個人経営の運送業を譲るとき

個人事業には株式がありません。そのため会社ごと譲ることができず、事業譲渡の形をとることになります。車両、営業所、車庫、従業員との雇用契約を、ひとつずつ譲受側へ移していく手続きです。

この場合、一般貨物自動車運送事業の許可は自動的には移りません。譲受側が事業譲渡等の認可を受けるか、新たに許可を取得する必要があります。認可・取得までの期間を見込まずに日程を組むと、引き継ぎ後に営業できない空白が生まれます。

個人経営の運送業の売却では、車庫の土地も個人名義であることが多く、事業と不動産をまとめて譲るのか、不動産は残して賃貸するのかという選択も生じます。

有限会社の運送会社を譲るとき

有限会社は新規設立ができなくなりましたが、既存の会社は「特例有限会社」として存続しています。株式会社と同様に持分(株式)があるため、有限会社の運送会社の売却も株式譲渡で行えます。

この場合、運送業許可は法人に残るため取り直しは不要です。緑ナンバーもそのまま使えます。手続きの面では最も現実的な選択肢になります。

ただし、株主名簿が整っていない、設立時の名義株がそのまま残っている、相続で持分が分散したまま把握できていない——こうした状態だと交渉が止まります。過去の株式移動を裏付ける書類を探し、必要なら名義人の確認を進めておいてください。

会社譲渡という言い方について

ご相談のなかでは「会社譲渡」という言葉もよく使われます。運送会社の会社譲渡といった場合、会社そのものを譲る意味で用いられており、実務上は株式譲渡(持分譲渡)を指すことがほとんどです。

一方、事業だけを切り出す事業譲渡とは、許可・契約・税務の扱いがまったく異なります。「会社ごと譲りたいのか」「事業だけを譲りたいのか」をはっきりさせておくと、話が早く進みます。

税務上の違いを押さえる

株式譲渡と事業譲渡では、税金のかかり方が大きく異なります。

株式譲渡では、株主である個人に譲渡所得として課税されます。分離課税で税率は約20%です。一方、事業譲渡では対価を受け取るのは会社であり、法人税が課されます。そのうえで経営者個人が資金を受け取るには、役員退職金や配当といった形をとることになり、二段階で課税されます。

個人事業の譲渡では、資産の種類ごとに課税され、消費税の扱いも生じます。車両の譲渡には消費税がかかる点にも注意が必要です。手取り額に直結する部分ですので、スキームを決める前に税理士を交えて試算しておいてください。

小規模でも譲渡先は見つかるのか

「車両が数台の会社に買い手がつくのか」というご質問をよくいただきます。結論から言えば、規模だけで判断されるわけではありません。

買い手が求めているのは、許可、ドライバー、そして荷主との関係です。車両が10台以下でも、これらが揃っていれば引き継ぎ手はあります。特に特定のエリアや車種を補いたい企業にとっては、規模より立地と対応力が重要になります。

まずは現状の見立てを知るところから始めてみてください。決算書3期分と許可・車両の資料があれば、無料でご案内できます。

許可の扱いが最大の分かれ目

法人格の形によって進め方が変わる最大の理由は、許可の扱いです。株式を譲る形であれば、許可を持っている法人はそのまま存続し、株主が入れ替わるだけです。許可を取り直す必要はありません。

一方、個人事業として営んでいる場合、許可は個人に紐づいています。事業を譲るということは、許可を持つ主体が変わるということであり、譲受側で新たに許可を取得するか、譲渡について認可を受ける手続きが必要になります。この手続きに要する期間が、全体のスケジュールを左右します。

有限会社の場合は、会社法の施行後も特例有限会社として存続しており、株式を譲る形が取れます。この点では株式会社と大きく変わりません。ただし、定款の内容や株式の譲渡に関する定めが古いままになっていることがあり、確認が必要です。

個人事業の場合に確認すること

個人で運送業を営んでいる場合、事業に使っている資産の名義が、事業用と私用で混ざっていることがよくあります。車両、車庫の土地、事務所、電話番号、燃料カード。これらのうち、何を譲り、何を手元に残すのかを整理するところから始まります。

