人手不足を「募集の問題」と捉えると打ち手を誤る

人が足りないとき、多くの工場はまず求人媒体を増やし、掲載条件を上げます。それ自体は間違いではありませんが、同じ人材を全国の工場が奪い合っている以上、募集の量を増やしても順番待ちの列が長くなるだけということが起こります。整備工場の人手不足は、労働市場の縮小と資格制度という二つの制約が重なった構造的な現象であり、対処も構造の側から入るほうが結果につながりやすいと考えられます。

まずは、なぜ自社に人が集まらないのかを、業界全体の事情と自社固有の事情に分けて捉え直すところから始めます。

人が集まらなくなる三つの流れ

整備工場に人が来ない状況は、次の三つの流れが重なって生じていることが多く見られます。

  • 若年人口そのものが減り、自動車整備を志す学生の母数も細っている。専門学校の定員充足が課題となる地域もある
  • 資格取得に時間がかかるため、必要になってから採用しても即戦力にならず、育成期間中の人件費を先に負担する必要がある
  • 他業種との待遇比較が容易になり、体力負荷や休日数の面で選ばれにくくなっている

このうち最初の二つは自社では変えられません。裏を返せば、自社で動かせるのは三つ目と、社内の作業の組み立て方だけということになります。ここに集中するのが現実的です。

負荷が偏ると、採用より早く離職が進む

人が減ると残った人の負担が増え、その負担がさらに離職を呼ぶという悪循環は、整備工場でよく起きます。特に、車検・一般整備・部品発注・引き取り納車・電話対応まで一人の整備士が抱えている現場では、繁忙期に一人抜けただけで全体が止まります。

採用には数か月から年単位の時間がかかりますが、離職は一日で起こります。入口を広げる前に、出口をふさぐという順番のほうが、結果として早く効くことが多いといえます。

まず現場の実数を出す

感覚で「人が足りない」と言っている限り、必要な人数も、代わりの手段も決まりません。次の数字を、直近半年分でよいので出してみてください。

  1. 整備士一人あたりの月間実作業時間と、そのうち資格が必要な作業に費やした時間の割合
  2. 一人あたりの月間売上総利益(粗利)と、人件費を賄えているかどうか
  3. 残業時間の分布。特定の人に偏っていないか
  4. 月別の入庫件数の山と谷。谷の月に何をしているか
  5. 直近三年の入退社人数と、退職者の在籍期間

特に一つ目が重要です。整備士が資格の要らない作業にどれだけ時間を使っているかが分かれば、採用しなくても増やせる作業時間が見えてきます。

資格が要る仕事に、整備士を集中させる

多くの工場では、整備士の時間の一定割合が資格を必要としない業務に費やされています。これらを切り出して別の担い手に移すだけで、実質的に人を増やしたのと近い効果が出ることがあります。

  • 洗車、引き取り・納車、車両移動、清掃、工場内の整理
  • 部品の発注、入庫確認、棚入れ、在庫管理
  • 電話対応、入庫日の調整、見積書や請求書の作成、保険会社への連絡
  • 車検の書類作成、陸運局への持ち込み手続き

これらはパート、事務職、シニア人材、あるいは短時間勤務者でも担える領域です。整備士を一人採用するより採用難度が低く、労務費も抑えられます。まずは一週間、整備士に作業内容をメモしてもらい、切り出せる仕事を洗い出すところから始められます。

工程を標準化し、教えられる状態にする

属人化した現場は、人を採っても戦力化に時間がかかり、教える側の負荷も上がります。標準化は品質のためだけでなく、採用した人を早く戦力にするための投資です。

まず着手しやすい三つ

  • 車検の点検手順と記録の書式を統一し、誰が担当しても同じ順番で進むようにする
  • よく出る作業(オイル交換、タイヤ交換、バッテリー交換、ブレーキパッド交換など)の標準作業時間と手順を紙一枚にまとめる
  • 工具・部品の置き場所を決めて表示する。探す時間は品質にも納期にも効いてくる

完璧な手順書を作ろうとすると終わらないので、まずは写真とメモ程度でも構いません。運用しながら直していく前提のほうが続きます。

設備とシステムで、人手の総量を減らす

人を増やせないなら、必要な人手そのものを減らす方向も検討に値します。リフトの増設、タイヤチェンジャーやアライメントテスターの更新、整備管理システムや電子車検証への対応、顧客管理のデジタル化などは、いずれも一人あたりの処理量を押し上げます。

