なぜ複合施設化が注目されるのか
ガソリンスタンドは、車の使われ方の変化や人口動態の影響を受けやすい事業です。給油だけに収益を頼っていると、燃料需要の変化がそのまま経営の不安につながりかねません。そこで、給油以外の収益の柱を育てる複合施設化に、あらためて関心が集まっています。
複合施設化とは、給油という本来の機能に加えて、人が立ち寄りたくなる要素を組み合わせる考え方です。日々多くの車が行き交う立地を活かし、給油のついでに利用してもらえるサービスを重ねることで、来店の理由を増やしていく発想です。
ただし、注目されているからという理由だけで進めるのは危うい判断です。同じ言葉で語られていても、うまくいっている店とそうでない店では、置かれた条件がまるで違います。事例の見出しではなく、その店が何を持っていたから成り立ったのかを見ることです。
自社に当てはめるときも同じで、真似るべきは形ではなく考え方です。あの店がカフェを入れて成功したから、うちも入れる、では再現しません。あの店が何を課題と捉え、なぜその手段を選んだのか。そこを掴めば、自社に合う手段は別のものかもしれないと気づけます。
カフェや飲食の併設という選択
給油の待ち時間や、道中の休憩に立ち寄れるカフェや飲食のスペースは、複合施設化の代表的な形です。人が集い、くつろげる場があることで、単なる通過点だった拠点が、地域の人にとって身近な居場所へと変わっていきます。
もっとも、飲食は給油とは異なる知識や運営体制が求められる分野です。安易に始めれば負担ばかりが増えることもあります。自社の立地や客層に合うか、無理なく続けられる規模かを見極めながら検討することが大切です。
物販で来店のきっかけを増やす
地域の特産品や日用品、車に関わる商品などを扱う物販も、来店のきっかけを広げる手立てです。給油に来た人がついでに買い物をし、あるいは買い物のために立ち寄るという流れが生まれれば、収益の裾野が広がります。
物販を成功させるには、地域のニーズを丁寧に読み取ることが欠かせません。何が求められているかを見極めずに品ぞろえを増やしても、在庫の負担が重くなるだけです。地域に根ざした視点で、扱う商品を選んでいくことが求められます。
物を置くという判断は始めやすい一方で、続けるのが難しい面もあります。売れなければ在庫が残り、置き場所を取り、傷んでいくものもあります。品数を増やすほど、この管理の手間は増えていきます。
始めるなら、絞った品数から様子を見るのが現実的です。何が動いて何が動かないかは、実際に置いてみないと分かりません。動いたものを増やし、動かないものをやめる。この入れ替えを続けられるかが、物販が根づくかどうかを決めます。
整備の併設で車の困りごとに応える
車の点検や整備を併設することは、ガソリンスタンドの強みを活かしやすい転換の形です。給油で日常的に接点のある顧客に対して、車の困りごとにも応えられれば、信頼関係が深まり、継続的な取引につながります。
整備は専門的な知識や設備、有資格の人材が必要となる分野です。すでに整備の基盤がある場合はそれを強化し、ない場合は連携や段階的な体制づくりを考えるなど、自社の状況に応じた進め方が重要になります。
整備を加える場合に見落とされやすいのが、給油と作業の時間の重なりです。作業に入っている人は、その間ほかのことができません。混む時間帯に作業が入っていると、給油の側が手薄になります。どの時間に作業を入れるかを決めておくだけで、この衝突はかなり減らせます。
また、整備は始めてすぐに依頼が集まるものではありません。やっていると知られるまでに時間がかかります。その間、設備と人を抱えることになりますから、立ち上がりの期間をどう支えるかを見込んでおく必要があります。
複合施設化を進める際の注意点
複合施設化は魅力的な方向ですが、あれもこれもと手を広げれば、かえって経営が不安定になる恐れもあります。新しい取り組みには相応の投資や人手が必要であり、本業とのバランスを崩さないことが肝心です。まずは自社の強みや立地に合った一手から始めることをおすすめします。
また、新たな設備投資には、将来の事業の方向性との整合も問われます。今後どのくらいの期間、どんな形で事業を続けていくのかという見通しと切り離さずに、投資の判断を行うことが大切です。焦らず、段階を踏んで進めることが安定につながります。
資金の面では、始めるときの支出だけでなく、立ち上がるまでの期間を支える資金まで見ておく必要があります。新しい取り組みが知られ、利用されるようになるまでには時間がかかります。その間の負担に耐えられるかが、続けられるかを分けます。
また、何をもってうまくいったと判断するのかを、始める前に決めておきましょう。決めていないと、思わしくない状態が続いても、もう少し様子を見ようという判断が繰り返されます。見直す時期と見る指標を先に決めておくことです。
転換を将来の選択肢につなげる
複合施設化によって収益の柱を増やし、地域に必要とされる拠点になることは、事業を続けるうえでも、次の担い手へ引き継ぐうえでも価値になります。魅力ある事業であるほど、続ける道も、信頼できる相手へ託す道も、選択肢が広がっていきます。
私たち株式会社フォーバル 自動車アフターマーケットチームは、給油に頼らない事業づくりから、その先の承継やM&Aまで、幅広くご相談を承っています。何から取り組めるか迷われた際は、お気軽にご相談ください。