  • 車両の名義と、リースの契約者が誰になっているか
  • 車庫や事務所が自己所有か賃借か、賃借なら名義と承諾の要否
  • 従業員の雇用主が誰か(個人事業主本人のはずです)
  • 取引先との契約が、個人名か屋号か
  • 借入の名義と、保証の状況

従業員がいる場合、雇用関係は自動的には引き継がれません。譲受側と新たに雇用契約を結び直す形になります。手続きとしては一手間ですが、従業員にとっては勤続年数の扱いなどに関わるため、事前に条件を決めておいてください。

有限会社で見落としやすい点

特例有限会社では、株式の譲渡について「株主総会の承認を要する」という定めが法律上あるものとして扱われます。手続きとしては株式会社の譲渡制限株式と同様ですが、定款や議事録が長らく更新されていない会社では、そもそも株主が誰なのかが曖昧になっていることがあります。

設立時に名義を借りた株主がそのまま残っている、相続で持分が分かれたまま名義変更されていない、退職した役員が株式を持ったままになっている。いずれも、譲渡の段階で必ず整理が必要になります。名簿の確認は、検討を始めた最初にやってください。

もう一つ、有限会社のままにしておくか、株式会社へ移行するかという論点があります。譲渡そのものには影響しませんが、買い手が上場企業のグループであるような場合、移行を求められることがあります。移行には手続きと費用がかかるため、必要になってから慌てないよう、早めに確認しておくとよいでしょう。

税務の違いをどう考えるか

株式を譲る場合と、事業を譲る場合とでは、課税の仕組みが異なります。株式の譲渡であれば、譲渡した個人に対して課税されます。事業譲渡であれば、譲渡する主体に対して課税され、その後に個人が受け取る段階でさらに扱いが変わります。

どちらが有利かは、資産の内容、含み益の有無、借入の状況、そして受け取り方の設計によって変わります。一般論では判断できないため、条件を詰める前に顧問税理士に試算を依頼してください。手取りの見通しが立たないまま条件を決めると、後から動かせません。

また、役員退職金として受け取る部分を設けられるかどうかも、法人格の形によって変わります。個人事業には役員退職金という概念がありません。この違いも、手取りに影響します。

買い手から見た小規模案件

台数が数台という規模でも、買い手が関心を持つ理由はあります。営業所と車庫があり、許可が維持されていて、動かせる人がいる。この三つが揃っていること自体が、新規に立ち上げるより早くて確実だからです。

特に、進出したいエリアに拠点を持ちたい買い手にとっては、規模の大小はあまり問題になりません。新規に許可を取得し、車庫の要件を満たす土地を探し、運行管理者を配置し、ドライバーを採用する。この一連にかかる時間と手間を考えれば、既に回っている事業には値打ちがあります。

荷主の側からの買収もあります。自社の荷物を運ぶ体制を内製化したい会社にとっては、単独での収益力より、車両と人と許可が揃っていることのほうが重要です。

準備で変わることは規模が小さいほど多い

小規模な事業ほど、準備の効果が短期間で現れます。公私の分離は決算一期で形になりますし、記録の整備も規模が小さければ短期間で終わります。大きな組織のような改革は必要ありません。

  • 事業用と私用の資産・費用を分ける
  • 車両台帳と現物を突き合わせる
  • 運行管理者を複数名確保する
  • 荷主との取引を、口約束から書面に切り替える
  • 社長がやっている業務を書き出す

これらは、譲渡を選ばなかった場合でも事業の安定につながります。いずれ必要になる整理を前倒しでやっておく、という位置づけで取り組んでください。

相談の始め方

個人事業や有限会社という形を理由に、相談をためらう必要はありません。むしろ、形によって進め方が変わるからこそ、早い段階で確認しておく価値があります。株式を譲れるのか、事業を譲る形になるのか。これが分かるだけで、必要な期間の見通しが立ちます。

