負債があってもM&Aは諦めなくてよい

借入金の多さだけを理由に、M&Aを諦めてしまうのは早計です。買い手は、負債の有無だけでなく、その会社が生み出す価値や将来性を総合的に見て判断します。負債を上回る魅力があれば、承継は十分に可能です。

むしろ、後継者がいないまま廃業を選べば、借入の返済や従業員の解雇といった重い負担がのしかかります。設備の撤去や原状回復、地下タンクの処理など、整備業やガソリンスタンドでは廃業そのものに費用がかかることも珍しくありません。M&Aは、負債を抱えた会社にとってこそ、有力な選択肢になりうるのです。まずは可能性を探ることから始めましょう。

負債はどのように扱われるのか

M&Aで負債がどう扱われるかは、譲渡の方法によって変わります。会社ごと譲る株式譲渡なら、原則として負債も含めて買い手に引き継がれます。一方、特定の事業だけを譲る事業譲渡なら、引き継ぐ範囲を選べます。

自社の負債の状況や、買い手の意向によって、どちらの方法が適しているかは変わります。負債の扱いは、譲渡スキームを考えるうえでの重要な出発点になります。負債の性質を踏まえて、最適な方法を検討することが大切です。

なお、株式譲渡で負債が引き継がれるといっても、それが価格から差し引かれる形で調整されるのが一般的です。買い手は会社の価値から負債を差し引いた残りを株式の対価として考えるため、負債が多いほど手元に入る対価は小さくなります。負債が消えるわけではなく、価格に織り込まれるという理解が正確です。

株式譲渡と事業譲渡の違い

負債の多い会社では、株式譲渡と事業譲渡のどちらを選ぶかが特に重要になります。それぞれの特徴を理解し、自社に合った形を検討しましょう。選ぶ方法によって、負債や許認可の扱いが大きく変わります。

  • 株式譲渡は会社ごと引き継ぎ負債も原則承継される
  • 事業譲渡は引き継ぐ資産や負債の範囲を選べる
  • 事業譲渡では許認可の取り直しが必要な場合がある
  • 事業譲渡では従業員や取引先との契約を個別に結び直す必要がある
  • 負債を切り離したい場合は事業譲渡が検討される

どちらにも利点と留意点があります。負債の状況、許認可の扱い、税務の観点などを総合して、最適な方法を見極めることが大切です。専門家の助言を得ながら、自社に合った道を選びましょう。整備業では、事業譲渡を選ぶと指定・認証の取り直しが必要になる場合があり、その手続きに時間がかかる点が実務上の分かれ目になります。

有利子負債と実質的な負債を分けて見る

「負債が多い」と一言で言っても、その中身はさまざまです。買い手の見方に近づくには、借入金として計上されているものと、帳簿には出にくいが実質的に負担となるものを分けて整理すると分かりやすくなります。

  • 金融機関からの長期・短期借入金(返済スケジュールが明確なもの)
  • リース債務や割賦の残高(リフト・テスター・代車・社用車など)
  • 買掛金や未払金といった通常の運転資金の範囲のもの
  • 未払残業代や退職金の引当不足など、簿外になりやすい将来の負担
  • 役員借入金(経営者から会社への貸付。実質的に自己資本に近く扱われることもある)

このうち役員借入金は、買い手との交渉で扱いが分かれる代表例です。放棄するのか、対価の一部として回収するのかで、手取りの姿が変わります。逆に、未払残業代のように後から表面化しやすいものは、事前に把握して改善に着手しているかどうかが信頼を左右します。

個人保証の扱いを整理する

借入金の多い会社では、経営者個人が連帯保証人になっているケースがほとんどです。M&Aでこの個人保証をどう外すかは、安心して引退するための最重要テーマの一つです。会社を譲っても保証だけ残っては、引退の意味が薄れてしまいます。

買い手が保証を引き継ぐ、借り換えで保証を消す、金融機関と交渉して解除するなど、いくつかの道筋があります。会社を譲っても保証だけ残る事態を避けるため、保証の扱いを交渉の論点に含めることを忘れないようにしましょう。契約書への明記まで確認することが肝心です。