将来を考えるなら、複合化した形が引き継げるものになっているかも見ておきたい点です。経営者の関心や人脈に支えられた部分が大きいと、引き継ぐ側にとっては扱いに困る事業になります。誰が担っても回る形にしておくことが、そのまま将来の選択肢を広げます。
その意味で、複合化を進める過程は、事業を仕組みに落とし込む訓練でもあります。手順を書き、任せ、確かめる。この繰り返しを本業でもできるようになれば、承継の準備としても大きな前進になります。
複合化は、足し算ではなく組み替えになる
複合施設化という言葉からは、今あるものに新しいものを足していく姿が思い浮かびます。しかし実際には、限られた敷地と人手をどう配分し直すかという話になります。何かを増やせば、どこかが減る。この前提から始めるほうが、計画は現実的になります。
減るのは、多くの場合、場所と人の時間です。新しい設備を置けば給油や整備に使える面積は減り、新しい仕事が増えれば既存の仕事に割ける時間は減ります。増える部分だけを見て判断すると、始めた後に苦しくなります。
だから、検討の際には「何をやめるか」も一緒に考えたいところです。手が回らなくなっている仕事、あまり効果の見えない取り組み。整理する機会と捉えれば、複合化は事業全体を見直すきっかけにもなります。
順番を決めて、一つずつ立ち上げる
複数のことを同時に始めると、どれが効いているのかが分からなくなります。うまくいっていないときも、原因が特定できません。結果として、全部が中途半端なまま時間だけが過ぎることになります。
現実的なのは、一つ始めて、それが回るようになってから次に移る形です。時間はかかりますが、一つひとつが定着します。現場の負担も、一度に増えるのと少しずつ増えるのとでは、受け止め方がまったく違います。
順番を決めるときは、効果の大きさよりも、始めやすさで選ぶのも一つの考え方です。最初の一つがうまくいくと、現場に「やれる」という感覚が生まれます。この感覚が、次に取り組むときの力になります。
店の印象が、想定と違う方向に変わることがある
複合化を進めると、店の見え方そのものが変わります。給油の店として認識されていたものが、別の何かに見えてくる。これは狙いどおりであることも、そうでないこともあります。
気をつけたいのは、これまで来てくださっていた方が入りにくくなる場合です。雰囲気が変わったことで、給油だけの目的では寄りづらいと感じさせてしまう。新しい層に来ていただく一方で、既存の方が離れれば、差し引きでは損をします。
防ぐには、給油だけの方が気兼ねなく使える動線と雰囲気を、意識して残しておくことです。何かを買わなければいけない空気を作らない。ここは設計の段階から考えておく必要があります。始めてから直すのは容易ではありません。
誰が全体を見るのかを決めておく
扱うものが増えるほど、店全体を見渡している人が必要になります。それぞれの担当がそれぞれの仕事を頑張っていても、全体としてどうなっているかを見る人がいなければ、部分の最適が積み重なるだけです。
多くの店では、この役割は経営者が担うことになります。ただし、経営者が現場の一員として作業に入っている場合、全体を見る時間が取れません。複合化を進めるなら、経営者が現場から少し離れる時間をつくることが、実は最も重要な準備かもしれません。
離れるためには、現場が経営者なしで回る形が要ります。判断の基準を共有し、任せる範囲を決める。これは複合化のためだけでなく、事業を引き継いでいくうえでも必ず必要になる作業です。先に取り組んでおいて損はありません。
自社でやるか、人に入ってもらうか
新しい業態を加えるとき、すべてを自社で担う必要はありません。場所を貸して事業者に入ってもらう、提携して運営を任せる、といった形もあります。どの形を選ぶかで、負う責任も、得られるものも変わります。
自社で担えば、収入はそのまま入りますが、人も手間もこちらが背負います。人に入ってもらえば、負担は軽くなる代わりに、得られるものは限られ、運営の中身にも口を出しにくくなります。どちらが良いということではなく、自社の余力次第です。
判断の目安になるのは、その業態を自分たちが理解できるかどうかです。仕組みが分かり、良し悪しを判断できる分野なら、自社で担う価値があります。まったく未知の分野であれば、詳しい相手に入ってもらうほうが、結果的に良い形になることが多いものです。
従業員がどう受け止めるかを、先に確かめる
複合化は、経営の側から見れば新しい可能性ですが、現場から見れば新しい仕事です。慣れた仕事に加えて、覚えることが増える。この受け止め方を確かめないまま進めると、始まってから抵抗にあいます。
先に話しておきたいのは、なぜやるのかという理由です。売上を増やしたいという説明だけでは、自分たちの負担が増えるだけに聞こえます。この店を続けていくために必要なのだと伝わって初めて、協力を得られます。
そして、新しい仕事に取り組む人に何が返るのかも考えておきましょう。できることが増えること自体を評価するのか、待遇に反映するのか。何も返らないまま負担だけが増える形では、続きません。
まとめ
給油だけに頼らない複合施設化は、燃料需要の変化に左右されにくい経営をつくる有力な視点です。カフェや物販、整備の併設など、自社の立地や強みに合った形を選び、無理のない規模から始めることが成功の鍵になります。
新しい取り組みは、将来の事業の方向性と結びつけて考えることが大切です。地域に必要とされる拠点になることは、続ける道も託す道も広げてくれます。転換を検討したい方は、業界に詳しい専門家とともに、着実な一歩を探っていきましょう。