モーダルシフトとは
トラック輸送の一部を、鉄道や海運(内航船)に切り替えることです。主に長距離の幹線輸送が対象になります。
目的は次のとおりです。
- ドライバー不足への対応
- 労働時間規制への対応
- 環境負荷の低減
- 輸送コストの削減(条件による)
四つの目的のうち、自社にとってどれが主かを決めておいてください。目的によって、検討すべき便も、比べる基準も変わります。
規制への対応が主なら、基準に収まらない便が対象になります。費用の削減が主なら、費用を比べて判断することになります。環境が主なら、荷主の要望が起点になります。
向く貨物・向かない貨物
| 向く | 向かない |
|---|---|
| 長距離(一定以上の距離) | 近距離・中距離 |
| ロット・量がまとまる | 小口・多頻度 |
| リードタイムに余裕がある | 翌日必着、時間指定が厳しい |
| 定期的な輸送 | 不定期・スポット |
| 荷姿が規格化されている | 特殊な形状・重量 |
| 温度管理が不要または対応可能 | 厳密な温度管理が必要 |
すべての貨物が対象になるわけではありません。 自社の荷物がどちらかを見極めてください。
この表に照らして自社の運行を分けてみると、対象になる便は限られることが多いはずです。それでも、長距離の便が何本かあれば検討の価値があります。
見分けるときは、まず距離で絞り、次に納品の条件で絞ります。距離があっても翌日必着なら難しく、時間に余裕があれば候補になります。
荷姿も重要です。規格化された形で積めるなら移しやすく、特殊な形状だと積替えの手間が増えます。
対象になる便が見つかったら、その便の採算も確認してください。今の形で採算が取れている便を無理に変える必要はありません。規制に収まらない便や、採算の厳しい便から検討するのが順序です。
運送会社にとっての機会
1. 前後の集配
鉄道・海運を使っても、発地から駅・港まで、駅・港から着地まではトラックが運びます。この区間の仕事が生まれます。
しかも、近距離で日帰りの運行になるため、規制対応と採用の面で有利です。
2. 自社が提案する側になる
荷主が自力でモーダルシフトを検討するとは限りません。運送会社が組み合わせを提案できれば、単なる下請けから提案する側に回れます。
- どの路線が対象になるか
- リードタイムがどう変わるか
- コストの比較
- 前後の集配をどう組むか
これは3PLへの転換の方向でもあります。
3. 長距離運行の負担軽減
自社が抱える長距離運行のうち、規制に収まらない便をモーダルシフトに切り替えるという使い方もあります。時間外労働の上限規制への対応をご覧ください。
三つの機会のうち、二つ目の提案する側に回るという点が最も価値があります。荷主から言われて対応するのと、こちらから持ちかけるのとでは、立場が違います。
提案するには、材料を用意する必要があります。どの便が対象になるか、切り替えると何がどう変わるか、費用はどうなるか。この三つが揃えば、相手も検討できます。
費用の比較では、前後の集配を必ず含めてください。幹線の部分だけを比べると安く見えますが、両端の運行を足すと変わらないことがあります。
時間の変化も伝える必要があります。届くまでの日数が延びるなら、それを前提にした発注ができるかを相手に確認してもらうことになります。
運送会社にとっての脅威
- 長距離の幹線輸送を失う
- その分の車両・ドライバーが余る
- 単価の高い仕事が減る可能性
荷主が自社を通さずにモーダルシフトを進めると、仕事だけが減ります。だからこそ、提案する側に回る意味があります。
この脅威が現実になるのは、荷主が直接手配できる場合です。フォワーダーや鉄道の会社と直接話せば、こちらを通さずに進められます。
だから、こちらから提案する意味があります。提案すれば、前後の集配は自社が担うという形で話が進みます。何もしなければ、幹線だけが抜けます。
提案できる状態にするには、路線の情報と費用の見当を持っている必要があります。相談する先としては、鉄道や船の会社、それらを扱う事業者が挙げられます。
実務上の課題
1. リードタイムが延びる
