顧客接点をどう広げるか
ガソリンスタンドは、地域に多くの顧客との接点を持っています。給油や洗車、車検を通じて日常的に顔を合わせる関係は、他の業態にはない財産です。しかし、その接点を燃料の販売だけで終わらせるのはもったいないという見方が広がっています。
すでにある信頼と接点を生かして、燃料以外の商品やサービスを届けられれば、顧客との関係はより厚く、長く続くものになります。宅配水のような生活に密着した事業は、そうした接点の広げ方の一つとして注目されています。給油の枠を超えて、暮らしを支える存在へと役割を広げる発想です。
接点を広げるといっても、新しく誰かと出会うことばかりを指すのではありません。すでに来てくださっている方について、こちらが知っていることを増やす。これも接点を広げることです。車のこと以外の話ができる相手が増えれば、事業の可能性はそれだけ広がります。
その意味で、この併設は接点の質を変える取り組みだと言えます。車のために来ていた方が、暮らしのことでも関わってくださるようになる。給油の価格だけで選ばれる関係から一歩出るきっかけになり得ます。
継続課金モデルの魅力
宅配水のような事業の大きな特徴は、一度契約すれば継続的に取引が続く点にあります。燃料の販売は、来店のたびに売上が立つものの、その都度の競争にさらされます。これに対し、定期的に届ける仕組みは、安定した収益を積み上げやすい性質を持っています。
継続的な取引は、収益の見通しを立てやすくするだけでなく、顧客との関係を保ち続ける効果もあります。定期的に届ける接点があれば、その折々に車の相談を受けたり、他のサービスを案内したりする機会も生まれます。一度きりで終わらない関係を築けることが、継続課金モデルの魅力です。
毎月決まった収入が入ることの価値は、金額の大きさだけではありません。来月がどうなるかがある程度読めることそのものが、経営の判断を楽にします。人を雇う、設備に手を入れるといった決断は、見通しがあって初めてできるものです。
ただし、読めるということは、減り始めたときにも早く分かるということです。件数の推移を毎月見る習慣がないと、この利点は活きません。増えた減ったを記録し、減っているなら理由を確かめる。これを続けて初めて、安定した収入源になります。
既存の配送網や顧客基盤を生かす
宅配水のような事業を始めるうえで、ガソリンスタンドには生かせる資産があります。灯油の配達などで培った配送の仕組みや、地域を回るなかで築いた顧客との関係は、そのまま新しい事業の土台になります。ゼロから配送網や顧客を開拓する事業者に比べ、有利な立場にあります。
生かせる主な資産
- 灯油配達などで培った配送の経験
- 地域に広がる既存の顧客との関係
- 日常的に顔を合わせる接点
- 地域に根ざした信頼と知名度
こうした資産を生かせば、新規事業の立ち上げにかかる負担を抑えられます。とはいえ、扱う商品が変われば必要な知識や手間も変わります。既存の強みを土台にしつつ、新しい事業に固有の要件を丁寧に押さえることが大切です。
すでに何かを配って回っている店であれば、その順路に重ねられるかを考えてみてください。同じ方面に向かうのであれば、増える手間は思ったより小さくなります。逆に、まったく別の方向に新しく回ることになるなら、負担の見積もりは大きく変わります。
順路を考えるときは、地図の上だけで判断せず、実際に一度回ってみることをおすすめします。停める場所があるか、玄関まで運べるか、留守がちな時間帯はいつか。こうした事情は現場でしか分かりませんし、これが日々の負担を決めます。
本業との相乗効果
新規事業の併設は、それ自体の収益だけでなく、本業への好影響も期待できます。宅配水を届ける折々に顔を合わせれば、車検や整備、乗り換えの相談を受けやすくなります。逆に、給油で来店した顧客に宅配水を案内するなど、双方向の流れも生まれます。
大切なのは、新規事業と本業をばらばらに考えず、互いを支え合う関係として設計することです。顧客接点が増えるほど、そこから本業へ、あるいは本業から新規事業へと需要が行き来します。こうした循環を意識することが、併設を単なる寄せ集めで終わらせないための鍵になります。
始める前に押さえておきたい留意点
一方で、新規事業には固有の難しさが伴います。宅配水であれば、商品の仕入れや在庫、品質の管理、配送の体制など、燃料とは異なる手間が生じます。既存の人員で無理に回そうとすると、本業がおろそかになりかねません。始める前に、体制が回るのかを見極めることが欠かせません。
また、継続課金は安定を生む一方で、契約を維持し続ける努力も求められます。解約を防ぎ、満足を保つには、こまめな対応や品質の維持が必要です。始めやすさだけを見て安易に手を広げると、想定外の負担を抱えることもあります。どの事業が自社の強みと噛み合うのかを、慎重に見極めることが大切です。
置き場所の確保も、意外に見落とされやすい点です。届ける品を店に保管することになりますから、そのぶんの場所が要ります。給油や整備に使っている場所を削ることになるのか、空いている場所で足りるのか。件数が増えたときの量まで見込んで考えておきましょう。
また、扱う品の性質上、保管の仕方や取り扱いについて守るべき事柄があります。何をどう守るべきかは扱う品や仕組みによって変わりますので、提携先や所管の窓口に、自社の保管方法を具体的に伝えて確認してください。
自社に合うかを見極めるために
