なぜ問題になるのか
会社と経営者個人の財産が混ざっていると、次のことが起きます。
- 金融機関が個人保証を外せない:会社の資産が個人へ流れる余地があるため。
- 買い手が実際の収益力を判断できない:どこまでが事業の費用か分からない。
- 調査で必ず指摘される:管理体制の問題として見られる。
- 後継者に説明できない:親族内承継でも、他の相続人から問題視される。
- 税務上の問題が生じ得る
2番目が価格に直接影響します。買い手は、混在している分を保守的に見積もって差し引きます。
何が混在として見られるのか
会社から個人へ流れているもの
- 役員貸付金(会社が社長に貸している)
- 個人的な飲食、旅行が会社の費用に入っている
- 家族が使う車の費用
- 自宅の光熱費、通信費
- 事業に関係のない保険料
- 勤務実態のない家族への給与
- 会社の資産を個人が無償で使用している
個人から会社へ流れているもの
- 役員借入金(社長が会社に貸している)
- 社長個人が立て替えている費用
- 社長個人所有のヤードを、相場より安く貸している
後者も整理の対象です。「社長が会社を支えている」形も、混在としては同じです。社長が退けば、その支えがなくなります。
整理の順序
すべてを一度に片付けるのは無理です。次の順で進めてください。
第1:把握する(1か月)
決算書と総勘定元帳を見て、混在している項目を洗い出します。税理士に依頼すれば、リストにしてもらえます。
金額と件数を把握することが出発点です。
第2:今後の発生を止める(すぐ)
これが最も重要で、すぐできることです。
- 個人的な支出を会社の費用に入れない
- 新たな貸付を行わない
- 社用車の私的使用を止める、または使用料を払う
過去の分を整理しても、新たに発生していれば意味がありません。まず蛇口を閉めてください。
第3:ヤードの賃貸借を整える(数か月)
この業態で最も影響の大きい項目です。
- 賃貸借契約書を作る、または作り直す
- 地代を適正な水準にする
- 固定資産税の負担を明確にする
地代を上げれば会社の費用が増え、下げれば社長の収入が減ります。税務も含めた判断になるため、税理士を交えてください。
第4:貸付金の返済を始める(数年)
役員報酬から分割で返済するのが現実的です。金額は小さくても、返済の実績が残ることに意味があります。
第5:役員報酬を見直す(決算期に合わせて)
個人的な支出を個人が負担する形にするなら、その分の報酬が必要です。第2と第4と連動して設計します。
第6:勘定科目を整理する(決算時)
雑多な処理を整え、第三者が読める決算書にします。
時間の見積もり
全体でどれくらいかかるかの目安です。
- 把握と発生停止:1〜2か月
- ヤードの契約整備:3〜6か月
- 貸付金の解消:金額によるが、数年
- 役員報酬の設計:決算期に合わせるため、最長1年待つ場合がある
- 数期分の決算で実績を示す:2〜3年
最後の項目が重要です。整理した結果を、数期分の決算で示せる状態になるまで時間がかかります。1期だけ整えても、買い手や金融機関には「その期だけ」と見られます。
したがって、承継を考え始めたらすぐ着手すべき領域です。引退の3年前では遅い場合があります。
貸付金を解消する方法
金額が大きい場合、選択肢を整理します。
- 役員報酬から分割返済:最も一般的。時間はかかるが確実。
- 個人資産を売却して返済:一括で解消できる。
- 役員退職金と相殺:引退時に清算する形。
- 債権放棄:会社が放棄する。税務上の影響を必ず確認してください。
- 生命保険で手当てする:万一の場合に備える。
3番目を選ぶ場合、退職金の金額と貸付金の残高の関係を先に試算しておく必要があります。相殺しきれない場合の対応も考えておいてください。
いずれの方法も税務上の取り扱いが関わります。必ず税理士と相談して進めてください。
整理した経過を示せるようにする
結果だけでなく、取り組んだ経過が評価されます。残しておくものを挙げます。
- 貸付金の残高推移(減っていることが分かる形で)
- ヤードの賃貸借契約書と、地代の根拠資料
- 役員報酬の見直しの経緯
- 勘定科目の整理前後の比較
これらは保証の解除の交渉でも、承継の調査でも同じ資料が使えます。
そして、この整理はどの道を選んでも無駄になりません。親族に継がせる、従業員に譲る、第三者に売る、あるいは畳む。いずれの場合も、会社と個人が分かれているほうが手続きが楽になります。
後継者にも共有する
親族内承継を考えている場合、この整理の内容を後継者にも伝えてください。
理由を挙げます。
- 整理していない状態を引き継ぐと、後継者が同じ問題を抱える
- 他の相続人から問題視される可能性がある
- 後継者が金融機関と交渉する際の材料になる
- 同じことを繰り返さないための教育になる
4番目が長期的に重要です。会社と個人を分けるという考え方そのものを引き継いでもらうことが、次の世代での混在を防ぎます。
説明は税理士に同席してもらうのが確実です。金額と手続きを正確に伝えられます。
※ 貸付金の処理や役員報酬の設定には税務上の取り扱いが関わります。必ず税理士等の専門家にご相談ください。