減っているのは新規か、継続か

入庫台数の減少を語るとき、新規と継続を分けていない店が非常に多くあります。この二つは原因も対処もまったく違います。新規が減っているなら露出や価格の問題、継続が減っているなら関係維持の問題です。混ぜたまま対策を打つと、効かない手に費用をかけることになります。

顧客台帳から、今期の入庫を新規と継続に分けてください。継続については、前々回に来た顧客のうち何割が今回も来たかを計算します。この継続率が、車検業態でもっとも重要な指標です。

実際に分けてみると、新規は横ばいで継続だけが落ちている、という結果になることが少なくありません。その場合、広告を増やしても穴は埋まりません。

継続率を計算する手順

難しい計算は不要です。次の手順で出せます。表計算ソフトがなくても、紙と電卓で足ります。

  1. 二年前の同じ月に車検を実施した顧客を一覧にする
  2. そのうち今回も入庫した件数を数える
  3. 入庫した件数を対象件数で割る
  4. これを直近十二か月分繰り返す
  5. 月ごとの推移を並べ、下がり始めた時期を特定する

一度作れば、以降は毎月一行を足すだけで維持できます。重要なのは、単月の数字ではなく推移です。月ごとの台数は季節で揺れますが、継続率は季節の影響を受けにくく、店の状態をそのまま映します。

継続率とあわせて見る数字

継続率だけでは、何が起きているかまでは分かりません。次の数字を同じ表に並べてください。月ごとに並べると、変化した時点が浮かび上がります。

  • 月別の入庫台数を、新規と継続に分けた数
  • 車検一台あたりの付帯整備の金額
  • 予約枠に対して実際に埋まった割合
  • 代車の稼働状況と、貸し出せずに断った件数
  • 案内を出した件数に対する予約の件数
  • 見積を出したあと、実施に至らなかった件数

どれも新しく計測する仕組みは要りません。日報と予約表と請求の記録から拾えます。数えていないものは改善できないという前提で、まず記録から始めてください。最初の一か月は面倒に感じますが、二か月目からは作業として定着します。

下がり始めた時期から原因をたどる

継続率の推移を並べると、たいてい下がり始めた地点が見つかります。そこから前後三か月の出来事を書き出してください。

担当者が変わった、価格を変えた、待ち時間が延びた、案内の担当が退職した、近隣に競合ができた、代車が一台減った。単独では小さく見える出来事が、重なって効いていることがあります。現場の従業員に聞くと、経営者が把握していなかった事実が出てくることも珍しくありません。受付での対応が変わった時期を、いちばんよく知っているのは受付の担当者です。

原因が一つに絞れなくても構いません。心当たりを三つに絞るところまで進めば、次の打ち手は決まります。

案内のタイミングを設計し直す

車検の案内を満了の一か月前に一度だけ出している店は少なくありません。しかしその頃には、他店の案内がすでに届いています。特にディーラーや大手は早い段階から動きます。

  1. 満了の三か月前に一回目の案内を出す
  2. 二か月前に予約枠と早期の優待に関する情報を届ける
  3. 一か月前に最終案内と予約状況を伝える
  4. 満了後に来なかった顧客へ確認の連絡を入れる
  5. 各タイミングの反応率を記録して翌年に活かす

回数を増やすことが目的ではありません。他店より先に思い出してもらうことが目的です。一回目のタイミングを早めるだけで、結果が変わることがあります。逆に、短い間隔で同じ内容を何度も送ると、読まれずに捨てられる案内になります。

案内に何を書くかで反応は変わる

案内のタイミングを直しても、中身が価格だけを伝えるものであれば、比較の材料を自ら提供しているのと同じです。価格で呼べば、価格で去られます。

書くべきは、前回どんな整備を行ったか、次に気をつけたい箇所はどこか、いつまでに何をすれば間に合うか。顧客自身の車についての情報が入っているかどうかで、開封後の扱いはまったく変わります。一斉に配る紙面であっても、前回の作業内容を一行手書きで添えるだけで違いが出ます。

費用の内訳をどこまで書くかは店の方針によりますが、含まれるものと含まれないものの区別だけは明確にしてください。ここが曖昧だと、来店後の追加説明で不信を招きます。金額の水準そのものは個別性が高く一概には言えませんが、伝え方の明確さは、どの店にも共通して効きます。

二年間の空白を埋める

案内の設計だけでは限界があります。二年間まったく接点がない相手からの案内は、営業の郵便物と同じ扱いを受けます。間に接点を作ってください。

法定点検やオイル交換、タイヤの季節交換、点検の案内。理由は何でも構いません。年に一度でも顔を合わせていれば、車検の時期に自然に思い出してもらえます。車検は接点の結果であって、単独の商品ではないという捉え方が有効です。

接点をつくる仕組みとしては、来店時に次の作業時期を伝えておく方法が最も手軽です。次に来る理由を、帰り際に一つ渡す。これだけで、二年の空白は一年になります。

離脱した顧客の理由を知る

来なかった顧客に理由を聞くのは気が重いものですが、ここに改善のヒントが集中しています。全員に聞く必要はありません。直近で離脱した二十件ほどに絞って確認するだけで、傾向は掴めます。