積替えと待ち時間が生じます。荷主の納品条件と合うかが最初の関門です。
2. 積替えの手間とコスト
コンテナ単位で運べれば積替えは不要ですが、コンテナに載せる作業は発生します。荷役の負担とコストを計算してください。
3. 便数と発着時刻の制約
鉄道・船は本数が限られます。その時刻に間に合わせる必要があり、集荷の計画に制約が生まれます。
4. 遅延・運休のリスク
災害・事故で運休した場合の代替手段を、事前に決めておく必要があります。荷主への説明責任は運送会社に残ることがあります。
5. コンテナ・機材の手配
繁忙期には手配が難しくなることがあります。
五つの課題のうち、四つ目の遅れや運休への備えが最も重要です。止まったときにどうするかを決めていないと、荷主への対応で困ります。
備えとしては、代わりの手段をあらかじめ決めておくことです。トラックで運ぶ場合の手配、それにかかる費用、誰が判断するか。この三点が決まっていれば、慌てずに済みます。
費用を誰が負担するかも、事前に取り決めておく必要があります。天候による運休はどちらの責任でもありませんが、費用は発生します。決めていないと、その場で揉めます。
三つ目の便数の制約も、運用に影響します。その時刻に間に合わなければ、翌日になります。集荷の計画に余裕を持たせておかないと、遅れが積み重なります。
検討の進め方
- 対象になりそうな路線を洗い出す:長距離・定期・ロットがまとまる
- リードタイムを確認する:荷主の条件と合うか
- コストを比較する:トラック直送 vs 鉄道・海運+前後の集配
- 鉄道・船会社、フォワーダーに相談する
- 荷主に提案する
- 試験的に実施する:一部の便から
3番目では、前後の集配コストを必ず含めてください。幹線が安くても、集配を足すと変わらないことがあります。
六つの手順のうち、四つ目の相談は早めに済ませてください。実際の便の有無、空きの状況、料金の水準。これらは聞かないとわかりません。
聞くときは、具体的な区間と量を示してください。漠然と聞いても、答えも漠然としたものになります。この区間で、この量を、この頻度で、という前提があれば具体的な話ができます。
五つ目の荷主への提案は、材料が揃ってからにしてください。曖昧な状態で持ちかけると、相手も判断できません。
環境面での訴求
荷主が輸送に伴う環境負荷を把握しようとする動きがあります。モーダルシフトは、その削減策として分かりやすい取り組みです。
荷主への提案材料として使えます。荷主側の規制強化と運送会社への影響、EVトラック・次世代車両の検討をご覧ください。
この面での説明を求められることが増えています。求められたときに答えられるよう、切り替えによって何がどう変わるかを整理しておいてください。
ただし、削減の効果を自分で計算して示すのは慎重にしてください。算定の方法には決まった考え方があり、誤ると信用を損ねます。求められる形式があるなら、それに従う必要があります。
支援制度
モーダルシフトの取り組みについて、支援制度が用意されることがあります。名称・要件・時期は年度によって変わるため、最新の情報を確認してください。
※ 補助金の名称・対象経費・要件・公募時期は年度によって変わります。本記事は一般的な進め方を整理したものですので、実際の申請にあたっては、必ず最新の公募要領をご確認ください。
中継輸送との比較
長距離運行の負担軽減という目的では、中継輸送という選択肢もあります。
| モーダルシフト | 中継輸送 | |
|---|---|---|
| 手段 | 鉄道・海運を使う | トラックのまま人を交替 |
| 制約 | 便数、発着時刻、リードタイム | 相手先、中継地点 |
| 柔軟性 | 低い | 比較的高い |
| 自社の仕事 | 前後の集配のみ | 幹線も自社 |
自社の仕事を残したいなら中継輸送、荷主のコストと環境を優先するならモーダルシフト、という整理ができます。
この比較で見落とされやすいのが、自社の仕事がどうなるかという点です。幹線を他の手段に移せば、その分の売上は減ります。
