何が確認されるのか
承継やM&Aの調査で、労災に関して確認される項目を挙げます。
- 過去の発生件数と内容
- 休業を伴ったものの有無
- 重篤な事例の有無
- 同種の災害が繰り返されていないか
- 労災保険の加入状況と未加入期間の有無
- 是正勧告や指導を受けた履歴
- 係争中の案件の有無
- 安全教育の実施記録
- 作業手順書の整備状況
- 資格が必要な作業を有資格者が行っているか
4番目と7番目が最も影響します。同じ災害の繰り返しは体制の問題と受け取られ、係争中の案件は条件が固まるまで話を止めます。
10番目も見られます。重機の運転や特定の作業には資格が必要です。無資格で行っていた事実が見つかると、体制全体への信頼が落ちます。
一度の発生は説明できる
過去に労災があった会社が譲渡できないわけではありません。この業種で災害がゼロの会社は、むしろ少ないものです。
説明できる状態とは、次が示せることです。
- 何が起きたか
- 原因をどう分析したか
- 何を変えたか(手順、設備、教育)
- 変えた後、同種の事例が起きていないか
- その記録が残っているか
3番目と4番目が要点です。原因に対して手を打ち、その後起きていない。この流れが示せれば、体制が機能している証拠になります。
逆に説明が難しいのは、原因を分析していない場合です。「本人の不注意でした」で終わっている記録は、体制を整えていないと見られます。
起きた場合の対応手順
手順を決めておいてください。動揺している場面で判断すると漏れます。
- 救護と通報:これが最優先。
- 現場の保全:写真を撮る。片付けを急がない。
- 関係者への連絡:家族、所管、保険。
- 事実の記録:時刻、場所、作業内容、関わった人、状況。
- 報告書の提出:所定の様式で。
- 原因の分析:本人の不注意で止めない。
- 対策の実施
- 再教育と周知
- その後の追跡
2番目を守ってください。片付けてしまうと、原因の分析ができなくなります。また、後の調査で状況を説明できなくなります。
6番目が最も手を抜きやすいところです。しかしここを飛ばすと、同じ災害が繰り返されます。繰り返しが最も評価を落とすことは前述のとおりです。
保険と補償の確認
労災保険だけで足りるかを確認してください。
- 労災保険の加入状況(役員、家族従業員の扱いを含む)
- 上乗せの補償を用意しているか
- 下請や外注先の労働者が被災した場合の扱い
- 来客が被災した場合の扱い
3番目が抜けやすいところです。自社の従業員ではない人がヤード内で被災した場合の責任関係を、事前に整理しておく必要があります。
1番目も確認してください。役員や家族従業員が現場に入っている場合、扱いが異なります。実態と加入状況が合っているか、社会保険労務士に確認するのが確実です。
体制を「見える形」にしておく
調査で示せる資料を、平時から作っておいてください。
- 安全に関する方針(1枚でよい)
- 作業手順書
- 教育の実施記録
- 資格者の一覧と、資格の写し
- 点検の記録
- ヒヤリハットの記録と、それに対する改善
- 過去の災害とその後の対策の記録
6番目があると評価が変わります。災害に至っていない段階の情報を集めて改善している会社は、体制が機能していると判断されます。
これらは調査のために作るのではなく、日常の運営に必要なものです。結果として、譲渡の場面でそのまま使えます。
保険料への影響も見ておく
労災の発生は、費用面にも及びます。
- 労災保険率の仕組みによる負担の変動
- 上乗せ保険の条件の見直し
- 休業した従業員の代替に伴う費用
- 作業の停止や遅延による損失
- 再発防止のための設備投資
3番目と4番目が見えにくい費用です。人が抜けた分の作業を他の人が担い、残業が増える。この負担が数か月続きます。
これらを合計すると、予防のための投資のほうが安いことが多いものです。数字にして比べてみてください。
調査で聞かれ方が変わる
同じ労災の履歴でも、示し方で受け取られ方が変わります。
- 件数だけ出す → 「体制はどうなっているのか」と追及される
- 件数と原因と対策を出す → 「管理されている」と判断される
- 記録がない → 「把握していない」と見られる
2番目の形で資料を作ってください。1枚の表に、発生日・内容・原因・対策・その後を並べるだけで十分です。
この表は調査の直前に作ろうとすると、記憶に頼ることになります。起きたその都度、1行ずつ足していく運用にしてください。
後継者に引き継ぐべき情報
親族内承継の場合、安全に関する情報を意識的に引き継いでください。
- 過去にどこで何が起きたか
- なぜ今の手順になっているか
- 特に危険な作業と、その理由
- ベテランが経験的に避けていること
4番目が最も失われやすい情報です。手順書に書かれていない判断が、事故を防いでいることがあります。
引き継ぐ方法は、現場を一緒に歩くことです。「ここでこういうことがあった」を場所とともに伝えてください。書類では残りません。
※ 労災の手続きや補償の範囲は個別の状況によって異なります。具体的な対応は所管の窓口および専門家にご相談ください。