儲からない構造は三つに集約される

鈑金塗装の収益が出ない原因は、突き詰めると次の三つです。

  • 請求の根拠となる作業時間と、実際にかかっている時間が合っていない
  • 材料費が上昇し、かつ使用量が管理されていない
  • 設備と人の稼働に空きや滞留があり、処理台数が伸びていない

どれが効いているかは工場によって違います。感覚で「単価が安いから」と決めつけず、数字で切り分けてから手を打つことが前提になります。

指数と実作業時間の乖離を測る

鈑金塗装では、作業内容に応じた標準的な作業時間の指標に基づいて見積・請求が行われることが一般的です。この指標は標準的な条件を前提としたものであり、実際の作業には車両の状態、年式、素材、損傷の程度によって差が生じます。

問題は、乖離があること自体ではなく、乖離を測っていないことです。どの作業でどれだけ超過しているかが分からなければ、見積の出し方も、工程の改善も、単価の交渉もできません。

まずは一定期間、案件ごとに実作業時間を記録してください。工程別に取れれば理想ですが、難しければ案件単位からでも構いません。

材料費が利益を静かに削る

塗料、パテ、サンドペーパー、マスキング材、溶剤、副資材。個々は小さくとも、積み上がると無視できない金額になります。仕入価格が上がっている一方で、使用量の管理が緩いままだと、粗利は静かに削られます。

特に、案件ごとの材料使用量を把握していない工場は多く、どの作業で材料費がかさんでいるかが見えません。塗料の廃棄量、調色のやり直し、開封後の劣化なども積み重なります。

稼働率は「埋まっているか」と「動いているか」を分ける

鈑金塗装では、車両を預かってから納車するまでの期間が長くなりがちです。工場に車が並んでいても、実際に作業が進んでいるとは限りません。

見るべき二つの数字

  • 入庫から納車までの日数(預かり日数)
  • そのうち、実際に作業が行われた時間

この差が大きいほど、スペースと資金が寝ていることになります。部品待ち、保険会社の承認待ち、乾燥待ち、工程間の受け渡し待ちが主な要因です。塗装ブースの前で車両が滞留していないかは、特に確認すべき点です。

まず出す数字

次の項目を、直近半年から一年で集計してください。

  1. 月別の入庫台数と、売上・粗利額
  2. 一件あたりの平均売上、平均粗利、平均預かり日数
  3. 案件ごとの実作業時間(工程別に取れればなお良い)
  4. 月別の材料仕入額と、売上に対する比率
  5. 塗装ブースの月間稼働時間と、待ちが発生した時間
  6. 入庫の経路別内訳(保険会社経由、ディーラー・整備工場からの下請け、自社顧客の直接入庫)
  7. 手直し・再作業の件数と、その工程

この七つが揃えば、三つの論点のどこに問題があるかは特定できます。

一件あたりの粗利を掴む

全体の粗利率だけを見ていると、赤字の案件が黒字の案件に隠れてしまいます。案件単位で、売上から部品代・外注費・材料費・投入した作業時間分の労務費を差し引いて、粗利を出してみてください。

多くの工場で、特定の種類の案件(軽微な損傷、古い車両、特殊な色、素材が難しい車両など)が採算割れしていることが見つかります。採算の合わない案件の傾向が分かれば、見積の出し方も受注の判断も変えられます。

実作業時間の記録を仕組みにする

記録は続かなければ意味がありません。負担を最小限にする工夫が要ります。

  • 工程の開始と終了だけを記録する。細かい内訳は求めない
  • 紙の作業指示書に時刻を書く欄を設ける、あるいは工程管理システムで打刻する
  • 記録した数字を必ず現場に返す。集めるだけで共有しないと形骸化する
  • 超過が大きかった案件は、月に一度振り返る場を設ける
  • 記録を個人の評価に直結させない。責める材料になると正確な記録が集まらなくなる

最後の点は特に重要です。記録の目的は改善であって、査定ではありません。

材料の管理を締める

材料費は、仕入と使用の両面から手を入れられます。

  1. 仕入先を複数持ち、品目ごとに条件を比較する。年に一度は交渉の機会を設ける
  2. 案件ごとの材料使用量を、おおよそでよいので記録する
  3. 調色のやり直しが発生した件数を記録し、原因を確認する
  4. 開封後の管理と在庫の棚卸しを定期的に行い、廃棄量を把握する
  5. 塗料の種類や工法の見直しによって、使用量と乾燥時間を減らせないか検討する