見落としやすいのが、金融機関の借入以外の保証です。工場や事務所の賃貸借契約、リース契約、割賦販売、取引先との継続的な取引に関する保証など、経営者個人が名前を連ねているものは意外に多いものです。棚卸しをして、一つずつ扱いを決めていく必要があります。

個人保証を外すための進め方

個人保証の解除は、相手のあることなので確約はできませんが、進め方には定石があります。順を追って動くことで、話が前に進みやすくなります。

  1. 自分が保証している契約をすべて洗い出し、契約書の原本を確認する
  2. 金融機関ごとに、借入残高・担保・保証の関係を一覧にする
  3. M&Aの検討段階で、金融機関に方針を相談する下地をつくる
  4. 買い手候補との交渉で、保証の扱いを条件として明確に提示する
  5. 買い手による引き継ぎか、借り換えによる解消かの道筋を選ぶ
  6. 最終契約書に保証解除の取り扱いと時期を明記する
  7. 決済後、実際に解除されたことを書面で確認する

最後の確認まで済ませて、初めて完了です。契約書に書いてあっても、実際の解除手続きが済んでいなければ保証は残ります。ここを確認せずに引退してしまい、後から気づくケースがあります。

買い手が負債の中身を見る視点

買い手は、負債の額そのものよりも、その中身と返済の見通しを重視します。設備投資のための健全な借入なのか、赤字を埋めるための借入なのかによって、評価は大きく変わります。同じ金額でも、その意味合いは全く異なります。

  • 借入が何のための資金だったかが明確か
  • 返済の負担が事業の収益で賄える見通しか
  • 簿外の負債や不明瞭な債務がないか
  • 負債の内容が帳簿と一致し透明であるか
  • 返済条件の変更(リスケジュール)の有無とその経緯

負債の性格や返済見通しを整理し、誠実に説明できるようにしておくことが、買い手の安心につながります。前向きな投資のための借入であれば、むしろ会社の成長姿勢として評価されることもあります。塗装ブースや検査ラインの更新、EV対応の設備投資など、事業の将来につながる借入であれば、その説明をきちんと添えましょう。

業態によって負債の意味合いは変わる

自動車アフター業界のなかでも、業態が違えば負債の性格も変わります。同じ金額でも、買い手の受け止め方は一様ではありません。

  • 整備工場:リフトや検査ラインなど設備投資に伴う借入が中心。指定工場の維持に必要な投資であれば説明がつきやすい
  • 鈑金塗装:塗装ブースやエーミング機器など単価の高い設備投資が多く、稼働率とセットで見られる
  • 中古車販売:在庫車両の仕入資金(フロアプラン等)が大きく、在庫の質と回転が返済力の裏づけになる
  • 車検専門店:出店に伴う内装・設備投資が中心。立地の集客力と回収の見通しが問われる
  • ガソリンスタンド:地下タンクや設備更新の負担が大きく、法令対応に伴う将来投資も併せて見られる
  • 部品商:在庫と売掛が資金を圧迫しやすく、与信管理の状況が確認される
  • 輸入車・二輪:専用機器や在庫が高額になりやすく、専門性による単価の高さと合わせて評価される

自社の借入が、事業の稼ぐ力とどう結びついているかを説明できることが重要です。数字の裏づけがあれば、負債は「重荷」ではなく「投資の履歴」として受け止められます。

会社の価値を高めて負債を相対化する

負債があっても、それを上回る事業の魅力があれば、M&Aは成立します。技術力、顧客基盤、立地、有資格者といった強みを磨くことで、負債の重さを相対的に小さく見せることができます。強みが際立てば、負債は障害になりにくくなります。

赤字体質であれば収益改善に取り組み、属人化が強ければ仕組み化を進める。こうした地道な磨き上げが、負債を抱えた会社の承継の可能性を広げます。時間に余裕を持って取り組むほど、選択肢は増えていきます。早く動くほど、打てる手も多くなります。

整備業で取り組みやすいのは、車検の継続率を上げること、単価の見直し、遊休設備や不要在庫の整理、そして役員報酬や公私混同の経費の適正化です。とくに不要資産の整理は、負債の圧縮と財務の透明化を同時に進められる取り組みです。

