赤字でも売れる理由がある

赤字だからといって、会社に価値がないわけではありません。買い手は、直近の損益だけでなく、その会社が持つ人材、顧客、設備、許認可、立地といった資産に注目します。これらは赤字であっても価値を失わないものです。

むしろ買い手にとって、自社の経営ノウハウを注入すれば黒字化できる可能性のある会社は、魅力的な対象になりえます。整備業界では人手も工場も不足しており、ゼロから拠点を立ち上げるより既存の会社を引き継ぐほうが早い、という判断は珍しくありません。赤字は必ずしも承継の妨げにはならないのです。大切なのは、その会社ならではの価値を見つけ、根拠をもって伝えることです。

「どんな赤字か」で評価は大きく変わる

同じ赤字でも、買い手の受け止め方はまったく異なります。まず自社の赤字がどの型に当てはまるかを見極めましょう。

  • 一時的な赤字:大型設備の導入、災害や事故、単年度の特殊要因によるもの。改善の見通しを立てやすい
  • 構造的な赤字:客単価や工賃設定、稼働率、人件費の水準など、事業モデルに起因するもの。手を打つ余地の説明が要る
  • 見かけ上の赤字:役員報酬が高い、家族への給与、生命保険料、経営者所有不動産への地代など、実態は利益が出ているもの
  • 縮小による赤字:経営者の高齢化で営業が止まり、売上が落ちてきたもの。買い手が営業力を補える場合は評価されやすい

とりわけ三つ目の見かけ上の赤字は、整備業や中古車販売の中小企業で非常に多いパターンです。この場合、赤字であること自体が実態を表していないため、正しく整理して示せば評価は変わります。

買い手が赤字企業に見出す価値

買い手が赤字の整備会社に見出す価値には、いくつかの典型があります。日々の業務では気づきにくい価値が、買い手には魅力に映ることもあります。

  • 技術を持つ整備士や有資格者という人材
  • 地域に根ざした安定した顧客基盤と車検の入庫台数
  • 認証・指定などの許認可や、リフト・テスターなどの設備
  • 集客に有利な立地や、確保が難しい広さの敷地
  • 蓄積された整備データや顧客情報、車検の満了時期のデータ
  • 保険会社やディーラー、レンタカー・リース会社との入庫ルート

こうした資産は、一から築こうとすれば多大な時間とコストがかかります。とくに指定工場の取得や整備士の採用は、お金を出せばすぐ手に入るものではありません。既に整ったこれらを引き継げることが、買い手には大きな魅力になります。

赤字の理由を説明できるか

赤字でも売れるかどうかは、その理由をどれだけ明確に説明できるかにかかっています。買い手が最も恐れるのは「なぜ赤字なのか分からない会社」です。理由が分からなければ、直せるかどうかも判断できません。

設備投資の負担が一時的に重くのしかかっている、経営者の高齢化で営業活動が停滞している、車検の値引きが常態化して工賃が下がっている——理由が特定できていれば、買い手は改善の余地を見出せます。数字と併せて、いつから、何をきっかけに、どの部門で赤字が出ているのかを説明できるように整理しておきましょう。誠実な説明が、買い手の理解を得る鍵になります。

決算書のどこを見られるか

買い手は損益計算書の最終行だけを見ているわけではありません。実務では次のような点が確認されます。

  • 売上の内訳(車検、一般整備、鈑金、車両販売、保険手数料などの構成比)
  • 粗利率の推移と、部品仕入と外注費の比率
  • 整備士一人あたりの売上や、リフト一基あたりの稼働
  • 固定費のうち、人件費と地代家賃が占める割合
  • 借入金の残高と返済額、月々の資金繰り
  • 在庫(部品・車両)の中身と滞留状況

赤字であっても、粗利率が安定していて固定費に手を打つ余地があると分かれば、買い手は前向きに検討します。逆に、粗利率が下がり続けている場合は、値付けや原価管理の構造に踏み込んだ説明が必要です。

実態収益(正常収益力)という見方

M&Aの現場では、決算書の利益をそのまま使わず、実態収益に引き直して評価します。オーナー企業特有の費用を調整し、第三者が経営した場合にどれだけの利益が出るかを推し量る作業です。

  • 経営者や家族の役員報酬を、同等の人材を雇う場合の水準に置き換える
  • 事業に関係のない保険料、車両費、交際費を除く
  • 経営者所有の不動産を使っている場合、地代を相場水準に調整する
  • 一時的な損益(設備の除却、災害、補助金収入など)を除く
  • 未計上の退職給付や、計上されていない修繕の必要額を反映する

この調整の結果、帳簿上は赤字でも実態はほぼ均衡している、あるいは黒字だと示せる会社は少なくありません。ただし、恣意的な調整は信用を損ないます。根拠資料を添えて説明できる範囲にとどめることが大切です。

