人手不足を経営課題として捉える

人手不足は、一時的なシフトの穴という以上に、経営の根幹に関わる課題です。人が足りなければ、営業時間の維持もサービスの品質も難しくなり、既存のスタッフの負担が増えて、さらなる退職を招く悪循環に陥りかねません。目先の穴埋めだけでなく、構造的に向き合う必要があります。

大切なのは、採用だけに解決を求めないことです。人を採ることと同じくらい、辞めない職場をつくること、そして人手に頼りすぎない仕組みを整えることが重要になります。採用・定着・省人化・多能工化という複数の視点から、自店にできることを組み合わせて取り組む姿勢が求められます。

採用の間口を広げる工夫

人を募集しても応募が集まらないときは、募集の仕方を見直す余地があります。どんな人に来てほしいのか、その人にとって働く魅力は何かを整理し、伝わる言葉で発信することが出発点です。仕事内容や職場の雰囲気が具体的に伝わるほど、応募する側は安心して一歩を踏み出せます。

また、採用の対象を狭く捉えすぎないことも大切です。働ける時間や条件はさまざまで、短時間で働きたい人や、これまで応募が少なかった層にも目を向けることで、間口は広がります。多様な人が働きやすい環境を整えることが、結果として採用の可能性を大きく広げていきます。

定着を促す職場づくり

採用に力を入れても、辞めていく人が多ければ人手不足は解消されません。むしろ、定着を高めることは、採用以上に大きな効果を持つことがあります。せっかく育った人が働き続けてくれれば、採用や教育にかかる負担も減り、現場は安定します。

定着のためには、働きやすさと働きがいの両方が欠かせません。無理のないシフト、公正な評価、相談しやすい雰囲気、成長を実感できる機会などが、長く働きたいという気持ちを支えます。スタッフの声に耳を傾け、小さな不満のうちに対処する姿勢が、辞めない職場をつくる土台になります。

省人化で負担を減らす

人手そのものを増やすのが難しいなら、少ない人数でも回る仕組みを整えることが現実的な対策になります。セルフ方式の設備や、精算や管理を効率化する仕組みなどは、スタッフの負担を軽くし、限られた人手を有効に活かす助けになります。省人化は、人手不足への正面からの備えです。

省人化の設備には投資が必要ですが、負担の軽減や採用難への備えという長い目で見れば、意味のある投資となり得ます。設備の導入にあたっては、補助金の活用が選択肢になる場合もあります。自店の状況に合った省人化の形を、費用と効果の両面から検討することが大切です。

省人化を進めるときに気をつけたいのは、減らした人手を、そのまま人員削減として扱わないことです。効率化のたびに人が減らされる職場では、現場は改善に協力しません。空いた時間で何をしてもらうのかを、先に示してください。

多能工化で柔軟な配置を実現する

一人のスタッフが複数の業務をこなせるようになる多能工化は、人手不足に強い体制づくりに役立ちます。給油対応だけでなく、洗車やオイル交換、事務作業など幅広く対応できる人が増えれば、忙しい場面での応援や、急な欠員への対応がしやすくなります。

多能工化は、柔軟な人員配置を可能にするだけでなく、スタッフ自身の成長ややりがいにもつながります。できることが増える実感は、働きがいを高め、定着にも良い影響を与えます。計画的に教育の機会を設け、少しずつ担える仕事を広げていくことが、人に強い職場をつくります。

ただし、多能化は本人にとって負担が増える話でもあります。できることが増えたのに、待遇も役割も変わらなければ、やる意味を感じてもらえません。何ができるようになったかを記録し、それが処遇にどうつながるのかを示せる形にしておいてください。評価制度づくりもあわせてご覧ください。

人に頼りすぎない経営が事業を守る

採用、定着、省人化、多能工化。これらはいずれも即効性のある特効薬ではありませんが、組み合わせて地道に取り組むことで、人手不足に振り回されにくい経営に近づいていきます。特定の誰かに過度に依存しない体制は、日々の営業を安定させるだけでなく、経営の強さそのものを高めます。

人に頼りすぎない仕組みが整った事業は、将来の事業承継やM&Aを考える際にも大きな強みになります。引き継ぐ側にとって、特定の人がいなくても回る組織は安心材料であり、評価にもつながります。人手不足への対策は、目の前の課題解決であると同時に、将来への備えでもあります。人材や組織づくり、将来の承継について悩まれた際は、業界に詳しい専門家にご相談ください。

足りないのは人数か、時間か、技能か

「人手が足りない」と一言で言っても、中身は違います。どれが足りないのかで、打つ手がまったく変わります。

  • 人数が足りない … そもそも頭数が不足している
  • 時間帯が埋まらない … 全体の人数は足りているが、特定の時間に人がいない
  • 技能が足りない … 人はいるが、その業務ができる人が限られている
  • 回し方の問題 … 人も技能もあるが、配置や段取りで詰まっている

二つ目なら、採用よりシフトの組み方や、働ける時間の幅を広げることのほうが効きます。四つ目なら、採用しても解決しません。まずどれなのかを確かめてください。

三つ目については、採用で解決しようとすると時間がかかります。今いる人に取ってもらうほうが早い場合があります。誰が何をできるかの一覧を作れば、どこが薄いかが見えます。