相談の際に手元にあるとよいのは、直近の決算書または確定申告書、車両の一覧、許可証の写しです。これらがあれば、取り得る形と、その場合の論点をおおよそ示せます。

法人化していない場合に検討すること

個人事業のまま譲るか、いったん法人化してから譲るか、という選択肢もあります。法人化しておけば株式を譲る形が取れるため、許可の手続きが軽くなり、買い手の選択肢も広がります。

ただし、法人化には手続きと費用がかかり、許可も法人として取り直す必要があります。時間がかかるため、譲渡の直前に思い立って進められるものではありません。数年先を見据えて検討する話です。

判断の目安としては、譲渡までに二年以上の余裕があり、事業の規模が一定以上あるなら検討する価値があります。逆に、一年以内に譲りたいのであれば、現状のまま進める前提で組み立てたほうが現実的です。

従業員への配慮

個人事業の譲渡では、従業員が譲受側と契約を結び直すことになります。この手続き自体は形式的なものですが、従業員から見れば「いったん辞めて入り直す」ように映ります。不安を与えないよう、説明の仕方には気を配ってください。

説明すべきは、雇用が続くこと、労働条件がどうなるか、勤続年数の扱いがどうなるか、有給休暇の残日数がどうなるかです。とくに勤続年数と有給休暇は、扱いを事前に譲受側と決めておかないと答えられません。

小規模な事業ほど、従業員一人ひとりとの距離が近く、説明の影響も直接的です。全員に同じ内容が同じタイミングで伝わるようにしてください。

荷主との取引をどう引き継ぐか

小規模な事業では、荷主との取引が書面ではなく長年の付き合いで成り立っていることがよくあります。譲渡にあたっては、この関係をどう引き継ぐかが最大の論点になります。

契約書がない場合、まず取引の実態を整理してください。いつから、どんな荷物を、どの頻度で、いくらで運んでいるのか。書き出すことで、買い手に説明できる形になります。可能であれば、譲渡の前に基本契約を交わしておくと、引き継ぎがはるかに確実になります。

ただし、契約を交わそうとすると荷主に理由を尋ねられます。「取引の整理をしている」という説明で足りることが多いのですが、勘のよい相手には察知される可能性もあります。時期の見極めは、間に立つ人と相談してください。

引き継ぎの場面では、前の経営者が同行して紹介するのが最も確実です。個人事業ほど、相手は会社ではなく人を見て取引しています。顔をつないでおくことが、そのまま取引の継続につながります。

時間があるかどうかで選べる道が変わる

個人事業のまま譲るのか、法人化してから譲るのか。荷主との取引を書面にしてから動くのか、いまの形のまま進めるのか。いずれも、残された時間の長さで答えが変わります。

二年以上あるなら、形を整えてから動くという選択が現実的です。一年以内であれば、いまの形を前提に、許可の手続きに要する期間を織り込んだ計画を立てます。どちらが良い悪いではなく、時間という条件によって最適な進め方が違うということです。

相談前に手元に置いておくもの

最初の相談では、直近の決算書または確定申告書、車両の一覧、許可証の写し、この三つがあれば話が具体的になります。株主名簿があれば、有限会社の場合はあわせてご用意ください。

揃っていなくても構いません。何が手元にあり、何が見当たらないのかが分かるだけでも、次にやることが決まります。

まとめ

個人事業か、有限会社か、株式会社か。形によって変わるのは、許可の扱いと、税務の考え方と、手続きに要する期間です。事業そのものの値打ちが変わるわけではありません。

個人事業であれば事業を譲る形になり、許可の手続きに時間がかかります。有限会社であれば株式を譲る形が取れますが、株主名簿と定款の確認が要ります。いずれの場合も、早めに確認しておけば、必要な期間を織り込んだ計画が立てられます。

規模が小さいことも、法人化していないことも、譲渡の障害にはなりません。まずは現状をお聞かせください。取り得る形と、そのために必要な準備を整理してご説明します。