  • 他店のほうが安かった
  • 予約が取れなかった、待ち時間が長かった
  • 追加整備の説明に納得できなかった
  • 車を買い替えて、購入店に出した
  • 引っ越し・廃車など、こちらでは対処できない理由

最後の項目は対処不能ですが、それ以外は改善できます。特に二番目は、設備や人員ではなく予約運用の問題であることが多く、費用をかけずに直せます。四番目が多い場合は、買い替えの相談を受けられる関係になっていないという別の課題が見えてきます。

予約と待ち時間の運用を見直す

電話がつながらない、希望日が埋まっている、代車がない。この三つは離脱の直接原因になります。特に代車は、台数が足りないだけで予約を断ることになります。

予約をWebでも受けられるようにする、代車の稼働状況を見える化して管理する、繁忙期の枠を早めに開ける。運用の工夫で吸収できる部分は少なくありません。作業時間の見積が実態と合っていないために枠が空かない、という場合もあります。実際の所要時間を数回計測し、枠の設定を見直してください。

断った件数を記録することも忘れないでください。断りは記録に残らないため、失った入庫は台数に表れません。数えていなければ、機会損失の大きさに気づけないままになります。

追加整備の説明でつまずいていないか

離脱理由として繰り返し挙がるのが、追加整備の納得感です。技術的に正しい提案であっても、伝え方が悪ければ「余計な作業を売られた」と受け取られます。

対策は、事前と当日の二段階に分けることです。事前の案内の時点で、車齢や走行距離から想定される交換候補を伝えておく。当日は、部品の状態を実際に見せ、今やる場合と次回まで待つ場合の違いを説明する。そのうえで判断は顧客に委ねる。この形にすると、追加整備は押し売りではなく相談になります。

交換の判断基準を店として文章にしておくと、担当者による説明のばらつきも減ります。同じ症状に対して人によって言うことが違う状態は、それだけで不信の原因になります。見送られた項目は記録に残し、次回に改めて相談してください。

価格で選ばれない顧客層を増やす

安さで来た顧客は、より安い店ができれば移ります。継続率を安定させたいなら、価格以外の理由で選ばれる必要があります。

整備内容の説明の丁寧さ、記録の残し方、車の状態を先回りして伝えること、緊急時の対応。こうした点は費用がかからず、しかも大手が真似しにくい領域です。整備の内容ではなく、伝え方で差がつくのがこの業種の特徴です。

法人の顧客や、同じ車に長く乗る顧客は、価格以外の要素を重く見る傾向があります。既存の顧客のなかで、価格の話をほとんどしない層が誰なのかを見てください。その層に共通する事情が分かれば、どこを厚くすべきかが見えてきます。

値上げをしても残ってもらう伝え方

継続率を守ろうとして価格を据え置き続けると、部品代や人件費の上昇を吸収しきれなくなります。値上げそのものより、伝え方と手順が離脱を左右します。

実施の前に既存顧客へ知らせる、変更の理由と作業内容の対応関係を説明する、案内を受け取った顧客が質問できる窓口を用意する。この三点を踏むかどうかで、受け止め方は変わります。請求書で初めて分かる形になると、金額の大小にかかわらず不信になります。

全体を一律に上げるのではなく、作業の内容ごとに見直す方法もあります。どの部分の採算が崩れているのかを先に把握してください。個々の価格設定は個別性が高く一概には言えませんので、判断に迷う場合は専門家にご確認ください。

指定工場と認証工場で打ち手は変わる

同じ車検を扱う店でも、指定工場(民間車検場)の指定を受けているか、認証工場として検査場に持ち込むかで、提供できる形が変わります。他店の打ち手をそのまま真似ても噛み合わないのは、この違いによることがあります。

指定を受けていれば、自社で検査を完結でき、当日中の引き渡しや立会形式の提供がしやすくなります。認証工場の場合は検査場の受入時間に左右されるため、預かり時間の設計や代車の運用が競争力を左右します。自社がどちらであるかを踏まえて、勝負する条件を選んでください。

整備主任者の配置や記録の保存など、認証・指定の維持に関わる要件は法令で定められています。人員の入れ替わりによって体制が揺らぐこともありますので、変更を検討する際は運輸支局や専門家にご確認ください。

併設・関連する業態からの流入を見直す

車検単体で集客するより、他の接点から流し込むほうが確実な場合があります。自社が併設している業態、あるいは提携できる相手を洗い出してください。

ガソリンスタンドを併設していれば、給油のたびに接点があります。中古車販売店を併設していれば、販売した車両の車検は本来自社に戻ってくるはずのものです。鈑金塗装を扱っていれば、修理で預かった際が次回車検を伝える機会になります。部品商や保険の代理店との関係から紹介が生まれることもあります。

併設していても、部門間で顧客情報が共有されていなければ流入は起きません。同じ会社の中で顧客が分断されていないかを、まず確かめてください。販売した顧客の車検満了日が、整備部門の名簿に載っていない。この状態は珍しくありません。