仕入価格の交渉だけでなく、使用量の削減も同じだけ効きます。両方から見てください。

滞留を減らして回転を上げる

預かり日数を短縮できれば、同じ設備と人員でより多くの案件を処理できます。滞留の主な要因と対策は次のとおりです。

  • 部品の欠品・遅延。入庫前に部品を手配し、揃ってから着工する運用にする
  • 承認や立会の待ち。必要な写真と資料を初回で揃え、やり取りの往復を減らす
  • 乾燥待ち。乾燥設備の見直しや、工程の組み方で時間を詰める
  • 工程間の受け渡し。次工程の空きを見て着工順を決める
  • 手直し。発生した工程を記録し、原因を潰す

回転が上がれば、単価を変えなくても粗利額は増えます。値上げより先に着手できる領域です。

単価の見直しと交渉

実作業時間と材料費の実態が数字で揃って初めて、単価の議論ができます。根拠のないまま単価の引き上げを申し入れても、話は進みません。

自社の一時間あたりの必要原価(人件費、設備の償却とリース、光熱費、間接費を実作業可能時間で割ったもの)を計算し、そこに目標利益を乗せた水準を把握してください。そのうえで、乖離の実績と材料費の上昇を資料として示すことが交渉の出発点になります。なお、費用の按分方法や目標利益率に業界共通の正解はなく、工場ごとに設定が異なります。

自社入庫を増やして収益構造を変える

取引先や保険会社経由の入庫に依存していると、単価の決定権を持ちにくくなります。自社に直接入る案件を増やすことは、収益構造そのものを変える取り組みです。

  • 整備・車検の顧客に、鈑金塗装も自社でできることを伝える
  • 小傷やへこみの部分補修、ホイールの修理など、保険を使わない実費案件のメニューを用意する
  • コーティングや用品と組み合わせ、入庫の理由を増やす
  • 自社サイトや地図アプリの情報を整え、修理事例を掲載する
  • 地域の法人や事業者の車両を、継続的に受ける関係をつくる

自社入庫は単価を自分で決められる領域です。比率を少しずつ上げていくことが、長期的な収益の安定につながります。

それでも構造が変わらないとき

指数との乖離も材料費も稼働も見直したうえで、なお固定費を賄えない場合、設備規模と需要が合っていない可能性があります。塗装ブースや乾燥設備は固定費が重く、一定の台数がなければ採算に乗りません。

この段階では、近隣工場との設備共有や工程の相互委託、あるいは購買力と管理機能を共有できるグループへの参画といった選択肢が検討対象になります。第三者への承継は廃業とは異なり、職人の雇用と顧客・取引先との関係を残す方法にもなり得ます。適否は業績、設備、立地によって大きく異なり、一概には言えません。

いずれの道を選ぶにしても、ここまで整理した数字が判断の土台になります。

よくある質問

Q. 実作業時間の記録を始めたいのですが、現場の反発が心配です。目的が査定ではなく改善であることを最初に明確に伝えてください。個人別の成績表として使わない、記録した数字は現場に返して一緒に振り返る、という運用を約束することが前提です。記録項目も工程の開始と終了だけに絞り、負担を最小限にしてください。

Q. 材料費はどのくらいに収めるべきですか。適正水準は、扱う車両、工法、案件の構成によって大きく異なるため、業界共通の目安を当てはめるのは適切ではありません。重要なのは自社の推移を追うことです。売上に対する材料費の比率を月次で記録し、上昇傾向があればその原因を確認するという使い方が実務的です。

Q. 保険会社経由の入庫を減らすべきでしょうか。減らすことが目的ではなく、依存度を下げて選択肢を持つことが目的です。既存の取引を維持しながら、自社入庫の比率を少しずつ上げていく進め方が現実的です。自社入庫が増えれば、単価を自分で決められる領域が広がり、交渉の余地も生まれます。

まとめ

鈑金塗装が儲からない原因は、指数と実作業時間の乖離、材料費の管理、稼働と滞留の三つに集約されます。見直す順番は、まず実作業時間を記録して案件ごとの粗利を掴むこと。次に材料の仕入と使用量を締めること。そして滞留を減らして回転を上げることです。

単価の交渉は、これらの数字が揃ってから行えば説得力を持ちます。あわせて自社入庫の比率を高めれば、単価の決定権を取り戻せます。それでも設備規模と需要が合わないときには、連携や承継という体制側の選択肢も視野に入ります。