なぜ配送だけが先に苦しくなるのか

配送は、他の業務と違って「後回し」ができません。倉庫の整理や請求書の処理は一日遅らせられますが、得意先が待っている部品は待たせられない。だから欠員が出た瞬間に、その穴は誰かの残業か、社長や内勤者の代走で埋められます。

さらに、配送の仕事は運転免許があれば始められるように見えて、実際には部品の知識、得意先の場所と担当者、置き場所の癖といった暗黙知が必要です。採用してもすぐには戦力にならないという時間差が、人手不足を長引かせます。

採用市場そのものが厳しくなっている

運転を伴う仕事は、物流全体で人材の奪い合いになっています。労働時間に関する規制の運用も含め、環境は変化しており、部品商が単独で好条件を提示して競り勝つのは容易ではありません。制度の詳細は改正されることがあるため、自社の運用が適合しているかは定期的に確認が必要です。

この前提に立つと、「人が採れたら解決する」という発想では計画が立ちません。採れないことを前提に、少ない人数で回る形をつくるほうが確実です。

人を増やす以外の三つの方向

人手不足への対応は、大きく三つに分けられます。それぞれ効果が出るまでの時間が違うので、並行して進めるのが現実的です。

  • 総量を減らす:無駄な配送・作業そのものをなくす(最も早く効く)
  • 生産性を上げる:同じ人数でこなせる量を増やす(数か月単位)
  • 担い手を広げる:多能工化・外部委託・共同化(半年以上かかることも)

多くの会社は三つ目から手をつけようとしますが、順番としては一つ目からです。減らせる仕事を残したまま人を増やしても、負担は形を変えて残ります。

配送の実態を見える化する

まずは現状を数字にします。一週間だけでよいので、次の記録を取ってください。

  1. 便ごとの出発時刻・帰社時刻・訪問件数・走行距離
  2. 訪問先ごとの滞在時間と、配達した品目の金額
  3. 定期便と緊急便の件数の内訳
  4. 同じ得意先に一日何回行っているか
  5. 積み込みと待機に費やしている時間

この記録を見ると、たいてい二つのことが分かります。ひとつは、少額の緊急配送が想像以上に多いこと。もうひとつは、同じ方面へ一日に何度も往復していることです。この二つを潰すだけで、配送の総量はかなり減らせます。

便数と時間帯を組み替える

配送の総量を減らす最も効果的な方法は、定期便の時間を固定し、得意先に周知することです。「この方面は午前十時と午後三時に回ります」と決めれば、得意先は締め時間に合わせて発注をまとめるようになります。

同時に、緊急配送の扱いを明文化します。何時までの注文なら当日、それ以降は翌朝一番、といった基準です。断るのではなく条件を示すのがポイントで、この形なら得意先も納得しやすくなります。ばらつきのある対応を続けるほうが、かえって不満と負担を生みます。

受注方法を電話から移す

電話受注は、受ける側の時間を丸ごと奪います。一件三分でも、一日百件なら五時間です。加えて聞き間違いによる誤配送が発生し、その修正にさらに人手がかかります。ここを変えると、内勤の余力が生まれ、配送や倉庫に人を回せるようになります。

全部を一度に変えようとしない

得意先には電話でないと難しい方もいます。まずは取引量の多い先から、発注システムやメール、チャットなど文字で残る方法へ移行を打診してください。文字なら記録が残り、誤発注の責任も明確になります。得意先にとってもやり直しの手間が減るという説明が有効です。

在庫と適合の照会も自動化の対象

「この車種にこの部品が付くか」という照会も、電話対応の大きな比率を占めます。よくある問い合わせを整理して資料化し、事前に配布するだけでも件数は減らせます。

倉庫内の作業時間を削る

配送そのものより、積み込み前のピッキングに時間がかかっている会社は少なくありません。次の点を点検してください。

  • 出荷頻度の高い品目が、通路の奥や高い棚に置かれていないか
  • ロケーション(棚番)が管理されており、誰でも探せる状態か
  • 方面別に仕分けるための場所が確保されているか
  • 梱包材や台車が取りに行きやすい位置にあるか
  • 検品のやり方が人によって違っていないか