価格の考え方と負債の関係

譲渡価格の考え方を知っておくと、負債が結論にどう効くかが理解しやすくなります。中小企業のM&Aでは、時価純資産+営業利益の2〜3年分(時価純資産法)が目安として用いられることが多く、実際の価格は交渉で決まります。

この考え方に照らすと、負債は時価純資産の側を押し下げる要素です。したがって、負債が大きいほど価格は下がりやすくなります。一方で、営業利益がしっかり出ていれば、その2〜3年分が上乗せされるため、負債があっても価格が付く余地は残ります。

実際の算定では、資産側も時価で見直されます。土地・建物や機械の評価、在庫の実態、回収見込みの乏しい売掛金などが調整されるため、帳簿上の純資産とは結論が変わることがあります。相場や算定方法は個別性が高く一概には言えませんので、自社の場合どうなるかは個別に確認してください。

債務超過でも道はあるのか

負債が資産を上回る、いわゆる債務超過の状態にある会社でも、M&Aの可能性がまったくないわけではありません。買い手が、その会社の技術や顧客、立地といった価値を高く評価すれば、負債を引き受けたうえで承継が成立することもあります。

また、事業譲渡という形を選べば、価値のある事業だけを切り出して引き継いでもらうことも考えられます。会社そのものは債務超過でも、事業単位で見れば魅力があるケースは少なくありません。見せ方や切り出し方次第で、道が開けることもあるのです。

ただし、債務超過の状態での承継は、税務や法務、債権者との関係など、慎重に扱うべき論点が多くなります。とくに事業譲渡で価値ある事業だけを移す場合、残された会社の債権者に不利益が生じないかという観点は避けて通れません。安易に自己判断で進めず、専門家とともに丁寧に検討することが欠かせません。

金融機関との対話を絶やさない

負債の多い会社にとって、金融機関との関係は特に重要です。返済の状況や事業の見通しを日頃から誠実に伝え、良好な関係を保っておくことが、いざM&Aを進める際の交渉を円滑にします。

承継やM&Aを検討する段階では、金融機関にも早めに相談の下地をつくっておくとよいでしょう。個人保証の解除や借入の引き継ぎには、金融機関の理解が不可欠だからです。突然の相談よりも、日頃の対話の積み重ねが物を言います。

  • 返済状況や事業の見通しを定期的に共有する
  • M&Aの検討段階で相談の下地をつくる
  • 個人保証の扱いについて方針を協議する
  • 担保に入っている資産と、その評価を把握しておく
  • 誠実な情報開示で信頼関係を保つ

金融機関を味方につけることは、負債を抱えた会社の承継を大きく後押しします。日頃の関係づくりが、いざというときに生きてくるのです。なお、公的機関による事業承継や経営改善の支援制度が用意されていることもありますが、内容や要件は年度により異なりますので、その時点での確認が必要です。

許認可・法務で見落としやすい点

負債の切り離しを目的に事業譲渡を選ぶ場合、整備業では許認可の扱いが実務上の最大のハードルになります。指定工場・認証工場の資格は会社に付いているため、事業だけを移すと買い手側で新たな取得や申請が必要になることがあります。要件確認や審査に時間がかかることもあり、事業に空白を生じさせない段取りが求められます。

また、借入や賃貸借、リースの契約には、支配権の変動や譲渡があった場合に事前承諾を要する条項が入っていることがあります。契約書を確認せずに進めると、後から契約の見直しを求められる事態になりかねません。

中古車や中古部品を扱うなら古物商許可、ガソリンスタンドなら危険物に関する法令、板金塗装でエアコン作業を行うならフロン類の取扱いに関する事項など、業務に応じた許認可も併せて棚卸ししておきましょう。詳細は管轄の運輸支局や所管の機関での確認が前提となります。

従業員・取引先への配慮

負債を抱えた会社ほど、従業員は将来に不安を持ちやすいものです。だからこそ、情報の扱いには慎重さが求められます。検討中の段階で話が漏れると、整備士の離職や取引条件の見直しにつながり、かえって会社の価値を損ないます。

伝えるのは、成約が固まってからが一般的です。経営者自身の言葉で、雇用や処遇がどうなるかを含めて説明することが、動揺を最小限に抑えます。買い手にとっても従業員の定着は望むところなので、雇用の維持は多くの案件で条件として話し合われます。

