なぜ採用が難しいのか
ドライバー不足の背景には、複数の要因が重なっています。就業者の高齢化が進む一方で若年層の入職が少ないこと、免許制度の変更により若い人が乗れる車種が限られること、そして労働時間の規制強化によって、同じ売上を出すためにより多くの人手が必要になっていること。
つまり、採用の難易度が上がると同時に、必要な人数も増えているという状況です。従来と同じやり方で募集をかけても、成果が出にくいのは当然といえます。
定着に効く打ち手
採用に力を入れる前に、まず「辞めない会社」にすることが結果的に近道です。次の点は、比較的取り組みやすく効果も出やすい領域です。
- 賃金の見える化:何をどれだけやると、いくらになるのかが分かる仕組みにする
- 労働時間の適正化:荷待ちの削減、配車の平準化、休日の確保
- 車両と装備:古い車両ほど負担が大きい。安全装備や快適性は定着に効きます
- 評価と対話:面談の機会をつくり、不満が退職になる前に拾う
- 資格取得の支援:免許取得費用の補助や、運行管理者資格の取得支援
特に賃金の見える化は重要です。同じ金額でも、算定根拠が分からない賃金は不満につながりやすく、逆に納得感があれば定着します。労務の整備と重なる領域でもあります(運送業の労務リスクと承継)。
採用のチャネルを広げる
従来の求人媒体だけでなく、次のような方法を組み合わせる会社が増えています。
- 従業員紹介(リファラル)— 定着率が高い傾向があります
- 未経験者の採用と育成 — 免許取得支援とセットで設計する
- 女性・シニア層の採用 — 車種や配送内容の見直しとあわせて検討する
- 自社サイト・SNSでの発信 — 職場の雰囲気が伝わると応募につながりやすい
いずれも即効性は高くありませんが、続けるほど効いてきます。
有資格者の確保という論点
ドライバーだけでなく、運行管理者・整備管理者の確保も重要です。これらは事業継続の前提となる人的要件であり、1人しかいない状態は、承継時のリスクとして見られます。
資格者を複数名確保しておくこと、社内で計画的に資格取得を進めることは、日常のリスク管理であると同時に、承継の準備でもあります。
人材の状態は、そのまま企業価値になる
M&Aの場面で、買い手が最も重視するもののひとつが人です。車両は買えますが、人はすぐには増やせません。次のような点が具体的に見られます。
- ドライバーの人数、平均年齢、勤続年数の分布
- 直近数年の離職率と採用実績
- 運行管理者・整備管理者などの有資格者の人数
- 配車・荷主対応が特定の1人に依存していないか
「人が定着している会社」は、引き継いだ後の絵が描きやすい会社です。これは価格にも条件にも反映されます(売却価格の決まり方)。
承継を考える経営者にとっての意味
人材の課題は、承継の課題と地続きです。人が減り続ける会社は、続けることも譲ることも難しくなります。逆に、人が定着している会社は選択肢を持てます。
採用と定着の取り組みは、成果が出るまでに時間がかかります。だからこそ、引退の時期から逆算して、早めに着手する価値があります。
必要な人数を計算する
採用の難易度が上がると同時に必要な人数も増えていると書きました。まず、自社に何人必要かを出してください。
計算の起点は、運行の量です。今受けている仕事を、労働時間の基準の範囲で回すには、何人が必要か。一人あたりの稼働できる時間から逆算できます。
そのうえで、今の人数と比べてください。足りていないなら、その差が採用すべき人数です。足りているように見えても、休みや退職への備えがなければ、実質的には不足しています。
あわせて、今後数年で定年を迎える人数も見てください。この人数を補わなければ、現状維持もできません。
この計算をすると、採用の目標が具体的になります。「人が足りない」という感覚ではなく、何人をいつまでに、という形になります。
そして、その人数が現実的に採用できるかを考えてください。難しいなら、受注の量を調整するか、稼働を上げるか。人を増やす以外の道も、同時に検討する必要があります。
免許の制度が採用に効いている
免許制度の変更により若い人が乗れる車種が限られると書きました。この点への対応を整理します。
