人手不足が慢性化する理由

自動車整備の分野では、有資格者の高齢化が進み、若年層の入職が細っています。加えて、整備士を養成する学校の入学者も減少傾向にあります。つまり採用市場そのものが縮んでいるため、募集を強化しても応募が集まりにくい構造です。

一方で車検専門店は、短時間で数をこなす運営が前提のため、一人あたりの負荷が高くなりがちです。負荷が高いと定着せず、抜けた分をさらに残った人が背負う。この悪循環が慢性化の正体です。

まず作業を分解して見る

車検の一台にかかる作業を、工程ごとに書き出してください。おそらく次のように分かれます。

  • 受付・顧客対応・車両の受け入れ
  • 書類作成・保険や税の確認・陸運局への手続き
  • 洗車・室内清掃・車両の移動
  • 分解整備を伴わない点検・測定
  • 分解整備・部品交換(有資格者が必要)
  • 完成検査・記録簿の作成
  • 納車説明・請求・次回案内

このうち有資格者でなければできないのは一部です。にもかかわらず、多くの店で整備士が全工程を担っています。ここに改善の余地があります。

有資格者の時間を守る

人手不足の実態は、多くの場合「整備士の時間不足」です。整備士が書類作成や洗車、電話対応に時間を取られていれば、本来の作業に使える時間は半分以下になります。

まずは整備士の一日の時間の使い方を記録してください。三日分で十分です。資格が必要な作業に使えている時間の割合が見えます。この割合を上げることが、採用より早く効く対策になります。

分業できる工程を切り出す手順

いきなり全部を分けようとすると現場が混乱します。順番を決めて進めてください。

  1. 整備士の時間を最も食っている非整備作業を一つ特定する
  2. その作業の手順書を写真付きで作る
  3. パート人材や未経験者に担当を移す
  4. 二週間試して、問題点を手順書に反映する
  5. 定着したら次の工程に移る

多くの店で最初に切り出すのは、洗車・清掃と、車両の入替・移動、そして書類の下準備です。この三つを移すだけで、整備士の稼働時間は明確に増えます。

多能工化を進める

分業の反対に見えますが、少人数で回すには両方が必要です。工程を分けたうえで、一人が複数の工程を担えるようにしておく。そうすれば、誰かが休んでもラインが止まりません。

  • 各工程を誰が担えるかを一覧表にする
  • 一工程につき最低二人が担える状態を目標にする
  • 月に一度、担当を入れ替えて経験を広げる
  • 手順書を更新し続ける担当者を決める
  • できる工程が増えた人を評価に反映する

最後の項目が重要です。できることが増えても待遇が変わらないなら、誰も覚えようとしません。評価との連動が多能工化の推進力になります。

繁忙期の山を崩す

車検には季節の波があります。特定の月に集中すると、その時期だけ人が足りなくなります。人員をピークに合わせて採用すると、閑散期に余ります。

案内のタイミングを調整し、満了前の早期入庫を促すことで、山をならせます。早期入庫の特典を用意する、繁忙月の予約が埋まる前に閑散月への誘導を行う、といった運用です。人を増やすより先に、需要の側を動かすほうが現実的です。

設備と道具で時間を買う

人が採れないなら、一人あたりの生産性を上げるしかありません。テスターやリフト、洗車機、そして予約・見積・記録を扱うシステム。これらは人の代わりに時間を作ります。

投資判断は、削減できる時間を金額に換算して行ってください。年間で何時間減り、その時間で何台多く回せるか。この計算が立たない投資は見送るべきです。なお設備投資に使える支援制度は年度により異なりますので、検討時点の公募要領を確認してください。

採用そのものも見直す

分業と多能工化を進めれば、採用の対象は整備士だけではなくなります。未経験者、他業種からの転職者、短時間勤務のパート人材。担える工程が明確なら、採用の間口は広がります。

  1. 募集する職種を工程単位で定義する
  2. 求人票に、担当する作業と一日の流れを具体的に書く
  3. 資格の有無を必須にせず、育成の道筋を示す
  4. 勤務時間や休日の実態を正直に記載する
  5. 応募から面接までの期間を短くする

求人票が「整備士募集・経験者優遇」だけになっている店は、応募が来ないのではなく、来る理由がない状態です。何を任せ、どう育てるかを書いてください。

辞めない現場をつくる

採用と同じかそれ以上に重要なのが定着です。せっかく育てた人が辞めれば、また振り出しに戻ります。車検業態で離職につながりやすいのは、繁忙期の長時間労働と、成長の実感のなさです。

できる工程が増えたことを本人に伝える、担当を任せる、資格取得を支援する。今日の作業が何につながっているかが見えると、人は残りやすくなります。制度を作る前に、日々の声かけから始められます。

それでも回らないと感じたら

工程を分け、多能工化を進め、設備も入れた。それでも必要な人数に届かず、社長自身が現場から抜けられない。この状態が長く続くと、経営判断や新しい取り組みに手が回らなくなります。

同業のグループに入ることで、人材の融通や採用力、育成の仕組みを共有できる場合があります。第三者への承継という形もあります。車検専門店は、顧客名簿と定期的な入庫サイクルという安定した基盤を持つため、事業として引き継ぎ手が見つかることがあります。条件は個別性が高く一概には言えませんが、従業員の雇用を守る手段としても、選択肢に入れておく価値はあります

よくある質問

Q. 未経験者を入れると品質が落ちませんか。担当させる工程を、資格や経験を要さない作業に限定すれば品質への影響は抑えられます。手順書を整備し、完成検査は必ず有資格者が行う体制にしてください。むしろ整備士が本来の作業に集中できる分、品質は上がることが多くあります。

Q. 手順書を作る時間がありません。全工程を一度に作ろうとするからです。まず一工程だけ、写真を並べて要点を書くところから始めてください。担当者に作ってもらい、社長が確認する形にすれば負担は分散します。完璧なものは不要です。

Q. 給与を上げないと人は採れないのではないですか。待遇は重要な要素ですが、それだけではありません。何を任されるのか、どう成長できるのか、休みは取れるのか。求人票にこれらが書かれていない店は、金額を上げても比較の土俵に乗りません。

まとめ

車検専門店の人手不足は、採用市場の縮小という外部要因に加えて、有資格者が非整備作業に時間を取られているという内部要因が重なって起きています。まず整備士の時間の使い方を記録し、資格が必要な作業に使えている割合を確認してください。

そのうえで、洗車・移動・書類の下準備といった工程を切り出し、担い手を広げる。同時に多能工化を進めて、誰かが休んでも止まらない体制にする。繁忙期は案内のタイミングで山を崩し、設備で時間を買う。人を増やす前に、いまいる人の時間を取り戻すことが先です。それでも回らないときに、グループ化や承継という選択肢を検討すればよいでしょう。