勘に頼る状態の代償
長年やってきた社長の値付けは、たしかに的確です。しかし次の問題があります。
- 社長が不在の日、判断が止まる
- 問い合わせへの回答が遅れ、他社に流れる
- 同じ部品でも、日によって価格が変わる
- 値下げの判断が遅れ、滞留する
- 承継のときに引き継げない
2番目が最も直接的な損失です。中古部品の問い合わせは、複数社に同時に出されていることが通常です。回答が遅ければ負けます。
何を参照するのか
基準を作るには、参照する材料が必要です。
① 自社の過去の販売実績
最も信頼できる材料です。同じ部品を過去にいくらで売ったか。これが記録されていれば、基準の土台になります。
記録がないなら、今から残してください。部品名、車種、年式、状態、販売価格、販売までの日数。この5つがあれば十分です。
② 部品検索ネットワークの相場
同種の部品が、他社でいくらで出ているか。参加していれば確認できます。
ただし掲載価格と実際の成約価格は違うことに注意してください。売れずに残っている高値の掲載を基準にすると、自社も売れません。
③ 新品価格
新品がいくらか。中古の価格はそれに対する比率で説明できます。新品供給が終わっている部品は、相対的に価値が上がります。
④ 需要の情報
その車種がどれだけ走っているか、事故が多い部位かどうか。取引先から聞く情報も含みます。
基準の作り方
完璧な価格表は作れません。「基準値」と「調整幅」の組み合わせで考えてください。
段階1:基準値を置く
部位ごと、車種群ごとに標準的な価格を置きます。実績のあるものは実績から、ないものは新品価格に対する比率から。
段階2:状態による調整を決める
同じ部品でも状態で価格が変わります。調整の基準を明示してください。
- 傷、へこみの程度
- 走行距離(機能部品の場合)
- 年式
- 付属品の有無
- 動作確認の有無
ここで写真が効きます。「この程度の傷なら基準値、これなら2割引き」という見本を並べておけば、判断が揃います。
段階3:判断できる範囲を渡す
担当者に、どこまで自分で決めてよいかを示します。
- 基準値どおりなら、その場で回答してよい
- 1割までの値引きは自分の判断でよい
- それを超える場合は確認する
これがあれば、大半の問い合わせに即答できます。社長の確認が必要なのは例外だけになります。
値下げを仕組みにする
値付けと同じくらい重要なのが、下げる判断です。
期間で自動的に下がる仕組みを作ってください。
- 入庫から3か月:基準値
- 6か月:1割引き
- 1年:3割引き
- 1年半:処分の判定
数値は自社の実績に合わせて調整してください。重要なのは誰かが決断しなくても下がるという点です。
社長が「まだ下げたくない」と思っているうちに、在庫は古くなります。仕組みにすれば、その葛藤が発生しません。
データが値付けを助ける
基準を作るには、記録が必要です。逆に言えば、記録を残す運用そのものが値付けの精度を上げます。
残すべき最小限の項目を挙げます。
- 入庫日
- 部品名、車種、年式、純正品番
- 状態の区分
- 設定した価格
- 販売日、販売価格
- 値下げした履歴
1年たまれば、基準の見直しができます。「この部位は基準が高すぎた」「この車種は思ったより売れる」という判断が、データから出てきます。
承継への効き方
値付けの基準があることは、承継の場面で明確な価値になります。
買い手の不安は「社長がいなくなったら、この在庫は売れるのか」です。基準と記録があれば、その不安が消えます。
加えて、次の効果があります。
- 在庫の評価を説明できる(帳簿価額の妥当性)
- 売上の予測ができる
- 後継者が引き継いだ日から判断できる
- 担当者を増やせるため、事業を伸ばせる
作るのに数か月かかりますが、作った瞬間から毎日効きます。まず直近1年の販売実績を集計するところから始めてください。
問い合わせへの回答速度を測る
基準を作った効果は、回答速度に表れます。測ってください。
- 問い合わせを受けてから回答するまでの時間
- その日のうちに回答できた割合
- 社長の確認が必要だった件数
3番目が減っていけば、基準が機能している証拠です。全件の1〜2割まで下がれば、実務として十分です。
逆に半分以上が社長確認になっているなら、基準の範囲が狭すぎます。担当者に渡す判断の幅を広げてください。
安く売ることを恐れない
最後に、経営者に伝えたい点です。
「この部品はもっと高く売れるはずだ」という感覚が、在庫を滞留させます。しかし売れずに1年置いた部品は、その間の保管コストを食っています。
そして最終的に処分すれば、収入はゼロで処分費だけが残ります。
基準値より安く早く売ることが、結果として利益を残すという場面は多くあります。回転を優先する判断も、経営判断として正当です。
※ 価格の水準は市場環境と車種によって変動します。基準は自社の実績に基づいて設計し、定期的に見直してください。