若い人を採用する場合、最初から大型に乗れるとは限りません。乗れる車種で始めてもらい、段階的に取得を支援していく形になります。
だから、小型や中型の車両で担える仕事があるかを確認してください。すべてが大型の運行だと、若い人の入口がありません。
そして、取得を支援する計画を持ってください。入社してから何年で、どの免許を取ってもらうか。目安があると、本人も見通しが立ちます。
取得までの間、どういう仕事を担ってもらうかも決めてください。中途半端な扱いになると、待っている間に辞めます。
あわせて、取得の支援は費用がかかります。この費用を、採用にかかる費用の一部として見てください。経験者を高い条件で採用するより、結果として安く済む場合があります。
定着の施策に優先順位を付ける
比較的取り組みやすく効果も出やすい領域をいくつか挙げました。順序を決める考え方を示します。
最初に手をつけるべきは、費用がかからず、すぐ始められるものです。賃金の見える化は、明細の項目を分けるところから始められます。面談の機会を作ることも、費用はかかりません。
次が、運用を変えることで対応できるものです。配車の平準化、休日の取り方、荷待ちの削減。時間はかかりますが、大きな投資は要りません。
そして、費用がかかるものが最後になります。車両の更新、装備の導入、賃金の引き上げ。効果は大きいのですが、原資が要ります。
ただし、車両の更新は時期が決まっています。更新の機会が来たときに、装備を選定の基準に入れてください。逃すと次まで待つことになります。
そして、何から手をつけるかは、辞めた人の理由から決めてください。自社で効いている原因に手を打つのが、最も効率的です。
有資格者を複数にする計画
一人しかいない状態は承継時のリスクとして見られると書きました。複数にする進め方を示します。
まず、現在の有資格者と、必要な人数を一覧にしてください。営業所ごとに必要な資格と、実際にいる人数。ここで不足が見えます。
そのうえで、取得を目指す人を決めてください。本人の意思が前提ですが、会社から声をかけなければ進みません。
そして、取得の支援を制度にしてください。費用の負担、受験に必要な実務の経験、勉強の時間の扱い。曖昧なままだと、進みません。
取得の時期は分散させてください。同じ時期にまとめて取ると、更新の研修も同じ時期に集中します。
そして、資格を取った人の処遇も決めてください。手当を付けるのか、担当が変わるのか。取得後に何も変わらないと、次の人が続きません。
採用と受注を切り離さない
採用の難易度が上がる一方で必要な人数が増えているという状況を示しました。この状況では、受注の側の判断も必要になります。
人が確保できないまま受注を維持しようとすると、今いる人に無理がかかります。無理がかかれば、辞める人が出ます。辞めれば、さらに残った人に負担が集中します。この連鎖が、最も避けたい状態です。
だから、人員に対して受注が過大なら、量を絞る判断が要ります。採算の悪い取引から順に整理すれば、収益を落とさずに量を減らせる場合があります。
そして、量を絞ることで、残った人の負担が下がります。負担が下がれば、辞める人が減ります。この順序で回すほうが、結果として運べる量が安定します。
ただし、量を絞ることには抵抗があります。売上が減ることへの不安と、荷主との関係。だからこそ、採算の数字を持っていることが判断を支えます。
そして、絞る判断をしたことは、社内にも伝えてください。無理な受注を続けない方針であることが分かると、現場の見方が変わります。
賃金の見える化を実際にやる
算定根拠が分からない賃金は不満につながりやすいと書きました。実際の進め方を示します。
まず、明細の項目を分けてください。基本給、歩合、手当、時間外。合算されていると、何がどう変わったかが分かりません。
そして、歩合がある場合は、その根拠を添えてください。対象になった運行、適用した単価、計算された金額。本人が検算できる形にします。
あわせて、その月の実績も示してください。走行距離、運行の回数、時間外の時間。数字が並んでいると、前月との違いを自分で説明できます。
そして、説明できる担当を決めてください。疑問が出たときに聞ける相手がいるかどうかが、納得に効きます。
