なぜ先に預けておくのか
使用済自動車の処理には費用がかかります。特にフロン類、エアバッグ類、ASRの3品目は、費用をかけて処理しなければならない部分です。
もし処理する段階で費用を集める仕組みにすると、負担を嫌って不法投棄が増えかねません。そこで車の所有者が、あらかじめ費用を預けておく形が取られました。
これが預託です。新車購入時に支払うのが原則で、それ以前から使われている車については、車検の機会などに預託されてきました。
預けられた資金はどこにあるか
預託された資金は、車を売った販売店や、車を持っている所有者の手元にあるわけではありません。資金管理を担う機関で、車1台ごとに紐づけて管理されています。
車が中古車として転売されても、資金はその車に付いたまま移っていきます。所有者が変わっても、あらためて預託する必要はありません。
そして、その車が使用済自動車として処理される段階で初めて、資金が動きます。
どの段階で誰に渡るのか
おおまかな流れは次のとおりです。
- 引取業者が引き取り、報告する
- フロン類回収業者が回収し、報告する
- 解体業者が解体し、エアバッグ類を処理して報告する
- 破砕業者が破砕し、ASRが発生して報告する
- フロン類、エアバッグ類、ASRが自動車製造業者等へ渡り、再資源化される
預託された資金は、この3品目の再資源化にかかる費用に充てられます。各段階の報告が揃うことが、資金が動く前提です。
ここが実務上の要点です。報告が滞れば、資金の流れも止まります。移動報告を期限内に行うことは、法令上の義務であると同時に、事業者自身の資金繰りに直結します。
預託されていない車を引き取ったら
現場で最も問題になるのがこれです。次のような車では、預託が確認できないことがあります。
- 長年放置されていた車
- 経緯の不明な車
- 過去に預託の機会がないまま流通してきた車
この場合、引き取る段階で預託の手続きが必要になります。問題はその費用を誰が負担するのかです。
引き取ってしまってから気づくと、話がこじれます。持ち込んだ人はもう帰っており、連絡が付かないこともあります。結果として、事業者が負担することになりがちです。
金額としては1台あたりでは大きくなくても、積み重なれば無視できません。
防ぐ方法
単純ですが、確実な方法があります。引き取る前に、その場で預託状況を確認することです。
運用としては次のようにします。
- 引き取りに行く人が、現場で確認できる手段を持つ
- 預託されていなければ、その場で費用の負担を明示して合意を取る
- 合意できなければ引き取らない、という判断も可とする
- 確認した記録を残す
3つ目が重要です。断ってよいという方針を会社として示しておかないと、現場の人は断れません。「持って帰ってこい」と言われるのを恐れて、確認せずに積んでしまいます。
資金の動きを経営数値として見る
この資金は、事業者から見れば入金の一部です。処理台数に比例して発生するため、台数の増減がそのまま反映されます。
月次の管理では、次のように分けて見ておくと状況が把握しやすくなります。
- 部品の販売による収入
- スクラップの売却による収入
- 制度に基づく資金の受け取り
- 処理費として出ていく費用
相場が下がる局面では、スクラップの売却収入が大きく落ちます。そのとき、台数に連動する収入がどれだけあるかが、事業の底を支えます。この構造を把握しておくと、相場の下落局面でも慌てずに済みます。
承継の場面でどう見られるか
買い手は、この資金の流れが正常に回っているかを確認します。具体的には次のような点です。
- 報告の遅延によって、資金の受け取りが滞っていないか
- 預託されていない車を引き取って負担が発生していないか、その頻度
- 台数と受け取り額の整合が取れているか
いずれも日常の管理体制が表れる部分です。数字が説明できる状態にしておいてください。
現場に持たせるチェックリスト
預託の確認漏れを防ぐには、引き取りに行く人が現場で使える紙1枚が最も効きます。載せる項目は次のとおりです。
- 車台番号を控えたか
- 預託されているか確認したか
- されていない場合、費用の負担者を相手と合意したか
- 車台番号は判読できるか
- 持ち込んだ人と所有者は一致するか
- 車内の残置物と車載機器を確認したか
そして最後に「1つでも確認できないものがあれば、その場で引き取らず会社に連絡する」と書いてください。
この一文が効きます。判断を現場に丸投げすると、確認せずに積んでしまいます。
年に一度は台数と受取額を照合する
処理台数に対して、制度に基づく受け取りが妥当な水準かを確認してください。
ずれがある場合、次のような原因が考えられます。
- 報告の遅延で、資金の受け取りが翌期にずれている
- 預託されていない車を引き取った件数が多い
- 報告そのものが漏れている
いずれも早く見つかるほど対応が容易です。決算の作業に合わせて、年に一度は突き合わせる習慣にしてください。
※ 資金の管理や手続きの詳細は制度の運用によって変わることがあります。個別の取り扱いは関係機関および所管の窓口へご確認ください。