だから、自社にとって何を優先するかを先に決めてください。長距離の運行の負担を減らしたいのか、仕事を残したいのか、荷主の要望に応えたいのか。
両方を組み合わせる形もあり得ます。一部の便を切り替え、残りは中継の形で回す。どちらか一つに決める必要はありません。
中継の形は、相手が要ります。同業との協力関係がないと組めません。この関係を作ること自体に時間がかかるため、早めに動く価値があります。
前後の集配をどう組むか
この形になると、自社の仕事は両端の運行になります。近距離で日帰りになるため、規制の面でも採用の面でも扱いやすくなります。
ただし、時間の制約は厳しくなります。決まった時刻までに持ち込まなければ、その便に載りません。積み残せば、荷主に迷惑がかかります。
だから、余裕を持った計画が要ります。通常より早めに集荷し、余裕を見て持ち込む。この余裕を見込むと、一日に回れる件数は減るかもしれません。
到着した側の運行も、同じく時間の制約を受けます。到着してから配るまでの時間が読めなければ、届け先との約束も立てられません。
両端をどちらが担うかも、決めておく必要があります。自社が両方を担えれば管理しやすくなりますが、遠方の側は他社に頼むことになるかもしれません。その場合の連携も課題になります。
試してから広げる
いきなり多くの便を切り替えるのは危険です。想定していなかった問題が、実際に動かしてみて出てきます。
まず一本の便で試してください。積替えにどれだけ時間がかかるか、時刻に間に合うか、届くまでの日数がどうなるか。数か月続ければ、実態がわかります。
試している間は、従来の形も残しておくと安心です。問題が起きたときに戻せます。
結果を記録しておけば、荷主への説明にも使えます。実際にやってみてこうなった、という事実は、机上の説明より説得力があります。
荷主の環境への関心をどう使うか
荷主が輸送に伴う環境への影響を気にする場面が増えています。この取り組みは、その面での説明がしやすい方法です。
ただし、環境の話だけで進めようとすると、費用の話でつまずきます。相手が求めているのが環境への配慮であっても、費用が上がるなら判断は難しくなります。
だから、費用と時間と環境の三つを並べて示すのが実際的です。費用がこう変わり、日数がこう変わり、環境の面ではこういう意味がある。相手が判断できる形にして渡してください。
支援の制度が用意されることもありますが、名称も要件も時期も年度によって変わります。使えるかどうかは、その時点の内容を確認してください。
切り替えた後に残るもの
幹線を他の手段に移すと、その分の車両とドライバーが空きます。この空いた分をどうするかを、切り替える前に考えておく必要があります。
両端の運行に回せるなら、そのまま使えます。ただし、必要な台数は幹線より少なくなることが多いはずです。
余った分を他の仕事に回せるかも確認してください。回せる仕事がないなら、車両を減らすことになります。減らすにも、リースの残りや処分の費用が絡みます。
この検討をせずに切り替えると、幹線の売上が減っただけで、費用は残るという状態になります。切り替えの判断には、この先まで含めてください。
この検討が会社に残すもの
実際に切り替えるかどうかにかかわらず、この検討をすること自体に価値があります。
まず、自社の運行を距離と時間と量で整理することになります。この整理は、他の判断にも使えます。どの便が長く、どこに余裕があり、何が制約になっているか。
次に、費用の構造が見えます。幹線と集配を分けて計算すると、それぞれにいくらかかっているかがわかります。この数字は、運賃の話をするときにも使えます。
三つ目に、荷主と話す材料が増えます。輸送の方法について選択肢を示せる会社は、単に運ぶだけの会社とは違って見られます。
だから、結論として切り替えないことになっても、検討の過程は無駄になりません。数年後に条件が変われば、そのときの判断も速くなります。
まとめ
モーダルシフトは長距離・定期・ロットがまとまる貨物に向きます。運送会社にとっては前後の集配という仕事が生まれ、提案する側に回れば関係が深まります。コスト比較では前後の集配を必ず含めてください。中継輸送との使い分けも検討の余地があります。