採用の間口を、どこまで広げられるか

応募が来ないとき、条件を見直す余地が残っていることがあります。次を確かめてください。

  • 勤務できる時間の幅を、もっと細かく受けられないか
  • 週に何日から受けられるか
  • 年齢や経験の条件を、実は必要以上に絞っていないか
  • 資格を持っていることを前提にしていないか(入ってから取る形にできないか)
  • 短時間だけ働ける方を受け入れる体制があるか

一つ目と五つ目は、この業種で効きやすいところです。「一日四時間、週三日」で働ける方は、フルタイムの方より多くいます。ただし、短時間の方を受け入れるには、業務を切り分けておく必要があります。ここが整っていないと、受け入れても任せられません。

四つ目については、資格を持った方を待つのか、入ってから取ってもらうのかで、募集の対象が大きく変わります。後者にするなら、取得までの支援と時間の確保を用意しておく必要があります。

採用以外の手を先に検討する

人を増やすことだけが解決ではありません。次の順で検討すると、費用も時間も抑えられます。

  • やめられる作業はないか(誰も困らないのに続けているもの)
  • 減らせる作業はないか(頻度や手数を落とせるもの)
  • 時間をずらせる作業はないか(混雑時から外せるもの)
  • まとめられる作業はないか
  • 機械や仕組みに任せられる作業はないか
  • そのうえで、なお足りない分を採用で埋める

一つ目から確かめてください。長年続けているだけで、誰も必要としていない作業が残っていることがあります。「これは何のためにやっているのか」と問い直すと、答えられないものが出てきます。

五つ目については、費用がかかるため後回しになりがちですが、毎日発生する作業ほど効果が積み上がります。ただし、入れたものが使われなければ意味がありません。デジタル化の始め方もあわせてご覧ください。

営業の形そのものを見直す選択

人が確保できないなら、営業の形を変えるという判断もあります。避けたい選択に見えますが、無理を続けるより健全なことがあります。

  • 営業時間を短くする
  • 特定の曜日や時間帯だけ、業務を絞る
  • 一部の業務を、提携先に任せる
  • 運用の形を変える(対応の範囲を見直す)

一つ目については、実際にその時間帯にどれだけの来店があるかを確かめてから判断してください。「開けていないと」という思い込みで続けている時間帯が、実は数台しか来ていないことがあります。

無理を続けた結果、今いる人が疲弊して辞めれば、状況はさらに悪くなります。縮めることは後退に見えますが、続けられる形に戻すことでもあります。判断が必要な場面では、この選択肢も並べてください。

今いる人が辞めない状態を保つ

採用より確実に効くのは、今いる人に続けてもらうことです。次を確かめてください。

  • 負担が特定の人に偏っていないか
  • 休みが取れているか(取りにくい雰囲気がないか)
  • 資格を持つ人が、その理由で休めない状態になっていないか
  • 辞めた人の理由を、把握しているか
  • 不満を言える相手がいるか

三つ目は、この業種で起きやすい状況です。資格者が一人しかいないと、その人は実質的に休めません。これは本人の負担であると同時に、事業の危うさでもあります。人数を増やすことが、両方の解決になります。

四つ目については、辞めるときに聞ける関係かどうかで、得られる情報が変わります。本当の理由は、たいてい退職の意思を伝えた後に、雑談の中で出てきます。正社員が定着する店の共通点もあわせてご覧ください。

人手不足を、承継の問題として見る

人が確保できない状態は、日々の運営だけでなく、将来の選択肢にも影響します。

  • 後継者がいても、支える人がいなければ引き継げない
  • 買い手は、人が残るかどうかを必ず確認する
  • 資格を持つ人が一人だと、その一人に事業が依存する
  • 社長が現場に入り続けていると、退く時期を決められない

四つ目が、実務でよく見られる状況です。人手が足りないから社長が現場に立ち、その結果いつまでも引退できない。そして時間が経つほど、社長の年齢と体力の問題が重なります。

この循環を断つには、人の確保を「日々を回すため」ではなく「将来の選択肢を残すため」の取り組みとして位置づける必要があります。そう捉えると、今すぐの費用対効果だけでは判断できないことが見えてきます。売ると決める前にできる準備もあわせてご覧ください。

手を打つ順番

すべてを同時にはできません。次の順で進めると、効果が早く出ます。

  • まず、今いる人が辞めない状態を確かめる
  • 次に、やめられる作業・減らせる作業を削る
  • そのうえで、今いる人の対応できる幅を広げる
  • 並行して、採用の間口を広げる
  • それでも足りなければ、営業の形を見直す

一つ目が最初である理由は単純で、採用しても、その分だけ辞めていれば前に進まないからです。穴の空いた器に水を足しても溜まりません。

二つ目については、費用がかからず、すぐに始められます。削った分だけ、今いる人の余裕が生まれます。その余裕が、三つ目の育成に使えます。

この順で進めても、時間はかかります。人の問題は、設備の問題のように発注すれば解決するものではありません。だからこそ、困ってから始めるのではなく、余裕のあるうちに手をつけておく必要があります。

まとめ

人手不足に悩むガソリンスタンドが取り組める対策は、採用の間口を広げること、定着を促す職場をつくること、省人化で負担を減らすこと、多能工化で柔軟な配置を実現することです。どれも一朝一夕には効きませんが、組み合わせて続けることで着実に状況を変えていけます。

人に頼りすぎない経営は、日々の安定だけでなく、将来の事業承継やM&Aにおける評価にもつながります。人材や組織の課題は、早めに手を打つほど選択肢が広がります。人手不足や組織づくり、将来の備えをお考えの経営者の方は、いつでもご相談ください。