売却価格はどう考えるか

価格の目安としては、時価純資産+営業利益の2〜3年分(時価純資産法)がよく用いられます。ただしこれは目安であり、実際の金額は交渉で決まります。

赤字の場合、営業利益の上乗せ部分が小さくなるか、ほとんど乗らないことがあります。その代わり、時価純資産——つまり土地・建物・設備の実勢価値や、回収可能な債権——が価格の中心になります。自社所有の工場用地がある会社では、赤字であっても一定の評価がつく場面があります。逆に、借地・借家で純資産も薄い場合は、価格より「引き継いでもらえること」自体に価値を置く判断もあり得ます。

黒字化の余地を示す

買い手は、承継後に自社の力で黒字化できるかを見ています。改善の可能性を具体的に示せると、評価は高まります。

  • 削減できる余分なコストがどこにあるか
  • 稼働しきれていない設備や人材はないか(リフトの空き、休眠のテスター)
  • 伸ばせる収益源はあるか(車検の入庫促進、追加整備の提案、タイヤ・バッテリーなどの物販)
  • 値付けや原価管理に改善の余地はないか(工賃単価、値引きの常態化、外注比率)
  • 買い手の仕入ルートに乗せることで下がる部品原価はどれくらいか

これらは赤字だからこその伸びしろでもあります。「立て直せる会社だ」と感じてもらえるよう、担当者の肌感覚ではなく数字で整理して伝えましょう。改善の道筋が見えれば、赤字はむしろ投資の機会と映ります。

人材と技術という強みを守る

赤字の会社であっても、技術を持つ整備士がいることは大きな価値です。逆に、赤字を理由に人材が流出してしまえば、会社の魅力そのものが失われます。承継を検討するなら、キーとなる人材が残る環境を保つことが最優先です。

有資格者の存在は、許認可の維持にも直結します。整備主任者が退職すれば認証の要件に影響し、指定工場であれば要員体制の維持がより厳しく問われます。人材という強みを守りながら承継を進めることが、赤字企業のM&Aを成功させる要です。人が抜けてしまう前に動くことが肝心です。

許認可・設備という無形の価値

認証工場・指定工場の資格は、取得に設備・要員・場所の要件を満たす必要があり、時間がかかります。既にこれらを備えた工場を引き継げることは、買い手にとって時間を買うことと同じです。

あわせて、フロン類の取扱いに関する登録、産業廃棄物の保管や委託の体制、鈑金塗装であれば塗装ブースや排水・排気に関する届出、中古車の取扱いがあれば古物商許可などが、きちんと維持されているかも見られます。これらの書類が整理されている会社は、それだけで調査がスムーズに進み、印象が良くなります。

業態によって見られ方は変わる

同じ赤字でも、業態によって買い手の関心の置き所は異なります。

  • 整備工場:整備士の人数と資格、指定の有無、車検台数、地域内での立地
  • 鈑金塗装:ブースやフレーム修正機の状態、保険会社やディーラーからの入庫ルート、塗装技術者の在籍
  • 中古車販売:在庫の滞留と評価損、展示場の立地と広さ、割賦・保証の提携先
  • 車検専門店:ピットの回転効率、リピート率、フランチャイズ契約の条件
  • ガソリンスタンド:地下タンクの状態と保安体制、油外収益の比率、土地に関するリスク
  • 部品商:得意先の分散度、在庫の質、配送網とドライバーの確保状況
  • 輸入車:専用テスターと技術資格、インポーター契約の継続可否
  • 二輪:小規模ゆえに個人の技術と顧客関係に価値が集中しやすい

自社の業態で何が評価軸になるのかを知れば、限られた時間をどこに投じるべきかが見えてきます。

借入が多い・債務超過の場合

赤字が続いて借入が膨らんでいる、あるいは債務超過に陥っている場合でも、承継の道が閉ざされるわけではありません。ただし、選べるスキームは変わります。

株式譲渡では買い手が借入も引き継ぐため、返済可能性が厳しく見られます。事業譲渡や会社分割で、収益性のある部分だけを引き継いでもらう形が検討されることもあります。経営者保証の扱い、金融機関との事前の相談、資産の処分順序など、論点は多岐にわたります。個別性が非常に高い領域のため、早い段階で専門家と金融機関を交えて整理することが不可欠です。

早めに動くことの重要性

赤字の会社ほど、早く動くことが選択肢を広げます。赤字が続いて財務がさらに悪化したり、人材が流出したりすると、買い手を見つけるのは難しくなっていきます。事業にまだ体力があるうちに検討を始めることが肝心です。

また、M&Aは相手を探し、交渉し、契約し、引き継ぐまでに一定の期間を要します。資金繰りが逼迫してから動き始めると、時間切れで選択肢が狭まります。「もう手遅れかもしれない」とためらう前に、まず相談してみることをおすすめします。早い段階で第三者の目を入れれば、赤字を改善しながら承継を目指す道筋も見えてきます。