取引先については、部品商や保険会社、リース会社との取引条件が承継後も続くかが焦点になります。日頃から支払いを滞らせずに関係を保っておくことが、こうした局面で効いてきます。

よくある失敗と回避策

負債の多い会社のM&Aでは、次のようなつまずきが起こりがちです。あらかじめ知っておけば、多くは避けられます。

  • 資金繰りが行き詰まってから相談し、選べる道が限られてしまう→体力が残るうちに動く
  • 負債を小さく見せようとして説明を曖昧にする→調査で必ず露見するため、最初から誠実に開示する
  • 個人保証を口約束で済ませる→最終契約書に明記し、解除の実行まで確認する
  • 簿外の負担(未払残業代・退職金・原状回復費など)を把握していない→事前に洗い出して見積もる
  • 事業譲渡を選んだのに許認可の手続き期間を織り込まない→運輸支局等に事前確認し逆算する
  • 金融機関に何も伝えないまま話を進める→早い段階で相談の下地をつくる

共通しているのは、「隠さない」「早く動く」「書面で確認する」の三点です。この三つを守るだけで、進み方は大きく変わります。

早めの相談が選択肢を広げる

負債の多い会社ほど、早めに専門家へ相談することが重要です。財務が悪化してから動き出すと、選べる道が狭まってしまいます。まだ事業に体力があるうちに動けば、より良い条件での承継が期待できます。

負債の扱いは、譲渡の方法、個人保証、税務、金融機関との調整など、複数の専門領域にまたがります。一人で抱え込まず、業界に精通した専門家とともに整理していくことをおすすめします。早めの相談が、思わぬ活路を開くこともあります。

よくある質問

Q. 借入が残っていても、買い手は見つかりますか。 A. 借入の存在自体が障害になるとは限りません。買い手が見るのは、その借入が何のためのもので、事業の収益で返していける見通しがあるかです。顧客基盤や有資格者、立地といった価値が残っていれば、検討の対象になります。ただし成果を保証できるものではなく、案件ごとの個別性が高い領域です。

Q. 個人保証は必ず外れますか。 A. 相手のあることなので、必ずとは言えません。買い手による引き継ぎ、借り換えによる解消、金融機関との交渉といった道筋があり、多くの案件で論点として扱われます。大切なのは、交渉の条件に含め、最終契約書に明記し、実際の解除まで確認することです。

Q. 事業譲渡にすれば借入は消えますか。 A. 消えるわけではありません。事業譲渡で買い手に移らなかった借入は、残った会社に留まります。譲渡の対価を返済に充てるなどの整理が必要です。また、債権者との関係で慎重な検討が求められるため、必ず専門家と進めてください。

Q. 返済条件の変更(リスケ)をしている最中でも相談できますか。 A. 相談は可能です。むしろ、状況が固まる前に選択肢を知っておくことに意味があります。金融機関との関係をどう保ちながら進めるかも含めて、整理していくことになります。

Q. 廃業とM&A、どちらが負担は小さいですか。 A. 一概には言えませんが、廃業には設備の撤去や原状回復、従業員の退職に伴う費用がかかり、借入は残ります。M&Aであれば事業と雇用が続き、対価によって借入の整理が進む可能性があります。両方を並べて比べることをおすすめします。

Q. 相談の費用はかかりますか。 A. 相談は無料・秘密厳守で承っています。完全成功報酬のため、成約に至らなければ報酬は発生しません。なお、費用の体系は支援会社によって異なりますので、比較の際は確認してください。

まとめ

借入金が多くても、M&Aを諦める必要はありません。譲渡の方法によって負債の扱いは変わり、個人保証の解除や会社の価値の磨き上げによって、承継の可能性は広がります。買い手は負債の額だけでなく、その中身と会社の将来性を総合的に見ています。まずは自社の状況を整理することから始めましょう。

価格の目安は時価純資産+営業利益の2〜3年分と言われ、負債は純資産側を押し下げます。だからこそ、収益力を高め、不要資産を整理し、簿外の負担を洗い出しておくことが効いてきます。事業譲渡を選ぶ場合は、許認可の取り直しに要する期間を必ず織り込んでください。

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