いちばん大きな違い
株式譲渡は会社そのものを売買します。法人格は変わらず、資産も負債も契約も雇用も、すべてそのまま買い手のものになります。
事業譲渡は事業を構成する資産や契約を個別に売買します。何を引き継ぎ、何を残すかを選べる代わりに、一つひとつ移転の手続きが必要です。
許可の扱い(運送業で最重要)
株式譲渡では、事業を行う法人が変わらないため、一般貨物自動車運送事業の許可は原則としてそのまま残ります(役員変更等の届出は別途必要です)。
一方、事業の譲渡し・譲受けについては、貨物自動車運送事業法上、国土交通大臣の認可が必要とされています。認可には審査期間がかかるため、「いつから新体制で走れるか」がスケジュールを左右します。
この違いが、運送業で株式譲渡が選ばれやすい最大の理由です。
負債と簿外債務
株式譲渡では、借入金はもちろん、未払残業代のような簿外の債務も含めて引き継がれます。だからこそ買い手はデューデリジェンスを慎重に行います。
事業譲渡では、引き継ぐ債務を限定できます。買い手にとってリスクが小さい反面、売り手側の法人に債務が残るため、その処理が別途必要になります。
従業員の雇用
株式譲渡では雇用主が変わらないため、雇用契約はそのまま継続します。事業譲渡では、譲受側との間で新たに雇用契約を結ぶ形になり、個々の同意が必要です。
従業員が多い運送会社では、この手続きの差が実務上の負担として効いてきます。
契約の移転
株式譲渡では、荷主との契約もリース契約もそのまま継続します。ただし、契約書に支配権の変更を理由とする解除条項(チェンジオブコントロール条項)がある場合は、事前の確認・同意が必要です。
事業譲渡では、契約を一つずつ相手方の同意を得て移転します。荷主が多い会社では相当な手間になります。
税金の違い
株式譲渡では、株主である個人に譲渡益課税が生じます。事業譲渡では、売却する法人に法人税等が生じ、その後に株主へ資金を移す段階でさらに課税されることがあります。
手取り額に大きく影響するため、税理士と早い段階で試算しておくことをおすすめします。
比較のまとめ
- 手続きの簡便さ:株式譲渡が有利
- 許可の維持:株式譲渡が有利(事業譲渡は認可が必要)
- 簿外債務のリスク遮断:事業譲渡が有利(買い手目線)
- 一部の事業だけ譲る:事業譲渡でなければできない
- 売り手の手取り:一般に株式譲渡が有利なことが多い
どう選ぶか
運送業では、許可と雇用の維持を重視して株式譲渡が選ばれることが多いのが実情です。ただし、複数事業のうち運送部門だけを譲りたい場合や、買い手が簿外債務を強く懸念する場合は、事業譲渡や会社分割が検討されます。
スキームは税務・許認可・労務が絡む論点です。単独で決めず、専門家を交えて比較してください。
まとめ
株式譲渡と事業譲渡は、単なる手続きの違いではなく、許可・債務・雇用・税金のすべてに波及する選択です。運送業では特に許可の扱いが決め手になります。
どちらが自社に合うかは、会社の状況と買い手の考え方次第です。整理のお手伝いをしますので、お気軽にご相談ください。
※ 本記事は一般的な考え方を整理したものです。許認可の具体的な取扱い・必要書類・審査期間は、法令の改正や管轄行政庁の運用によって異なります。実際の手続きにあたっては、必ず管轄の運輸支局等および専門家にご確認ください。