試算の方法
その人が抜けた場合、次がどう変わるかを見積もってください。
- 買取件数:その人が担当していた件数のうち、他の人で代替できない分
- 買取原価率:判断の精度が落ちる分、何ポイント上がるか
- 回転日数:値付けの精度が落ちる分、何日延びるか
- 仕入れルート:その人の関係で成り立っている取引の金額
- 採用と育成のコスト
簡易な試算例
年間影響額 ≒(担当していた買取の年間粗利 × 代替できない割合)+(全体の買取額 × 原価率悪化分)+(失う取引先の年間粗利)+ 採用・育成費
厳密でなくて構いません。桁を把握することが目的です。
数字にする意味
- 対策にいくらまでかけてよいかが分かる
- 優先順位が決まる(影響の大きい人から)
- 処遇の見直しの根拠になる
- 経営者自身の危機感が具体化する
「困る」という感覚を、金額に変える。これで初めて行動が変わります。
対策の優先順位
影響額の大きい人から、次を進めてください。
- 基準の文書化:判断の根拠を残す
- 後継者の育成:段階的に任せる
- 取引先の関係を会社に移す:担当を複数にする
- 処遇の見直し:辞めない理由を作る
- 教えることの評価:協力を得る
処遇だけでは解決しない
「辞めないように給料を上げる」だけでは、根本の解決になりません。
- 体調を崩す、家庭の事情など、意欲以外の理由もある
- いずれ引退の時期は来る
- 依存が続く限り、事業の価値は上がらない
処遇と、仕組み化の両方を進めてください。
M&Aでの見られ方
買い手は、キーパーソンが残るかを必ず確認します。1人に依存している会社は、その分だけ評価が下がります。
逆に、依存を数字で把握し、対策を進めていることを示せれば、経営が管理されていると評価されます。
試算を経営会議に出す
計算して自分だけが把握していても、対策は進みません。共有の場に出してください。
- 金額を1枚にまとめる — 対象者、影響する業務、想定される損失額、対策の候補
- 本人の氏名は伏せる — 「Aカテゴリの査定担当」といった役割で表現します
- 複数名を並べる — 1人だけを取り上げると、その人の話になってしまいます
- 対策の費用と並べる — 損失額と対策費用を比べれば、判断ができます
- 年1回、更新する — 人員構成が変われば、リスクの所在も変わります
2番目は必ず守ってください。「あの人が辞めたらいくら損失が出るか」という試算が本人に伝わると、関係が壊れます。役割ベースで表現し、資料の共有範囲も限定してください。
複数名に分散する具体策
対策の中身は、結局のところ「1人しかできない状態をなくす」ことに尽きます。
- 担当カテゴリを重ねる — 主担当と副担当を置き、副担当にも実際に査定させます
- 判断の記録を残す — 何を見てそう判断したかを案件ごとに残せば、蓄積が基準になります
- 取引先の窓口を2人にする — 同行して、顔を知ってもらう状態を作ります
- 本人に教える役割を与える — 処遇と結びつければ、抵抗が下がります
- 休みを実際に取ってもらう — 不在の日に何が止まるかが、そのまま課題の一覧になります
5番目が最も手軽で、最も分かりやすい診断です。連続した休暇を取ってもらい、その間に発生した「判断できない」案件を記録してください。対策すべき項目が具体的に出てきます。
退職後も関わってもらう形
完全に離れてもらう以外の選択肢を用意しておくと、移行の負担が下がります。
- 週1〜2日の勤務に切り替える — 高額品の査定と、若手への助言に絞ります
- 業務委託として、案件ごとに依頼する — 判断に迷う品物のみ、写真で相談する形です
- 顧問として、月1回の相談窓口になってもらう
- 教育の講師として関わってもらう — 年数回の研修を担当してもらう形です
どの形でも、条件を書面にしてください。報酬、頻度、対応の範囲、期間、守秘義務、そして競業の扱いです。とくに競業の取り決めは、退職後の制約となるため、範囲と期間の妥当性について専門家に確認しておくのが確実です。曖昧なまま始めると、双方の期待がずれて関係が悪化します。
まとめ
「辞めたら困る」を金額で試算してください。対策にいくらかけてよいかが決まります。
まず主要な担当者1人について、年間影響額を計算してみましょう。