取るほど儲かるとは限らない

解体の現場では、使える部品はできるだけ取るという発想が自然です。捨てるのはもったいないと感じます。

しかし1点取り外すたびに、次のコストが発生します。

  • 取り外す作業時間(人件費)
  • 清掃、検査、撮影の時間
  • データ登録の時間
  • 保管場所の占有
  • 棚卸の対象が1点増える
  • 売れなければ、最終的に処分費

売れれば回収できます。しかし売れない部品を取れば、これらのコストが丸ごと損失になります。しかも損失は数年後、処分する時点で確定します。

回転率で見る

まず現状を測ってください。難しい計算は要りません。

年間の出庫点数 ÷ 平均在庫点数 = 年間の回転回数

これを品目群ごとに出します。例えば次のような分け方です。

  • エンジン、ミッション
  • 外装(ドア、バンパー、ボンネット、ライト)
  • 内装(シート、内張り、メーター)
  • 足回り(ホイール、サスペンション)
  • 電装、電子部品

分けて見ると、回転している群と、まったく動いていない群がはっきりします。動いていない群には、取るのをやめるという判断があり得ます。

絞る基準をどう作るか

「勘で判断」から「基準で判断」に移す手順です。

段階1:過去の実績を出す

直近1〜2年の出庫データを、次の軸で集計してください。

  • 部位別の出庫点数
  • 車種・年式別の出庫点数
  • 在庫期間別(入庫から出庫までの日数)

3番目が効きます。入庫から1年以上経って売れた部品は、どれくらいあるか。ほとんどないなら、1年動かない在庫は今後も動きません。

段階2:取らない範囲を決める

実績から、次のような基準が導けます。

  • 年式が一定より古い車からは、特定の部位のみ取る
  • 出庫実績のない部位は取らない
  • 既に一定数の在庫がある部品は、それ以上取らない
  • 汎用性が低い車種の専用部品は取らない

3番目が実務で効きます。同じ部品が5個も在庫にあるのに、また取るという状況が実際に起きています。在庫データを見て判断する仕組みが必要です。

段階3:例外を認める

基準を絶対にすると、現場が困る場面が出ます。

  • 旧車で、希少価値がある
  • 取引先から具体的な引き合いがある
  • 状態が極めて良い

例外を認める代わりに、誰が判断するかを決めてください。そして例外は記録し、後で結果を見ます。売れたなら基準を見直す材料になります。

現場の抵抗をどう解くか

「取らない」という指示は、現場にとって理解しにくいものです。長年「もったいない」と教えられてきた人ほどそうです。

伝え方を工夫してください。

  • 数字で示す:「この部位は昨年○点取って、○点しか売れていない」
  • 時間の話にする:「取らない分の時間を、売れる部品の丁寧な処理に使う」
  • 処分費を見せる:滞留在庫を処分したときの費用を共有する
  • 目的を伝える:在庫を減らして資金を回す、敷地を空ける

2番目が受け入れられやすい伝え方です。「手を抜く」ではなく「集中する」という枠組みにしてください。

絞ることで生まれる余力

取る点数を減らすと、次の余力が生まれます。

  • 1点あたりの処理を丁寧にできる(清掃、検査、撮影)
  • データの質が上がり、売れやすくなる
  • 保管場所が空き、劣化を防げる配置にできる
  • 棚卸が現実的な作業量になる
  • 資金が在庫に固定されなくなる

1番目と2番目が重要です。点数を減らして質を上げれば、総売上が下がらないことがあります。写真がなく説明も曖昧な100点より、丁寧に整えた50点のほうが売れる、という構造です。

承継の場面での意味

買い手が在庫を見るとき、点数の多さは評価されません。見られるのは次の点です。

  • 回転しているか
  • 帳簿と実態が一致しているか
  • データが整備され、売れる状態にあるか
  • 滞留がどれだけあるか

滞留在庫は処分費というマイナスの資産として計算されます。点数が多いほど不利になることもあります。

絞る取り組みは、日々の資金効率を上げるだけでなく、譲渡時の評価を上げる準備でもあります。数年かけて進める価値があります。

取る判断を現場に渡す

基準を作っても、判断が社長に集中していれば現場は止まります。渡し方を設計してください。

実務としては、次の形が回ります。

  • 取る部位の一覧を貼る:車種群ごとに、標準で取る部位を示す。
  • 在庫数の上限を示す:「この部品は在庫5点まで」と決める。
  • 迷ったら取らないを原則にする(逆の原則にすると必ず増えます)。
  • 判断に迷ったものは、保留の置き場に一時的に置き、後でまとめて判断する。

2番目を実現するには、在庫数がその場で分かる必要があります。現場で在庫を確認できる環境があるかどうかが、この運用の前提になります。

半年ごとに基準を見直す

需要は動きます。基準を固定すると、実態から離れていきます。

見直しの材料は次のとおりです。

  • この半年の出庫実績(部位別、車種別)
  • 例外として取った部品が売れたかどうか
  • 取らないと決めた部品への引き合いがあったか
  • 滞留化した部品の傾向

3番目を記録してください。取らないと決めた部品に問い合わせが来ているなら、基準が厳しすぎます。現場に「聞かれたけど在庫がなかったもの」を残してもらうだけで分かります。

※ 適切な在庫水準は取扱車種と販路によって異なります。基準は自社の出庫実績に基づいて設計してください。