「儲からない」の正体は三つのどれか
整備工場の利益は、大きく分けて技術料(工賃)と部品・用品の売買差益から生まれます。ここに設備と人という固定費がかかる構造です。つまり利益が出ないとき、原因は次のいずれかにあります。
- 工賃単価が、実際にかかっている原価(人件費・設備費・間接費)に追いついていない
- 作業できる時間があるのに埋まっていない、あるいは埋まっていても実作業に変換されていない
- 部品や用品の粗利率が下がっている、または在庫として滞留している
感覚では「単価が安いから」と考えがちですが、実際に数字を出すと稼働の空きが主因だったというケースも珍しくありません。先に測る、それから決めるという順番が重要です。
工賃単価が原価に追いついていない
多くの工場では、工賃単価が長年据え置かれています。一方で、整備士の賃金水準、設備の更新費用、電気代、保険料、システム利用料は上がり続けています。据え置きは実質的な値下げであり、これが続くと稼働をどれだけ上げても利益が積み上がりません。
また、近隣の工場に合わせて単価を決めているケースもよく見られますが、他社の原価構造は自社と違います。他社の価格ではなく、自社の原価から単価を決めるのが本来の考え方です。
稼働率という言葉を二つに分けて見る
現場で「稼働率」と呼ばれているものは、実は性質の異なる二つの数字が混ざっています。
入庫があるかどうか(需要側)
リフトや整備士の持ち時間に対して、そもそも仕事が入っているかという指標です。これが低ければ集客・入庫促進の問題です。
入っている仕事が実作業になっているか(供給側)
仕事は入っているのに、部品待ち、車両の出し入れ、書類作成、手直しで時間が溶けている状態です。これは工程管理の問題であり、集客をいくら増やしても改善しません。むしろ悪化します。
どちらの問題かを見分けないまま集客に投資すると、現場が破綻します。
部品粗利が薄れている
部品や用品の粗利は、仕入価格の上昇、通販価格との比較、持ち込み部品への対応などによって圧迫されやすくなっています。加えて、動かない在庫を抱えることで資金が寝てしまい、実際の利益率以上に資金繰りを苦しくします。
部品は「ついでに売れるもの」ではなく、独立した収益源として管理する対象です。仕入先ごとの掛率、回転日数、廃棄・返品の状況を把握できているかが分かれ目になります。
まず出すべき数字
難しい分析は不要です。次の数字を、直近一年で出してください。既存の会計データと整備システムの記録があれば大半は揃います。
- 総粗利額と粗利率(売上ではなく粗利で見る)
- 工賃売上と部品・用品売上の内訳、それぞれの粗利額
- 整備士一人あたりの月間実作業時間
- リフト一基あたりの月間稼働時間
- 一件あたり平均単価と、車検・一般整備・鈑金・用品販売の作業区分別の内訳
- 月次の固定費合計(人件費・地代・リース・光熱費・保険・システム費)
この六つが揃うと、あとで説明するレバーレートも損益分岐点も計算できます。
レバーレートを自分で計算する
レバーレートとは、整備士一人が一時間働くときに必要な原価のことです。おおまかには (人件費+間接費を含む必要経費)÷ 実作業可能時間 で求められます。ここに目標利益を乗せたものが、本来設定すべき工賃単価の下限です。
計算してみると、現在の工賃単価が原価を下回っていた、という結果になる工場は少なくありません。この場合、働けば働くほど赤字が積み上がることになり、集客も増員も事態を悪化させます。まずここを直す必要があります。
なお、計算に用いる間接費の範囲や目標利益率の置き方は工場ごとに異なり、業界内で一律の正解はありません。自社の実態に合わせた設定が前提となります。
作業区分ごとに粗利を分ける
全体の粗利率だけを見ていると、どこで稼ぎ、どこで損しているかが見えません。最低でも次の区分で分けて集計します。
- 車検(法定費用を除いた技術料と部品)
- 定期点検・一般整備
- 板金・塗装(内製か外注かも分ける)
- タイヤ・用品・カー用品販売
- 保険・保証・コーティングなどの付帯収益
- 中古車・新車の販売がある場合はその販売粗利