棚の配置を動かすだけで、一日あたり数十分の短縮につながることがあります。費用がかからず効果が早い改善なので、最初に手をつける価値があります。

多能工化と役割の再配置

配送、倉庫、受注、営業。これらの担当が固定されていると、どこかに欠員が出た瞬間に止まります。誰がどの業務をできるかを一覧表にし、空白を計画的に埋めていくのが多能工化です。

一気に全員を何でもできるようにする必要はありません。一つの業務につき、必ず二人以上がこなせる状態を目指すだけで、休みが取れるようになり、突発的な欠員にも耐えられます。この状態は採用の面でも効いてきます。休めない職場には人が定着しないからです。

外部委託・共同配送という選択

自社便にこだわらない選択肢もあります。距離のある方面や、荷量の少ない区域は、宅配便や運送業者への委託のほうが安く済むことがあります。近隣の同業と方面を分担する共同配送も、地域によっては成立します。

検討する際は、自社便の一件あたり費用を先に算出してください。委託費と比べる基準がないと判断できません。前段で作った配送記録があれば、この計算はすぐにできます。

採用は「配送だけ」で募らない

求人を出す場合も、書き方で結果が変わります。「配送スタッフ募集」とだけ書くと、運転職の競合の中に埋もれます。倉庫管理や受注対応も含めた仕事として提示し、部品の知識が身につくこと、将来的に営業や管理へ進む道があることを示すほうが、応募の幅は広がります。

あわせて、次の項目を求人票に具体的に書いてください。読んだ人が自分の一日を思い描けることが、応募の決め手になります。

  • 一日の流れ(出社時刻、便の時間、帰社後の作業と退社時刻)
  • 担当する区域と、一日あたりのおおよその訪問件数
  • 扱う荷物の重さや大きさの実際
  • 入社後の教育の進め方と、独り立ちまでの期間の目安
  • 配送以外に任せる業務と、その先のキャリアの道筋

体制づくりが追いつかないと感じたら

改善を進めても、社長や特定の社員が穴を埋め続けている状態が何年も続いているなら、事業の規模と体制が合っていない可能性があります。その場合、配送区域を絞る、取扱品目を絞る、といった縮小の判断も選択肢です。

また、同業との協業や統合によって配送網と人員を共有する道もあります。倉庫や配送の重複を解消できれば、双方の負担が軽くなる場合があります。ただし条件や実現可能性は地域や事業内容によって大きく異なり、個別性が高く一概には言えません。急ぐ必要はありませんが、選択肢として頭の片隅に置いておくことは、判断の幅を広げます。

よくある質問

Q. 便数を減らすと得意先が離れませんか。 事前に時間を明示し、締め時間を守れば即日届くという運用にすれば、多くの得意先は受け入れます。むしろ「いつ来るか分からない」状態のほうが不満を生みます。試験的に一方面から始め、反応を見ながら広げるのが安全です。

Q. 電話受注をやめると高齢の担当者が困ります。 全面的にやめる必要はありません。取引量の多い先から段階的に移行し、電話の枠は残しておく形が現実的です。移行した先の比率が上がるだけで、内勤の余力は目に見えて変わります。

Q. 配送を委託すると品質が落ちませんか。 緊急性の高い部品や、置き場所に配慮が必要な得意先は自社便に残し、定型的で急がない荷を委託する切り分けが基本です。全部か無かで考えず、区分ごとに最適な手段を選んでください。

まとめ

部品商の人手不足は配送から表面化しますが、原因は配送だけにあるわけではありません。電話受注、倉庫作業、属人的な担当割り。これらが積み重なって、少ない人数では回らない構造をつくっています。

だからこそ、採用に頼る前に業務の総量を減らし、生産性を上げ、担い手を広げる。この順で進めることが確実です。人が足りない前提で回る仕組みができれば、採用の成果も定着につながりやすくなります。