この作業は、計算そのものの見直しと一緒に進めてください。見える化した結果、計算の誤りが表に出ることがあります。先に確認しておくほうが安全です。
取り組みの成果をどう測るか
成果が出るまでに時間がかかると書きました。途中で判断できるよう、測り方を決めておいてください。
採用については、応募の件数、面接の件数、入社の人数を月次で追ってください。入社数だけを見ていると、どこで止まっているかが分かりません。
定着については、離職の人数と、その理由を記録してください。人数が減っているかだけでなく、理由が変わっているかも見てください。
そして、入社してから一年経った人が何人残っているかを追ってください。採用しても続かなければ、実態は変わっていません。
これらの数字は、年に一度ではなく四半期ごとに見てください。年に一度では、手を打つ機会が少なくなります。
そして、数字が動かない時期があっても、続けてください。採用も定着も、半年や一年では結果が出ません。二年、三年の取り組みとして計画してください。
属人化が人の問題を悪化させる
配車や荷主対応が特定の一人に依存していないかが見られると書きました。この点は、人の確保にも直結します。
一人に集中していると、その人が休めません。休めない状態が続けば、いずれ辞めます。辞めれば、誰も引き継げません。
そして、その人が抜けたときに、荷主との関係も失われます。取引そのものが揺らぐことがあります。
だから、分散は人の確保の施策でもあります。休みが取れるようになれば、続けられます。
進め方としては、まず何が集中しているかを洗い出してください。配車の判断、荷主との連絡、特定の運行の段取り。抜けたら止まるものを挙げます。
そのうえで、手順を文書にし、別の人が一度担当してみてください。この作業には本人の協力が要るため、目的を伝えてください。負担が減り、休めるようになるという利点があります。
紹介による採用を設計する
従業員紹介は定着率が高い傾向があると書きました。仕組みとして回すための設計を示します。
まず、紹介してもらいたいことを伝えてください。何も言わなければ、そういう発想は生まれません。人を探していることを、繰り返し伝えてください。
そして、どんな人を探しているかも具体的に伝えてください。経験の有無、免許、勤務の形態。曖昧だと、紹介しにくくなります。
紹介した側への配慮も設計してください。金銭の形にする場合は、支給の条件と時期を決めてください。入社した時点か、一定期間続いた時点か。
そして、紹介された人が合わなかった場合の扱いも考えてください。紹介した側が気まずくならないよう、判断は会社の責任であることを明確にしてください。
この方法は件数が多くありません。ただし、仕事の中身を知ったうえで入ってくるため、定着します。他の方法と並行して、地道に続けてください。
人が減り続ける会社の選択肢
人が減り続ける会社は続けることも譲ることも難しくなると書きました。この状況への向き合い方を整理します。
まず、減っている速さを把握してください。年に何人減り、何人入っているか。この差が続けば、いつ回らなくなるかが計算できます。
そのうえで、いつまでに何をするかを決めてください。採用で埋めるのか、量を絞るのか、他の会社と組むのか。時間が残っているうちなら、選べます。
人が減りきってから動くと、選択肢がなくなります。譲る場合も、人がいない会社は評価が下がります。買い手が求めているのは、車両ではなく運べる体制だからです。
だから、まだ回っているうちに判断してください。回らなくなってからでは、条件が悪くなります。
そして、判断の材料として、人の状態を数字で持っておいてください。人数、年齢、勤続年数、離職率。これらが揃っていれば、いつ何をすべきかが見えます。
まとめ
ドライバー不足への対応は、採用の工夫だけでなく、定着の仕組みづくりから始まります。賃金の見える化、労働時間の適正化、資格取得の支援。これらはすべて、日々の経営を良くしながら、将来の選択肢を広げる取り組みです。
人の課題と承継の課題は、切り離さずに考えることをおすすめします。現状をお聞かせいただければ、優先順位の付け方からご提案します。