分けてみると、集客の目玉にしている低価格車検が粗利をほとんど生んでおらず、それに現場の時間の大半を使っていた、という構造が見えることがあります。
稼働を上げる前に、待ち時間を削る
実作業時間を圧迫している要因は、たいてい次のどれかです。
- 部品の欠品・遅延による作業中断。前日までの部品手配ができているか
- 入庫時間が集中し、朝と夕方だけ混雑して日中が空く
- 車両の出し入れと移動に時間がかかるレイアウト
- 見積・請求・保険連絡などの事務を整備士が抱えている
- 手直し・再入庫。初回で完結しないことによる二重の工数
これらを一つずつ潰すと、人を増やさずに実作業時間が伸びます。稼働率の改善は、集客より先に取り組める領域です。
部品の仕入れと在庫を見直す
仕入先を複数持ち、品目ごとに条件を比較しているか。年に一度は掛率の交渉をしているか。滞留在庫を棚卸しで把握し、処分の判断をしているか。この三点だけでも粗利と資金繰りは変わります。
持ち込み部品への対応方針も決めておく必要があります。断るか、受けるが工賃を別体系にするか、保証範囲を明示するか。方針が曖昧なままだと、現場ごとに判断がぶれてトラブルの原因になります。
単価を上げるときの順番
値上げは一斉に行うより、影響の小さいところから段階的に進めるほうが実行しやすくなります。
- 原価計算に基づく必要単価を先に確定させる
- 新規顧客と新規作業メニューから新単価を適用する
- 既存顧客には、次回入庫時に事前案内のうえ適用する
- 値上げと同時に、点検内容や保証、代車、洗車などの提供価値を明示する
- 適用後三か月で、離反率と粗利額の両方を確認する
値上げで一定数の離反が出ても、粗利額が増えていれば経営としては前進です。件数ではなく粗利額で判断してください。
それでも数字が変わらないとき
単価も稼働も部品も見直したうえで、なお固定費を賄えない場合は、事業規模と設備の負担が現在の需要に合っていない可能性があります。立地の商圏人口が縮小している、設備更新の投資が回収できる台数に届かない、といったケースです。
この段階では、事業の一部を絞り込む、他社と共同で設備を使う、あるいはグループの一員となって購買力や管理機能を共有するといった選択肢が検討対象になります。第三者への承継やM&Aは廃業とは異なり、従業員の雇用と顧客との関係を残したまま体制を変える手段でもあります。
もちろん、どの選択が適切かは業績・立地・設備・人員によって大きく異なり、一概には言えません。まずは自社の数字を整えることが、どの道を選ぶにしても最初の一歩になります。
よくある質問
Q. 売上は増えているのに利益が減っています。何を疑えばよいですか。粗利率の低い作業に時間が偏っている可能性があります。作業区分ごとに粗利額と投入時間を分けて集計し、時間あたり粗利が低いメニューがどれかを確認してください。低価格の集客メニューが現場を占有しているケースがよくあります。
Q. 工賃を上げると客が離れないか心配です。すべての顧客が価格だけで選んでいるわけではありません。値上げの前に、点検内容の説明、記録の提示、次回の提案といった提供価値を見える形にしておくと、離反は抑えやすくなります。それでも一定の離反は起こり得るため、件数ではなく粗利額の推移で評価してください。
Q. 補助金を使って設備を更新すれば利益は改善しますか。制度の内容や採択の要件は年度により異なり、必ず利用できるとは限りません。また補助金は自己負担分の資金が必要です。設備更新で削減できる時間と、それが生む粗利を先に試算し、補助金の有無にかかわらず回収できるかを確認したうえで検討するのが安全です。
まとめ
整備工場が儲からない原因は、工賃単価・稼働率・部品粗利のいずれかに帰着します。まず数字を出し、レバーレートで単価の妥当性を確かめ、作業区分ごとの粗利で稼ぎ頭と足かせを見分ける。そのうえで、待ち時間の削減という自社完結の改善から着手します。
値上げは順番を踏めば実行できます。それでも構造的に固定費を賄えないときには、規模や体制そのものを見直す選択肢もあります。いずれの道を選ぶにしても、出発点は自社の数字を正確に把握することです。