5:相場に左右されない収入をつくる
構造そのものを変える打ち手です。
- 部品販売の比率を上げる:中古部品の価格は金属相場ほど激しく動きません。
- 処理費をもらう仕事を持つ:台数に連動する収入は、相場の影響が小さくなります。
- 制度に基づく資金の受け取り:処理台数に比例します。
売上構成のうち、相場に連動する部分と連動しない部分の比率を把握してください。連動しない部分が固定費を賄えるようになれば、下落局面でも赤字になりません。
これは数年かけて作る構造です。しかし一度できれば、相場に一喜一憂しない経営になります。
下落局面を想定して事前に決めておく
相場が下がってから考え始めると、判断が遅れます。平時のうちに、下がったときの手順を決めておいてください。
紙1枚に書く内容の例を挙げます。
- 建値が一定水準まで下がったら、仕入価格の表を更新する
- さらに下がったら、出荷の頻度を上げる
- 在庫日数が一定を超えたら、まとまるのを待たずに出す
- この水準を超えて下がったら、設備投資の計画を止める
- 資金繰りがこの水準になったら、金融機関に相談する
数字を入れて決めておくことが大切です。「様子を見る」は判断ではありません。
下落局面はむしろ機会でもある
耐性のある会社にとって、下落局面は好機になり得ます。
- 耐えられない同業者が退出し、入荷が集まる
- 設備や用地が安く出てくることがある
- 人材が動く
ただしこれは、自社が黒字を維持できている場合に限られます。だからこそ、平時に構造を整えておく価値があります。
逆に、下落で体力を失った会社は、相場が戻る前に立ち行かなくなります。準備の有無が、数年後の姿を分けます。
※ 損益への影響は事業構成によって大きく異なります。本記事は考え方の整理であり、個別の試算は自社の数値に基づいて行ってください。