廃業との比較で考える

承継先が見つからず、廃業を考える経営者もいます。しかし廃業には、設備やリフトの撤去費用、廃油・廃タイヤなどの処分、原状回復、従業員の解雇と退職金、借入の一括返済、地下タンクがある場合の撤去といった負担が伴います。手元に残ると思っていた資産が、費用でほとんど消えることもあります。

M&Aで引き継いでもらえれば、こうした負担を避けられる可能性があります。何より、従業員の雇用を守り、長年支えてくれた顧客への責任を果たせます。費用と手取りを両者で比較したうえで、納得のいく道を選びましょう。安易に廃業を決める前に、一度立ち止まって検討する価値は十分にあります。

赤字でも避けたい状態とは

赤字そのものより、承継の障害になりやすい状態があります。心当たりがあれば、早めに手を打ちましょう。

  • キーとなる整備士が流出し続けている
  • 設備が老朽化し、更新の目処が立たない
  • 帳簿と実態が大きく食い違っている(在庫、売掛金、簿外の債務)
  • 顧客が特定の取引先に大きく偏っている
  • 許認可に関わる要件(要員や設備)が満たせなくなりかけている
  • 税金や社会保険料の滞納がある
  • 未払残業など、労務上の問題が放置されている

とくに帳簿と実態の乖離は、調査の段階で必ず表面化します。自ら先に開示するのと、買い手に発見されるのとでは、信頼への影響がまったく異なります。

改善と承継を並行して進める

赤字の会社では、収益改善に取り組みながら、同時に承継の準備を進める考え方が有効です。完全に黒字化してから売ろうとすると、時間がかかりすぎて人材流出や資金繰りの悪化に追いつかれることがあります。

改善の途上であっても、取り組みの姿勢や成果の兆しを示せれば評価につながります。立て直しの努力そのものが、会社の将来性を伝える材料になるのです。何から手をつければよいか分からないときは、まず専門家に現状を見てもらうことをおすすめします。第三者の目で整理することで、改善と承継の両面から現実的な道筋が見えてきます。

準備の順序

限られた時間で成果を出すには、着手の順序が重要です。おおむね次の流れが現実的です。

  1. 直近数期の決算書と試算表を並べ、赤字の発生源を部門別・要因別に特定する
  2. 役員報酬や保険料などを調整し、実態収益を把握する
  3. 人材の引き留めと、許認可の要件充足を最優先で確保する
  4. 在庫、売掛金、簿外債務、労務、契約書を洗い出して整理する
  5. すぐ着手できる改善(値引きの見直し、外注比率、遊休資産の処分)に手をつける
  6. 専門家に相談し、承継の選択肢とスケジュールを描く
  7. 買い手候補の検討と、強みを伝える資料の準備を並行して進める

よくある疑問

Q. 何期連続の赤字までなら売れますか。A. 期数だけで決まるものではありません。赤字の理由、実態収益、人材と許認可の状態、財務の余力を総合して判断されるため、個別性が高く一概には言えません。

Q. 赤字だと価格はゼロになりますか。A. 時価純資産が残っていれば、それが価格の中心になります。土地や設備を自社で保有している場合はとくにそうです。目安は時価純資産+営業利益の2〜3年分(時価純資産法)ですが、実際は交渉で決まります。

Q. 決算書を良く見せるために調整すべきでしょうか。A. 逆効果です。調査で必ず判明し、信頼を失って交渉が壊れます。実態を正直に開示し、調整すべき費用は根拠を添えて説明するのが正しい進め方です。

Q. 従業員に知られずに進められますか。A. 交渉の段階では情報を厳格に管理するのが一般的です。ただし、キーパーソンの継続意思は買い手の関心事であるため、開示の範囲とタイミングは専門家と相談して設計してください。

Q. 補助金や支援制度は使えますか。A. 事業承継やM&Aに関する公的な支援制度が用意されている場合がありますが、対象や要件、金額は年度により異なります。最新の内容を所管の窓口や専門家に確認してください。

まとめ

赤字の整備会社でも、技術者や顧客基盤、許認可、立地といった価値があれば、M&Aで承継できる可能性は十分にあります。鍵になるのは、赤字の型を見極めて理由を誠実に説明すること、実態収益に引き直して本当の姿を示すこと、黒字化の余地を数字で伝えること、そして人材という強みを守ることです。

そして何より、財務が悪化し人が抜ける前に早く動くことが選択肢を広げます。廃業に伴う費用と比べれば、承継を探る価値は決して小さくありません。赤字だからと諦める前に、まずは専門家に相談してみてください。株式会社フォーバル 自動車アフターマーケットチームは、自動車アフター業界に特化した立場で、赤字企業の承継の可能性を一緒に探ります。完全成功報酬・秘密厳守で無料相談を承ります。