勘に頼る状態の何が問題か
長年やってきた社長の感覚は、たしかに正確です。しかし次の問題があります。
- 社長が不在の日に判断できない
- 現場が取引先に価格の理由を説明できない
- 相場が下がったときに、下げる決断が遅れる
- 品目ごとの採算が把握できない
- 承継のときに引き継げない
3番目が特に損失につながります。感覚で決めていると、値下げの判断が感情の問題になります。取引先に悪いと思って据え置き、粗利が消えます。
算式の基本形
考え方は単純です。出口から逆算するのです。
買取価格の上限=出荷単価 −(処理にかかる費用)−(目標粗利)
それぞれを具体化します。
出荷単価
主要な出荷先の建値を基準にします。品目ごとに置きます。
処理にかかる費用
1トンまたは1台あたりで積み上げます。
- 運搬費(自社なら車両費と人件費、外注なら運賃)
- 解体・選別にかかる人件費
- 処理費(廃棄物として出す部分の費用)
- 設備の維持費と減価償却
正確な数字が出なくても構いません。まずは概算で置き、後で精度を上げるという順序で進めてください。完璧を目指すと着手できません。
目標粗利
固定費を賄い、必要な利益を残せる水準を置きます。年間の固定費を処理量で割ると目安が出ます。
品目別・仕入先別に分ける
1つの算式で全部を決めるのは無理があります。分けるべき軸を挙げます。
- 品目:鉄、非鉄の品目ごと、雑品。処理の手間が違います。
- 状態:分別済みか混在しているか。手間が変わります。
- 持込か引取か:運搬費の有無が大きく効きます。
- 距離:引き取りに行く場合、距離帯で分けます。
実務では、1枚の表に品目と条件を並べ、上限価格を書き込む形が使いやすいのです。現場がその表を見て判断できるようにします。
更新の頻度を決める
算式を作っても、更新しなければ実態から離れます。
次のように決めてください。
- 出荷単価が変わったら更新:これが最も頻度が高い要素です。
- 費用の見直しは半年に一度:人件費、燃料費、処理費の変動を反映します。
- 目標粗利は年に一度:固定費の変化に応じて。
更新する人を決めてください。「気づいた人が直す」では誰も直しません。
現場への伝え方
表を渡すだけでは運用されません。次を伝えてください。
- この表の上限を超えて買ってはいけない
- 下回る分は現場の判断でよい(値引き交渉の余地)
- 表にない品目や、判断に迷うものは確認する
- なぜこの価格になるのか(算式の考え方)
4番目が定着の鍵です。理由を知らずに従っている状態は、忙しくなると崩れます。「相場が下がったから上限も下がる」という関係を理解していれば、現場が自分で説明できます。
取引先への伝え方
価格を下げる場面が最も難しいところです。算式があると、次のように伝えられます。
- 「出荷先の建値がこう変わったので、こちらもこの価格になります」
- 「相場が戻れば、同じ算式で上がります」
これは交渉ではなく説明です。相手も相場は見ているため、納得しやすくなります。
算式そのものを開示している会社もあります。透明性が信頼を生み、価格だけの競争から抜けられる場合があります。ただし自社の費用構造を明かすことになるため、どこまで示すかは判断が要ります。
承継への効き方
この仕組みは、承継の場面で明確な価値になります。
買い手が最も不安に思うのは、「社長がいなくなったら、この会社は回るのか」です。仕入価格の判断が算式になっていれば、その不安の一部が消えます。
あわせて、次の効果もあります。
- 品目別の採算が見えるため、事業の中身を説明できる
- 粗利率が安定し、業績の説明がしやすくなる
- 後継者が引き継いだ日から判断できる
作るのに数か月かかりますが、一度作れば毎日効きます。着手するなら、今期の数字が出ている今がよいタイミングです。
作るときの順序
一度に完成させようとすると挫折します。次の順で進めてください。
- 主要な1品目だけで作る:出荷量の最も多い品目から。
- 過去の実績と突き合わせる:算式で出た価格と、実際に払ってきた価格を比べます。大きくずれていれば、費用の見積もりか目標粗利を見直します。
- 1か月試す:現場に使わせて、不都合を洗い出します。
- 品目を増やす:同じ形で横に広げます。
- 更新の担当と頻度を決める
2番目が重要です。算式と実績が大きく違うなら、どちらかが間違っています。長年の感覚が正しいこともあるので、その場合は算式のほうを修正してください。
例外を許す設計にする
算式で機械的に決めると、現場が困る場面が出てきます。
- 大量にまとまる案件で、多少高くても取りたい
- 新規の取引先で、最初は条件を譲りたい
- 長年の取引先で、一時的に配慮したい
これらを禁じると、算式そのものが守られなくなります。例外を認める代わりに、誰の承認が必要かを決めてください。
そして例外は記録します。後から見れば、どの取引で粗利を削ったかが分かります。それが次の判断の材料になります。
※ 費用構造と目標粗利は会社ごとに異なります。算式は自社の実績数値をもとに設計してください。