大手やディーラーとの競合をどう捉えるか

価格でも、設備でも、案内の物量でも、大手やディーラーと正面から張り合うのは現実的ではありません。争う土俵を選ぶ必要があります。

同じ人が最初から最後まで担当する、電話がすぐつながる、前回の作業を覚えている、急な不具合に融通が利く。こうした要素は規模が大きいほど提供しにくく、地域の店が優位に立てる領域です。設備投資を伴わない点も重要です。

一方で、ADASの調整や電動化が進んだ車両への対応など、設備と技術が前提になる作業は今後広がっていく方向にあります。すべてを自社で抱える必要はありませんが、対応できない作業をどこに依頼するかを決めておかないと、そのたびに顧客を他店に渡すことになります。近隣の工場や専門業者との連携先を、あらかじめ確保しておいてください。

新規獲得は継続の仕組みができてから

継続率が低いまま新規を増やしても、バケツの穴から漏れ続けます。広告費をかけて集めた顧客が二年後にいなくなるなら、毎回同じ費用がかかり続けることになります。

順番としては、継続の仕組みを整えてから新規に投資するのが合理的です。継続率が上がっていれば、新規獲得の費用対効果も大きく変わります。同じ費用で集めた顧客が二回、三回と来てくれるなら、一件あたりの獲得費用は実質的に下がります。

顧客台帳を使える状態にする

ここまでの施策はすべて、顧客台帳が検索・抽出できる状態であることが前提です。紙の台帳や、車両ごとにバラバラの管理では、案内も分析もできません。

  1. 直近三年分の入庫顧客をデータ化する
  2. 車検満了日、車種、連絡先、前回の整備内容を項目に入れる
  3. 満了月で抽出できる形にする
  4. 案内を出した記録と反応を追記する
  5. 毎月の入庫時に更新する運用を決める

全期間をやろうとすると終わりません。直近三年分に絞れば、多くの店で数日の作業で終わります。項目も欲張らず、まず五つに絞ってください。完全な台帳を目指すより、抽出できる台帳を早く手に入れるほうが価値があります。

商圏そのものが縮んでいる場合

継続率も新規も改善したが、そもそも地域の保有台数が減っている。この場合は、努力の方向を変える必要があります。商圏を広げるか、一台あたりの取引額を増やすか、あるいは事業の形そのものを見直すかです。

車検専門店は定期的な入庫サイクルと顧客名簿を持つため、整備網を広げたい事業者にとって価値が認められる場合があります。グループ入りによって集客や仕入れの支援を受ける形もあります。売却価格については、時価純資産+営業利益の2〜3年分(時価純資産法)が目安とされますが、実際は交渉で決まるものであり、条件は個別性が高く一概には言えません。

選択肢として知っておくことが、判断の幅を広げます。今すぐ決める話ではありません。ただ、判断材料になる台帳と数字が整っていなければ、その選択肢を検討することすらできない点は意識しておいてください。

よくある質問

Q. 案内はハガキとメッセージアプリのどちらがよいですか。A. 顧客層によって反応が異なるため、一概には言えません。両方を試し、反応率を記録して比較するのが確実です。高齢層には郵送が届きやすく、若年層にはアプリのほうが反応が早い傾向があります。

Q. 離脱した顧客に連絡すると迷惑ではないでしょうか。A. 案内の停止を希望された方を除けば、状況確認の連絡自体が迷惑になることは多くありません。売り込みではなく、車の状態を心配する内容にすれば受け止め方は変わります。反応がなければ次回以降の案内頻度を調整してください。

Q. 値上げをしたら継続率が下がりますか。A. 伝え方次第です。金額だけを通知すると離脱につながりますが、含まれる作業内容や部品の考え方を説明し、事前に案内すれば残る顧客は多くいます。実施前に、既存顧客への説明手順を決めておくことが重要です。

Q. 継続率は何割あれば十分なのでしょうか。A. 立地、客層、併設業態の有無によって前提が大きく違うため、他店の数字と比べてもあまり意味がありません。見るべきは自社の推移です。前年の同じ月と比べて上がっているか下がっているか。この比較だけで、打ち手の効果は判断できます。

Q. 顧客台帳が紙しかありません。何から手をつけるべきですか。A. 直近三年分に絞り、満了月、連絡先、車種の三項目だけをまず入力してください。整備内容は後から足せます。完璧を目指すと着手できないまま時間が過ぎます。満了月で抽出できる状態になった時点で、案内の設計は始められます。

まとめ

車検の客が減ったときは、新規と継続を分けることから始めてください。多くの場合、減っているのは継続分です。二年前の顧客が今回も来たかを月ごとに計算し、付帯整備額や予約充足率、断った件数と並べれば、いつから何が起きたかが見えます。

そのうえで、案内の一回目を早め、中身に顧客自身の車の情報を入れ、二年間の空白に接点を作り、離脱理由を実際に聞き、予約と代車の運用を整える。追加整備の伝え方を二段階に分け、値上げは手順を踏んで進める。指定工場か認証工場かで打てる手は変わり、併設業態からの流入も見直す余地があります。広告を増やす前に、すでに知っている顧客との関係を立て直すほうが、費用も時間もかかりません。土台となる顧客台帳を使える形にすることが、すべての出発点になります。