費用は3つの時点で発生する
相談から引き渡しまでを、費用の観点で3つに分けて考えます。
- 相手を探す前:自社を整えるための費用
- 交渉中:調査に応じるための費用
- 成約後:引き渡しを完了させるための費用
仲介の手数料は2と3にかかりますが、実は1の費用が最も大きくなることがあります。
相手を探す前にかかるもの
土壌の調査
この業態で最大の費用項目です。敷地の面積、調査の深さ、地点数によって金額は大きく変わります。
「買い手に調べてもらえばいい」と考えたくなりますが、それは不利な進め方です。調べていない状態は、最悪の想定で価格から差し引かれます。調査費用を自分で負担しても、結果として手取りが増えることがあります。
対策が必要と判明した場合の費用は、さらに大きくなります。ただしこれも、判明していれば交渉できます。判明していなければ、買い手は最大限の余裕を見て値を付けます。
在庫の整理
売れない部品、値の付かないスクラップ。これらは引き渡しの対象にならず、処分費が売り手負担になります。
量が多ければ、処分だけで相応の金額と期間がかかります。譲渡を決めてから始めると間に合いません。数年かけて減らしておくのが本来の姿です。
専門家への相談
税理士への試算依頼、司法書士への登記相談、弁護士への契約確認。個別に費用が発生します。金額は内容によりますが、早い段階で相談するほど、後の手戻りが減ります。
交渉中にかかるもの
資料の作成
買い手に示す資料を整える手間です。外部に依頼すれば費用が、自社で作れば時間がかかります。
この業態では、決算書だけでは足りません。入庫台数の推移、取扱トン数、在庫の一覧、許認可の一覧、設備の台帳。日常的に記録していれば費用はかかりませんが、遡って作るとなると大仕事です。
買い手の調査への対応
調査そのものの費用は通常、買い手が負担します。ただし対応する社内の工数は売り手の負担です。社長と経理担当が数週間、通常業務の合間に対応することになります。
成約後にかかるもの
仲介の手数料
成約時に支払います。取引金額に応じて算定される方式が一般的です。着手金や中間金を求める形と、成約時のみとする形があります。どの時点で何を支払うのかを、契約前に確認してください。
設備の撤去
引き渡さない設備がある場合、その撤去は売り手の負担です。老朽化した重機、使っていないタンク、古い建屋。解体・撤去の費用は、想像より大きくなります。
事前に見積もりを取っておいてください。これを知らずに価格を決めると、手取りが大きく削られます。
原状回復(借地の場合)
ヤードが借地で、買い手が引き継がない場合、原状回復が求められます。舗装の撤去、構造物の除去、場合によっては土壌の対策まで含まれます。
契約書に何と書いてあるかを、今すぐ確認してください。「更地にして返す」と書かれていれば、その費用は必ず発生します。
税金
株式譲渡なら譲渡益への課税、事業譲渡なら法人への課税と、その後個人が受け取る際の課税。形によって手取りが変わります。
手取りで比較する
ここまでを踏まえると、判断の基準は明確です。提示された金額ではなく、すべての費用を引いた後に手元に残る金額で比べる。
同じ譲渡価格でも、以下によって手取りは変わります。
- 株式譲渡か事業譲渡か
- 在庫と設備をどこまで引き取ってもらえるか
- 土壌の対策費用を誰が負担するか
- 借地の原状回復が発生するか
交渉の場では、価格だけでなくこれらの負担をどちらが持つかが実質的な論点になります。価格を少し下げてでも、撤去と原状回復を引き受けてもらうほうが手取りが大きくなる、という場面は実際にあります。
相談の段階で聞いておくこと
仲介を依頼する前に、次を確認してください。
- どの時点で、いくら支払うのか
- 成約に至らなかった場合、費用は発生するか
- 専任で依頼する必要があるか、期間の縛りはあるか
- 土壌調査や在庫処分について、費用感の目安を示せるか
最後の点が重要です。この業態の固有費用に触れずに話を進める相手は、業界の実務を分かっていない可能性があります。
費用を抑える方向の準備
ここまで挙げた費用は、事前の準備で圧縮できるものがあります。
- 在庫を減らしておく:数年かけて滞留在庫を処分すれば、譲渡時の処分費が減ります。同時に評価も上がります。
- 設備を先に整理する:使っていない設備を計画的に除却しておけば、成約後に慌てて撤去する必要がなくなります。
- 記録を日常的に残す:資料の作成費用と工数が大きく減ります。
- 借地契約を確認しておく:原状回復の条件を早く知れば、交渉の余地があります。
いずれも譲渡が決まってからでは間に合いません。引退の3年前から着手すれば、費用の総額が変わります。
買い手が負担することもある
すべてを売り手が負うわけではありません。交渉次第で、次のような整理になることがあります。
- 土壌の対策費用を、価格から差し引いたうえで買い手が実施する
- 不要な設備も含めて引き取り、買い手側で処分する
- 在庫を全量引き取る代わりに、単価を下げる
買い手にとっては、自社で手配したほうが安く済む場合があります。「引き取ってもらえないもの」を前提にせず、まず相談してみる価値はあります。
ただしこうした交渉ができるのは、実態を正確に把握している場合に限られます。何がどれだけ残るのか分からない状態では、買い手も引き受けられません。
※ 費用の水準や負担の分担は、案件の内容と交渉によって異なります。本記事は考え方の整理であり、具体的な金額を示すものではありません。