宅配水などの新規事業の併設は、顧客接点を広げ、安定した収益と本業への相乗効果を育てる打ち手です。しかし、扱う商品や地域の需要、担い手の余力によって、向き不向きは分かれます。まずは自社の資産と制約を整理し、どの事業がふさわしいかを見極めることから始めましょう。
私たち株式会社フォーバル 自動車アフターマーケットチームは、ガソリンスタンド(SS)業界に特化して経営を支援しています。どんな新規事業が自社に合うのか、既存の強みをどう生かすか、相談無料・秘密厳守で一緒に考えます。顧客接点を広げる一歩を、無理なく踏み出せるよう伴走します。
見極めの目安の一つは、自社が今、決まった周期で何かを続けられているかです。定期的な連絡、決まった日の作業。こうしたことが仕組みとして回っている店であれば、この事業も回せる可能性が高いといえます。続ける力があるかどうかが問われる事業です。
もう一つは、始めた後にやめる判断ができるかです。継続していただいている方がいる以上、途中でやめるのは簡単ではありません。始める前に、どういう形なら無理なく引き受けられるのかを、提携先とよく話し合っておくことです。
売る仕事ではなく、届け続ける仕事になる
この事業でいちばん大きな変化は、商売の性質が変わることです。その場で売って終わりではなく、決まった周期で届け続けることになります。契約をいただいた時点が終わりではなく、始まりだという点を、最初に押さえておく必要があります。
届け続けるということは、こちらに義務が生まれるということでもあります。約束した日に届かなければ、お客さまは困ります。天候が悪い日も、人が足りない日も、届けなければなりません。給油の営業とは、この点で負っているものが違います。
だから検討にあたっては、どれだけ売れるかより、どれだけ届け続けられるかを先に見るべきです。無理なく回せる件数の上限を把握し、そこを超えないように増やしていく。取れるだけ取ると、あとで自分たちが苦しくなります。
配る仕事が、本業の手を取っていく
件数が増えるほど収入は安定しますが、同時に配る手間も増えていきます。しかもこの手間は、店にいながらできる仕事ではありません。誰かが店を離れて回ることになり、そのあいだ店の人手は減ります。
始めたばかりで件数が少ないうちは、手が空いた人が回れば済みます。ところが件数が増えると、それでは回りきらなくなります。多くの場合、この移行はゆっくり進むため、気づいたときには本業の現場が手薄になっています。
対策としては、何件を超えたら回り方を変えるのかを、あらかじめ決めておくことです。専任を置くのか、回る日をまとめるのか、外部に頼むのか。増えてから考えるのではなく、増える前に決めておくほうが、慌てずに済みます。
やめる方が出ることを、前提に置く
継続していただく形の事業では、新しく契約していただく数と同じくらい、やめる方の数が結果を左右します。増やすことばかりに目が向きがちですが、抜けていく分が大きければ、いくら増やしても総数は伸びません。
やめる理由は、多くの場合、商品への不満ではありません。使う量が思ったより少なかった、置き場所が邪魔になった、生活が変わった。こうした事情が中心です。つまり、始めていただくときの説明が実態に合っていたかが、後になって効いてきます。
だから、無理にすすめて件数を伸ばすと、後で必ず戻ってきます。使い方が合いそうかを一緒に考えたうえで始めていただくほうが、結果として長く続きます。この事業では、契約の数より、続いている期間のほうを見るべきです。
既存のお客さまとの関係を、どう使うか
この事業を併設する意味は、すでにお客さまとのつながりがある点にあります。まったく面識のない方に案内するのと、いつも給油に来てくださる方にお話しするのとでは、聞いていただけるかどうかがまるで違います。
ただし、この関係は使い方を誤ると失います。給油に来られるたびにすすめられるようになれば、その方は店に来ること自体が煩わしくなります。本業のお客さまを失ってまで得るものではないことを、現場と共有しておく必要があります。
望ましいのは、あることが分かる状態にしておいて、関心を持たれた方にきちんとご説明する形です。声をかける回数を競うのではなく、聞かれたときに答えられる準備をしておく。地味ですが、この形のほうが長い目では件数が伸びます。
引き継ぐときには、契約そのものが資産になる
承継の場面では、継続していただいている契約は分かりやすい価値として見られます。毎月いくらの収入が見込めるかが読めるためです。件数と継続の状況が分かる形になっていれば、そのまま説明の材料になります。
逆に、記録が担当者の手元にしかない場合は、価値として示しにくくなります。誰がいつから契約されていて、どの周期で届けているのか。この情報が店として管理されているかどうかが、そのまま評価の差になります。
あわせて、配る仕事を誰が担っているかも問われます。特定の人がすべての配達先を把握している状態だと、その人が抜けたときに事業が止まります。回る順路や、それぞれの家の事情までを共有しておくことが、引き継げる形をつくります。
まとめ
宅配水をはじめとする継続課金型の新規事業の併設は、既存の配送網や顧客基盤を生かして顧客接点を広げ、安定した収益を積み上げる打ち手です。本業との相乗効果を設計できれば、給油の枠を超えて暮らしを支える存在へと役割を広げられます。
一方で、商品の管理や配送の体制、契約の維持など、始める前に押さえるべき点も少なくありません。自社の強みと噛み合う事業を見極め、無理のない体制で始めることが大切です。判断に迷うときは一人で抱え込まず、業界に精通した専門家に相談しながら進めていきましょう。