投資判断は、削減できる時間 × 時間あたり粗利 で回収年数を見るのが分かりやすい方法です。ただし、補助金や税制優遇の内容は年度により異なりますので、実際の活用にあたっては最新の公募要領や専門家への確認が必要です。

離職を止めるほうが、採用より効果が早い

退職理由は「給与」と語られることが多いものの、掘り下げると別の要因が出てくることがよくあります。次の点を点検してみてください。

  • 休日数と休みの取りやすさ。土日が完全に埋まっていないか、有給が実際に使われているか
  • 夏場・冬場の作業環境。スポットクーラー、換気、暖房、休憩スペースの有無
  • 評価と昇給の基準が本人に見えているか。資格を取ったら何が変わるのかが伝わっているか
  • 工具代や資格取得費用の会社負担の範囲
  • 相談相手がいるか。若手が社長にしか聞けない状態になっていないか

このうち環境面は、比較的短期間かつ限られた費用で改善できるものが含まれます。金額の大きい待遇改善より先に手を付けられる領域です。

採用するなら、相手と伝える内容を変える

同じ求人票で同じ媒体に出し続けても結果は変わりません。順序立てて見直します。

  1. 誰に来てほしいかを一つに絞る。経験者か、未経験者か、資格取得中の学生か、他業種からの転職者かで刺さる言葉が変わる
  2. 求人票の記載を具体化する。扱う車種、一日の入庫台数、工具の支給範囲、資格支援の内容、残業の実態、教育担当の有無まで書く
  3. 写真を撮り直す。工場の外観だけでなく、実際に働いている人と設備を見せる
  4. 見学と体験の受け入れ枠を用意し、応募前に現場を見られるようにする
  5. 近隣の高校・専門学校との接点を作り、単発の求人ではなく継続的な関係にする

未経験者や異業種からの採用に踏み出す場合は、育成の型が先に必要です。前段の標準化と順番が逆になると、受け入れた側も本人も消耗します。

外注と協業で、繁忙期を乗り切る

すべてを内製する前提を外すと、選択肢が広がります。鈑金塗装や特殊作業の外注、近隣工場との繁忙期の相互応援、車両輸送の外部委託などは、固定費を増やさずに処理能力を確保する方法です。

同業との協業は競合意識から敬遠されがちですが、得意分野が違えば補完関係が成立します。地域の整備振興会や組合の場を、情報交換だけでなく実務的な連携の入口として使っている工場もあります。

それでも人が足りないときの、もう一つの道

打てる手を打っても、社長自身が高齢に近づき、後継者もおらず、採用の見通しも立たないという状況はあり得ます。その場合、事業を縮小して終える以外に、他社と組む、あるいは事業を引き継いでもらうという選択肢があります。

整備工場は、認証や指定の資格、設備、そして何より顧客台帳という無形の資産を持っています。グループ入りによって採用力や教育体制を共有できれば、従業員の雇用と技術を残したまま人手不足を解消できる場合もあります。ただし条件は個別性が高く、一概に言えるものではありません。早い段階で情報を集めておくこと自体が、選択肢を狭めないための備えになります。

急いで決める必要はありません。まだ余力があるうちに知っておくことが、後で選べる幅を残します。

よくある質問

Q. 求人の掲載費用を上げれば応募は増えますか。応募数は増えることがありますが、採用と定着につながるかは別問題です。掲載費を上げる前に、求人票の内容が具体的か、見学の受け入れができるか、入社後の教育担当が決まっているかを確認したほうが、費用対効果は高くなりやすいといえます。

Q. 未経験者を採用しても育てられる自信がありません。育成の型がない状態での未経験採用は、双方にとって負担が大きくなります。まずは資格の要らない業務を切り出して補助的な人材を入れ、その仕事を通じて現場を知ってもらいながら、標準作業手順を整えていく順番が現実的です。

Q. 人手不足を理由に会社を手放すのは早いでしょうか。判断の時期に一般解はありません。ただ、業績が保たれ、顧客と従業員が残っている状態のほうが選択肢は多くなります。手放すかどうかを決める前に、まず情報を集めて比較できる状態をつくることをおすすめします。

まとめ

整備工場の人手不足は、募集の巧拙よりも、資格制度と作業の組み立て方という構造に根があります。だからこそ、採用の前に、資格が要る仕事とそうでない仕事を分け、工程を標準化し、離職の原因を潰すという順番が効きます。

そのうえで採用に取り組み、外注や協業で繁忙期を吸収し、それでも将来の担い手が見えないときには、承継という選択肢を落ち着いて検討する。順番を守ることが、限られた時間と資金を無駄にしない一番の方法です。